表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

214/300

15.境の森

遅くなりました。

 お骨さまはすいすい泳ぐけど、それでも砂漠はとても広い。

 竜さまとの待ち合わせの森はなかなか見えてこなかった。

 お骨さまの背中の上でお昼ご飯を食べたり、おくずさまとおしゃべりしたり、システーナに抱えてもらってお昼寝したり。

 いつの間にか、お日さまが地平線の近くに来る。でも、夕焼けは何かにさえぎられて、見えない。

「夕陽、見えません」

「いやー、ありゃ、見えてきたんだ」

 システーナが指さした。ぼんやりと壁が見える。

「おお! 木だ!」

 壁に見えたのは、何本も生えた大きな木。

 竜の座の端に生えてる大きな木が形作った森だ。

 ――なんとも大きな木なのじゃ。

「お骨さま、初めて見ますか?」

 ――初めてではないのじゃ。じゃが、こんなに近いのは初めてなのじゃ。

 お骨さまは尻尾を上げて、ゆらゆら振る。木はお骨さまより、二倍か三倍くらい背が高い。

「なんで座の端の森は、木が大きいですか?」

「なんでだろーな。他の場所だとあんなにでかくねーもんな」

 システーナが手をかざして森を眺める。

「他の場所?」

 ――座の端に住んでおる生き物は、座の中と大して変わらぬ! じゃが、たいそう大きくなったり、奇妙な形で生まれたりするのじゃ! 生き物の考えや暮らし方は中も端も変わらんのじゃ!

「ほー――」

 お泥さまの座から帰って来たとき、大きなムカデにあったけど、あのムカデは大きくなってるだけで普通のムカデってことかな?

 大きかったら、普通じゃないけど。

「じゃあ、何かのせいで大きくなってますか?」

 ――ふむ? おお! たぶんそうなのじゃ! 竜の近くにおらぬから、大きくなってしまうのじゃ!

「おぉう!」

 急にぐらりと揺れて、お骨さまの背中から放り出された。

 システーナがキャッチしてくれて、地面にぶつからずに済む。

 お骨さまが砂を見下ろしてる。

 ――砂の中に、木の根があるのじゃ。泳げぬ。

 砂から出て、お骨さまは歩き始めた。

「お骨さまー、りゅーさまいますか?」

 ――うむ。こっちじゃ。

 みんなで歩いて森に近づく。薄暗くなった空に、大きな森はちょっと不気味。

 またムカデが出て来ないか心配だ。

「おちび、離れんじゃねーぞ」

「はい!」

 システーナはのんびりと笑って、手を握ってくれた。


 大きな木の足下に着いたときは、日が暮れていた。木が大きいから、森は真っ暗だ。

 ――おお。木はわしより大きいのじゃ。

 ――隙間が狭いが、骨は通れるか?

 お骨さまは首を反り返らせて木を見上げる。

 ――大丈夫なのじゃ。

 ひょいひょいと根っこやでっぱりに足をかけ、お骨さまは木を登る。通り抜けられそうな隙間を見つけ、するりと森の中に入った。

「おおー!」

「お骨さまはほんっと身軽だなー!」

 システーナは目を細めて、私を小脇に抱える。

「行くぞ、おちび」

 ぐいっと体を深く沈め、ぴょーんと跳んでお骨さまを追った。

 ひょーいひょいとお骨さまは森に分け入っていく。

「お骨さま、こそばゆくないです」

「この辺りは下に草が生えてねーかんな。お骨さまはお腹ん中に何か入んのがくすぐってーんだよ」

 ――骨は体があった場所に何かが入るとくすぐったいのじゃ! 腹はいちばんくすぐったいのじゃ!

「そうですか!」

 確かに、この辺りは巨大な葉っぱが積み重なってるだけで、森に比べると物がない。

 洞の近くの森も木が高いところは下草がなくて静かな感じだけど、ちょっとでも光があったら、すぐさま緑ができる。ここはそんな緑もない。

 きょろきょろ見回してたら、大きな木の隙間から揺れる灯りが見えた。

「あ! 見て! りゅーさまのたてがみです! 光ってる!」

 ――友ー! 落ち合いに来たのじゃー!

 竜さまの首が、ひょいと大樹の間からのぞいた。

 ――友。エーヴェ、シス。着いたか。

「りゅーさまー!」

 久しぶりに会う気がして、システーナから飛び降りて、駆けつけた。胸に飛びつく。ふかふかの毛並みがいい気持ち。

 ――どうかしたのか、エーヴェ。

「この森はちょっと怖いです。りゅーさまは平気ですか?」

 ――平気である。

 さすが竜さま。頼もしい。

 ――友、何をしておるのじゃ?

 お骨さまは竜さまに首をぶつけて挨拶する。

 ――ニーノとジュスタを待っておる。なにやら、探し物らしい。

「探し物ー? 竜さま待たせてー?」

 素っ頓狂な声を上げて、システーナが宙に向かって話し始めた。

「おめーら、何やってんだ? ああ? ああ……」

 そうか、もう竜の座の中だから、ニーノやジュスタとテレパシーできるんだ。

 耳を澄まそうとしたら、目の前に何かが落ちてきた。

「おわっ! おお、ペロ!」

 飛び退いた大きな葉っぱの上を、ペロがのそのそ動いてる。お骨さまの尻尾から落ちてきたみたい。

「初めての場所だから、探検しますか?」

 ペロと歩き始めると、葉っぱの間から黒いかたまりが飛び出してきた。

「うわ! おお、スーヒ!」

 大きな葉っぱの隙間は地面の穴とおんなじで、スーヒはくぐって遊んでる。

「スーヒ、気をつけますよ! 大きいミミズがいるかもしれません!」

 竜さまのたてがみでほの明るいけど、森の中は暗い。しかも、ここはいろんな生き物が大きくなっちゃう森だ。

 周りをキョロキョロしてから、大きな葉っぱを滑り台にして遊んだ。


「おーい、おちび! ニーノたちはまだかかりそーだから、どっか寝る場所探すぞ」

「え! この森で寝ますか!」

 竜さまたちがいるとはいえ、森の底で寝るのはちょっと怖い。

 ――エーヴェとシスは木の上で休むがよい。わしらはここで構わぬ。

 ――ントゥもシスと一緒に行くのじゃ。

 お骨さまの上で耳をピンと立ててたントゥが、ぐるぐると尾をおいかけるみたいに回る。

「ントゥ、一緒に行こーぜ。森の底じゃー狩りできねーぞ」

 システーナが声をかけるけど、ントゥはお骨さまの上から動かない。

「仕方ねーな」

 軽く言って、システーナはスーヒとペロと私をかつぐとぴょーんと跳んだ。

 ――おお! シスが跳んだのじゃ! ぴょーんなのじゃ!

 ――うむ。シスはよく跳ねる。

 こっちを見上げてる竜さまたちに手を振ってる間に、枝の上に届いた。膝まで埋まるふかふかのコケに降ろされて、スーヒは物珍しそうに鼻を鳴らし、跳ねるみたいに歩く。

 しばらく固まってたペロは、急にすささっと走り出した。砂と違って沈まない。むしろ水玉はちょっと弾かれてるかも。

「ペロ、ちょっと嬉しそうです」

 まだちょっと残ってた砂を、ぴしぴし飛ばしてる。

「よーし、ニーノとジュスタが戻るまでに、飯の用意すっかー」

「はい! ニーノとジュスタ、何してますか?」

 システーナはコケを踏み固めて、炉を作る場所を作ってる。

「船の材料探してんだと」

「えー?」

 竜の骨がこんなにあるのに、まだ何かいるのかな。

「なーんか面白くなりそーだぜ」

 にやっとしたシステーナの瞳が、キラキラした。

評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。

是非、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] お骨さまの背中に乗って砂漠を泳ぐのも気持ち良さそうですね。お骨さまはずっと泳いでいて疲れないか心配でしたが、竜さまとの“落ち合う”イベントを楽しんでいるようで杞憂でした。 お骨さまはひとりだ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ