16.たくらみ顔の大人たち
森はすっかり真っ暗だけど、木の上だと葉っぱの間からちょっとだけ星明かりが見える。
――友のたてがみは、ふわりと光ってきれいなのじゃ。
――友の骨も白くてきれいである。
――むーふっ。わしも友もきれいなのじゃ!
枝のはるか下から、お骨さまと竜さまのお話が聞こえてくる。とっても仲良しな会話で、システーナとにこにこだ。
「すごいですねーお骨さまが邸に来ます!」
「すげーなー! んで、嬉しいな」
システーナはにーっとしながら、大きくなった火で湯を沸かし始める。
ぽこぽこ泡が出始めた湯に、何かを折ってぱらぱら落とした。
「それ、なんですか?」
「いろんな粉と塩を混ぜて固めたやーつ。簡単にスープができんだよ」
「おお」
携帯食料。確かに、システーナはいちばん使いそう。
「あたしはいろんなとこ行くかんな。簡単に食えっもんニーノと考えたんだぜ」
「ほー!」
ニーノ、そんなこともしてたんだ。
「ジュスタとニーノ、はやく帰ってくるといーね」
「飯ができるまでには、戻ってくんだろ」
二人の姿を探して、きょろきょろ見回す。
すぐ近くで、蓋をのせたペロがリラックスモード。スーヒがコケの匂いをかいで、ちょっとかじってる。そういえば、穴の中ではコケを食べてたんだっけ?
「スーヒ、コケ食べませんよー! また光るかもしれません」
――ここのコケは光っておらんのじゃ! じゃが、食べないほうがいいのじゃ!
スーヒは高速で口に入れたコケを、高速で吐き出す。
……美味しくなかったのかな?
「甘ーい匂い! スープできました!」
スープはとろみがあって黄色くて、コーンスープみたい。
「パンをひたして食べんだよ」
「おお! 美味しそう!」
早く二人帰ってこないかなー。
――シス、二人は何を探しておるのじゃ?
お屑さまがぴこんぴこんしたとき、ペロがぷるっと動いた。
「……あ! ペロのぺちょです!」
久しぶりにペロが跳ねた。そのまま、すささっと走り出す。
「ペロー?」
目で追ったら、暗い枝の先へ消えていく。
「――わ? ペロ?」
声が聞こえて、その場で飛び上がった。
「ジュスタです!」
暗闇の中から、ゆったり誰かが姿を現す。
「おおおー! ジュスタ!」
「ただいまー」
「おかえりー!」
駆け寄って、ジュスタの背中にある物にビックリする。
ジュスタよりも背が高い大きなトウモロコシ。十房くらいある。あと、その上にペロ。
「とーもろこし!」
「そうだよ!」
ジュスタが明るい笑顔になった。
「おー見つかったかー」
「はい、なんとか」
ジュスタが枝の上にトウモロコシを積み上げた。ペロはトウモロコシの上を行ったり来たりしてる。
――大きなトウモロコシじゃ! これを探しておったのか! 大きいのじゃ!
「これ、どうしますか?」
「もう一つが見つからないと、できるかどうか分からない。――でも、ニーノさんが戻る前に、皮をむいておこう」
「おお! エーヴェもやるよ!」
ジュスタがトウモロコシの房をつかんで、私は皮を逆向きに引っ張る。普通のトウモロコシと同じで、何重もの皮の下に、つやつやの実が現れた。
実の一粒も大きい。アメリカンサイズのハンバーガーみたい。食べたら顎が外れちゃう。
「トウモロコシも大きくなります」
「ホント、変な森だよなー」
システーナもトウモロコシをむきながら、ゆったり笑った。
トウモロコシの皮はけっこう固い。むき終わって、とってもお腹がすいたので、夕ご飯を食べた。
それから、しばらく待ったけど、ニーノは戻って来ない。
「まー、ニーノは心配要らねーから、寝ちまおうぜ」
「はい! おやすみー、りゅーさまー!」
――うむ、よく休むのじゃ。
竜さまの声を聞いて、毛布でぐるぐる巻きになって眠った。
何か声が聞こえる気がして、目を開ける。
「よかった。見つかりましたか」
ジュスタの声。もぞもぞ体を起こした。
「見つかったが、何も保証はできん。……起きたか」
「ニーノです! おはよー」
周りは薄暗いけど、鳥の声が聞こえる。きっと朝になってるはず。
「ニーノは何見つけましたか?」
毛布をバサバサしながら側に寄ると、ニーノが無表情に見下ろしてくる。
「岩だ」
「岩」
何に使うのか、さっぱり分からない。
「ニーノは夜通し動いて腹減ってんだろー? 飯食いながら話そーぜー」
昨夜の残りで朝ごはんになる。
煮詰まったスープがシチューみたいになって、パンにぴったり。
――何を作るのじゃ? ジュスタ、早う説明するのじゃ!
ご飯に関係ないお屑さまが、ぴこんぴこん急かす。
ジュスタはにっこりした。
「はじけ菓子を作ろうと思うんです」
「はじけ菓子!」
――わしの軽やかなボールじゃ! 皆でボール遊びなのじゃ!
お屑さま、大興奮。
「いいえ、ボール遊びはしません」
――なんじゃと!
お屑さま、がっかり。
「じゃー食うのか?」
システーナが首を傾ける。
「いえ。竜の骨は空洞があるでしょう? 端をはじけたトウモロコシでふさいだらどうかと思って」
「なんと!」
ポップコーンで、穴をふさぐ! 斬新!
システーナがパンにスープをぬって、口に運ぶ。
「はじけ菓子は軽りぃけどよー、雨にぬれたらしぼみそーだぜ?」
「雨よけと虫よけはするつもりです」
「ほーわー! 面白いです!」
発泡スチロールみたいな感じかな?
――ボール遊びがないのは全然面白くないのじゃ! じゃが、ちょっと面白いのじゃ! トウモロコシは、はじけ菓子になるのじゃ! む? ならば、岩は何じゃ?
「トウモロコシをはじけさせるには、熱を加える鍋が必要です」
ニーノが言って、システーナを見た。
一つ瞬きして、システーナがにやっとする。
「なーるほど、あたしの出番か」
――なんじゃ、なんじゃ?
「なんじゃ?」
お屑さまと一緒に、みんなの顔を見渡す。ニーノはいつも通りだけど、システーナとジュスタはにやにやしてる。
何の企みか分からないけど、ワクワクしてきた。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




