18.大きな大きなポップコーン
「どけ」
ニーノの冷たい声がする。
「うわ! 何ですか?」
振り向くと、ニーノが大きな葉っぱを持っていた。システーナと鍋の縁から飛び退くと、大きな葉っぱを石鍋に置く。
「あ! これ、蓋です!」
一枚の大きな葉っぱじゃなくて、落ち葉をいくつもつなぎ合わせて大きな蓋に仕上げたんだ。
「ニーノが作りましたか?」
「そうだ」
「おおおー!」
よく考えると、ニーノって私の服を作ってるから、裁縫が得意なのかも。
「葉っぱで蓋ってできますか?」
「――持ち上げてみろ」
縁に指を掛けて持ち上げようとしたけど、思ったより重い。
「おおおーすごい」
ニーノは頷いて、ジュスタを振り返る。
「火を」
「はい」
ジュスタはにっこりして、釜の下に向かった。
――火をつけるのじゃ! はじけ菓子じゃ!
お屑さまがぴこんぴこんする。
――はじけがしとは何じゃ? なぜたくさんは喜ぶのじゃ?
――たくさんではないのじゃ! お屑さまじゃ! はじけ菓子とはぽんぽん、ぱんぱんと弾けて、ふくらんで白くなって、わしの軽やかなボールとなるのじゃ!
お骨さまは口が半開きになってる。
――友よ。見ておれ。すぐに分かるのじゃ。
竜さまがちょんっと頭を上げて、お骨さまの口を閉じさせた。
――おお! 見るのじゃ! はじけ菓子はぽんぽん、ぱんぱんじゃ。たくさんのボールなのじゃ!
――そうじゃ! はじけ菓子はたくさんのボールなのじゃ!
また会話が渦巻いてる。
咳き込みながら、ジュスタが釜の下から出てきた。
「火がついたから、離れてるんだよ」
「はい!」
ペロはジュスタについて行く。システーナは砕かれた葉をむしゃむしゃしようとするスーヒを引っ張って、鍋から離す。スーヒはふんす、ふんすと鼻息を上げてる。お腹空いてるのかな?
――ニーノ、これからどうするのか?
竜さまの問いに、ニーノは姿勢を正した。
「しばらく待ちます。熱が十分に上がると、中のトウモロコシが弾けます」
――おお! なにやら面白いのじゃ。
お骨さまが首を上下に振って、竜さまが頭を少し低くする。
――ニーノはヒナが大きくなると、この菓子を作るのである。
――菓子とは何じゃ?
――菓子とはヒトの食べ物の一種なのじゃ! ヒトはなぜか食べ物にいろいろの区別をするのじゃ! 決まったタイミングで食べる物はご飯や飯なのじゃ! 菓子はそれ以外で食べるのじゃ! 特別な味わいらしいのじゃ! 滋味ではないのじゃ!
「おお、お屑さま、すごい」
お骨さまは首をかしげる。ちょっと考えてるみたい。
――かしは食べ物なのじゃ!
分かったとばかりに、お骨さまは口を開ける。嬉しそう。
――うむ。その通りである。
――骨は大雑把なのじゃ! まったくの阿呆なのじゃ! ぽはっ!
お屑さまはぴこんぴこんした。
鼻先に漂ってきた匂いに目を見張る。
「あれ? ちょっとこげ臭いです」
「本当だ」
石の鍋に近寄ってみる。
「わ! ここからですよ! トウモロコシ、こげてますよ!」
「だいじょーぶなのかー? ニーノ」
ニーノは頷く。
「油がない。鍋に直接触れていればこげる」
「おおお」
ちょっとショックだ。
――どうしたのじゃ? はじけ菓子はできんのか?
お屑さまがぴこんぴこんする。
「いえ――」
ぼん!
「ふわぁ!」
ニーノの言葉をさえぎるみたいに、すごい音が響いた。
――何じゃ! 何じゃ!
お屑さまだけじゃなく、竜さまもお骨さまもビックリしてる。
「すっげー音だな!」
システーナもぽかんとしてる。ントゥがわんわん吠え始めた。
ぼん! どん!
音が立て続けに響いてくる。
花火大会みたいな迫力。
――ぽ、ぽ……。すごい勢いなのじゃ! 少し怖いのじゃ!
――怒っておるのじゃ! 友よ、トウモロコシが怒っておるぞ。ぼん、ぼん、なのじゃ!
お骨さまが竜さまに訴える。ントゥは毛を逆立てて、怒ってる。
――友よ、トウモロコシは怒っておらぬ。これがはじけ菓子である。
ントゥはお骨さまの頭からぴょんっと飛び降りて、石鍋の近くに来て、吠え立てる。
――ントゥ、大丈夫なのじゃ。トウモロコシは怒っておらんのじゃ。
お骨さまが声をかけるけど、ントゥは鍋の周りを走って吠えるのをやめない。
ぼふ!
「おおお! 蓋が浮きます!」
大粒トウモロコシがぶつかって、葉っぱの蓋が跳ねた。ントゥはぴょんっと後ろに下がる。耳が後ろにぺったり。
「やべえ!」
システーナが蓋の端に乗った。ジュスタも逆の端を押さえる。
――おお! 友、トウモロコシは元気なのじゃ!
――うむ。何よりである。
お骨さまは楽しくなったのか、首を縦に振ってる。竜さまはひょい、ひょいっとうまくよける。いろんなことが起こってて、見る場所が多くて忙しい。
音はどんどん激しくなる。花火大会の最後みたい。
――ぼん、ぼん! ぼん、ぼん!
音に慣れたお屑さまは、ぴこんぴこん喜んでる。
ペロはぼんっと鳴る度に固まるから、さっきから同じ場所で動けない。ントゥは耳ぺったりのまま、ぎゃーって鳴いてる。スーヒは姿が見えない。
二人がかりで押さえてた蓋が浮かばなくなった。
音がしなくなって、ジュスタが蓋から飛び降りる。鍋の下に回って、火を消しにかかったみたい。動けるようになったペロが、ジュスタのほうへすささっと走った。でも、鍋が熱いのか、近づけない。
「これで、もう熱くなりません」
顔を煤だらけにしたジュスタが出てきて、ペロが周りをぐるぐる回る。
「よーしっ! じゃ、蓋開けっぞー!」
システーナが蓋を取る。
「おおー!」
――おおー!
――お、お!
お骨さま、お屑さまも声を上げた。
真っ白にふくらんだ大きなポップコーンが、石鍋からあふれそう。
「ペロより大きいよ!」
システーナが投げてくれた一個は、抱えても向こうで両手が触らない。
――なんとも白いのじゃ! 大きいのじゃ! こんなに大きくては、わしのボールではないのじゃ! ぽはっ! 大きいのじゃ!
お屑さまは驚いて、大興奮。
――すごいのじゃ! はじけがしはぼん、ぼんじゃ! 白くて大きいのじゃ!
きょきょきょきょきょ
木の向こうから、お骨さまが羽を振る音が聞こえる。
――なんとも驚いたのじゃ。
竜さまが金の目をぱちくりした。
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