17.大きな鍋
遅くなりました。
ニーノが見つけた岩にみんなで向かう。
「昨日、葉はあらかたどかしておいた」
先に立つニーノとジュスタがトウモロコシを持ち、私はシステーナの背中で運んでもらう。ペロとスーヒはトウモロコシの皮製の箱に入れられて、竜さまの背中に乗ってる。竜さまとお骨さまが通れる場所を選んでたけど、途中で大きな木にさえぎられて、二人は入れなくなった。
――ぽはっ! 図体が大きいゆえ、山は不自由なのじゃ! ぽはっ!
お屑さまはシステーナの腕でぴこんぴこんする。自分の好きな方向に行けないのに、お屑さまは強気。
――友ならば、木を倒せるのじゃ。
お骨さまが竜さまを振り返った。竜さまは首を上げて、木の枝をうかがう。
――上に何かおるな。倒すのは気の毒である。
――うむ。気の毒なのじゃ。
会話する竜さまとお骨さまの背中を、ントゥがぴょんぴょん走り回ってる。夜の間に、竜さまに馴染んだみたい。スーヒとペロが入った箱の前で止まって様子を見てたけど、お骨さまに呼ばれたら、すぐに駆け戻った。
ひとまず、逃げ場のないペロが吠えられることはなさそう。よかった。
「岩はこの向こうです」
ニーノが飛び込んだ木の隙間に、竜さまは首を入れる。お骨さまは登れば通れると思うけど、竜さまと一緒にひょいっと木の間に首を差し入れる。まねっこだ。
システーナはお骨さまの首を足場に、木の向こうに入った。
「おー――こいつかぁ」
大きな岩の上にひらりとシステーナが乗った。私は背中から降りる。
幅が四メートルくらいの黒っぽい岩。上が平らで座りやすい。川の近くに転がってたら、みんなでピクニックしたい。
「どうだ?」
システーナは岩の端を見て回り、爪先で岩をとんとんと突く。
「ふっふーん。さすが、いい岩見つけてくんなー」
システーナが背中のつるはしを手に取った。
「あっと。危ねーから、お屑さま持って」
「はい」
腕輪を渡される。
――なんじゃ! 間近で見たいのじゃ! 何が起こるのじゃ?
「エーヴェも分かりません」
システーナが高々とつるはしを振り上げた。
がきんっ
耳と足下から伝わってきた音で体がしびれた。
がきん、がちんとシステーナが何度もつるはしを振るう。
「おお! がーんがーんシステーナです!」
――岩を掘っておるのじゃ! 力強いことじゃ!
体重と体のバネ、両方使って、リズミカルにつるはしが振り上げられ、振り下ろされる。振りながら、システーナは少しずつ移動してて、だんだん向こうの端に近づく。
平らだった岩にひびが入り、ひびが結びついて割れ目になり、砕けた石が飛び出して、ごろごろの石くれに変わっていく。
「石が邪魔だから、捨てちまって」
つるはしを振るう手は止めずに、システーナ。
木の根が作った斜面にトウモロコシを安置したジュスタが、ひょいっと岩の上に登り、石くれたちを外に投げる。
がん、がちん、がん
熱気を帯びたシステーナが近づいてくるので、安全な場所に避難した。
――シス! よいぞ! 腕が強いのじゃ! 岩が穿たれるのじゃ!
お屑さまの声援にシステーナは一瞬、にやっとこっちを見た。
システーナがこちらの端に戻ると、岩の端沿いにぐるーっと線が引かれてる。
「さー、あとは楽ちんだ」
がん! がん! がん!
「おおお」
線の内側を力任せに掘り返していく。比べると、さっきまでは丁寧に掘ってたんだ。
――シスは力持ちである。
竜さまの言葉に、システーナは嬉しそうに笑って、強いポーズを取った。
「遊ばず、さっさとやれ」
何種類かポーズを決めてると、ニーノが冷たく言い捨てる。
「ちょっとくれーいーだろー」
口を尖らせながら、システーナは岩掘りを再開した。
線の中が掘られて、石くれをのかすと、何を作っているか分かる。
「鍋です!」
岩の縁を残して、中をくりぬくつもりだ。
「そーそー。あと三周くらいな」
システーナはにやにやして、また縁の線を深くしていく。
「すごい! システーナ、道具も作ります!」
「つるはしが一本しかないのもあるけど、大きい物はシスさんに任せたほうがうまくいくよ」
石くれを外に投げる手を止めて、ジュスタがシステーナの様子を眺める。
「木と一緒で、岩にも加工しやすい方向や壊すと全部が壊れる場所があるんだよ。シスさんはよく知ってる」
「おおー! シスすごい!」
――違うのじゃ! シスはあんまり考えぬのじゃ! 力任せなのじゃ! ぽはっ!
お屑さまがぴこんぴこん主張すると、システーナがあっけらかんと笑う。
「そーだぜー! 考えるより、たたいたほうが早えかんなー! ジュスタはいろいろ考えっよなー!」
ジュスタはちょっと苦笑して、石くれ投げ出し作業を再開した。
「はー――あっちーあっちー」
汗だくになったシステーナに風を送る。システーナはすごい勢いで岩を掘り抜いて、深い鍋を作り上げた。底に足があって、下から火を焚く形だから、釜に近いかもしれない。
「はい! シス、水だよ!」
「ありがとなー!」
――シスがいつもより熱いのじゃ! 火のようなのじゃ!
「ペロもちょっと手伝ってくれ」
釜の下に砕いた葉っぱや枝を運んでいたジュスタが、システーナの頭にペロを乗せる。 作業の時間が長くなったから、お骨さまが竜さまの背中の箱を岩の側に降ろしてくれた。それで、スーヒやペロはさっきから葉っぱの上で遊んでる。
ントゥはスーヒやペロを見てはっとした顔をしたけど、お骨さまの上にいるほうがいいみたいで、こっちには降りてこない。
「おー、ペロ、ひやっとすんぜー」
ペロはシステーナの頭の上でしばらくうようよしてたけど、熱すぎたのかぽてーんと落ちた。離れた葉っぱの上でリラックスモードになる。
――ペロも涼んでおるのじゃ。
水を飲み終えたシステーナはバターンとひっくり返ってしまった。
「エーヴェ、トウモロコシを房から外すぞ。手伝え」
呼ばれて、トウモロコシに駆け寄る。
ニーノは大きな粒をひねるようにして、次々房から外していく。私も粒に手を掛けて回してみた。
「おお、強い」
意外と固くて動かない。でも、力を込めていると急に動き、一度回るとくるくると簡単に回った。最終的に、すぽんと抜ける。
「面白ーい!」
――これも蜜のように甘い色なのじゃ! はじけ菓子なのじゃ!
お屑さまは、ボール遊びにならなくてもはじけ菓子を作るのはワクワクしてるみたい。
ニーノが十外す間に、二、三外すペースで、トウモロコシを全部外し終わった。大きなトウモロコシの粒が山をなしてる光景はなかなか見物だ。ペロも見物に来て、はち切れそうになりながら、トウモロコシを飲み込む。
ペロはどんなに薄くなってもペロなのがすごい。
しばらくして、ぬるんと吐き出す。
「では、鍋に入れるぞ」
「はい!」
ジュスタと元気になったシステーナも加わって、トウモロコシを鍋に運び入れる。
――何度も行ったり来たりなのじゃ。おもしろいのじゃ。
――うむ。これが働くということである。
お骨さまと竜さまが分別くさい話をしてる。
大きな石鍋の下から三分の一くらいまでトウモロコシが入った。ペロがやって来て、石鍋の中に落ち、トウモロコシの上を歩く。
「エーヴェも降りてみたいです!」
「そっか。おちびは中に入ってなかったな」
システーナが抱えて一緒に降りてくれる。
「おおー! 深い!」
「よっし! ニーノ! 火ぃつけろ!」
システーナがぴょんと鍋から飛び出して叫ぶ。
「なんと!」
ペロと二人でポップコーンになっちゃう!
慌てて縁に手を掛けようとするけど、手の先しか掛からない。
「ニーノ! 火をつけちゃダメですよ!」
「遊ぶな。早く出ろ」
ニーノの声が聞こえる。ジャンプして、縁に手を掛けて、壁を蹴りながら登っていく。でも、途中で力尽きた。
「むー!」
システーナは上でにやにやしてる。ペロはのそのそ壁を伝って登っていく。一人で縁にたどり着いた。やっぱりペロは薄情だ。
「エーヴェだけポップコーンです!」
むっとして地団駄踏んだ。
「……あ!」
足下を見て気がつく。
周りのトウモロコシを拾い上げ、壁際に積み重ねた。
トウモロコシで足場を作ればいい。
「はい! 外に出ましたよ!」
案外、足場がぐらぐらして時間がかかったけど、壁の上に身を乗り上げられた。
「はっはー、おちびは賢いな」
システーナが頭をぐりぐりする。
――うむ。童は賢いのじゃ。
お骨さまにもほめられて、にこにこした。
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