12.夕暮れかけっこ
ちょっと長くなりました。
骨はずいぶん集まった。先に着いたジュスタが骨を整理してて、システーナが頭蓋骨をパスする。
「ジュスター! 骨足りますか?」
「うん。十分だよ」
「おお!」
二人で拍手した。
――ぱちぱちじゃ。ジュスタとエーヴェは、嬉しいか?
お骨さまがのぞき込んでくる。
「嬉しいです! 骨がたくさん集まりました!」
――おお! それでは、今から遊ぶのか?
期待に満ちたお骨さまの様子に、私もわくわくしてくる。
「お骨さま、申し訳ありません。いったん食事と休息を取ります」
――うむ。エーヴェは顔が赤い。
竜さまに言われて、ほっぺたを触った。
「ちょっと熱いよ」
「日に当たりすぎたな。天幕に入っておけ」
「はい」
言われた通り、天幕に入る。留守番してるスーヒの姿が見えないけど、天幕の側に穴があるから、きっとあの中だ。
――人は日に当たると、赤くなるのか?
――そういうこともある。
――日の光で火傷をするのじゃ! まったく、人は弱いのじゃ!
竜さまたちは仲良くおしゃべり。やっぱりお屑さまは物知りだ。
「貴様らも天幕へ入れ。休むぞ」
「はーい」
システーナとジュスタが声をそろえた。
みんなで、甘辛スパイシーな豆のペーストをトウモロコシクレープに包んで食べる。暑さとスパイシーで、水がとっても美味しい。
天幕の陰に入ると、日の当たる砂漠は黄色く燃えるよう。
「これを顔や手に塗っておけ」
「お? なんですか?」
食事が済んだところで、ニーノに小さなガラス瓶を渡された。うっすら緑色で、中の液体が見える。蓋を取ると、すがすがしい匂いが広がった。森の木の匂いだ。渡された布に含ませて、顔にペタペタ塗る。
「わー! 気持ちいー!」
「貴様らも塗れ」
「別にいーよ」
面倒くさそうにしたシステーナに、ニーノの冷たい視線が飛んだ。
「塗れ」
「こーわっ!」
結局、みんなで顔にペタペタ塗って、天幕の下で寝転ぶ。顔や手がすっとして、気分がいい。
「エーヴェ、いっぱい働きました!」
「そーだなー」
満足感にひたって、そのままみんなでお昼寝した。
……わん! わん! わんわん!
少し高いイヌの声がする。
――こそばゆい! こそばゆい! 走るでない!
――ぽはっ! ぽはっ! ペロ、気をつけるのじゃ! 落ちてはならんぞ!
お骨さまとお屑さまの声に、ぱちんと目を開けた。
「お? 暗いです!」
空は深い青色で、砂漠はすっかり日が暮れてる。長いお昼寝だったみたい。
天幕から外に出ると、お骨さまの上をントゥが走り回ってた。
「あ! ペロー!」
ントゥが吠えたてているのは、蓋を乗っけたペロだ。かなりのスピードで追いかけっこをしてる。
「あっはっは! お骨さまの上の取り合いだぜー!」
日が落ちて、ペロはお骨さまの骨の陰から表に出た。そこで、くつろいでたントゥと鉢合わせしたみたい。
――エネックは耳がよいが、相手が水玉では気がつくまい! ントゥはびっくりして、怒っておるぞ!
――ペロも驚いておる。……ントゥ、ペロはわしのゆかりじゃ。友に害はない。
竜さまが口添えするけど、ントゥは怒って、ペロを追いかけてる。
――ントゥとペロがわしの上で遊んでおるのじゃ。こそばゆいのじゃ!
お骨さまはこそばゆがってるだけ。
うーん。竜さまに自分以外の誰かが乗ってたら、確かにびっくりするけど、怒るかな?
「おそらく、ントゥはペロがお骨さまの敵だと考えている」
「敵! ペロは避難してただけですよ!」
呼びかけても、ントゥは全然収まらない。
ペロは大慌てだけど、蓋しか持ってないから、つかまらずに逃げられてる。
「ペロ! ほら、ツボにお入り」
ジュスタがガラスのツボをお骨さまのほうに掲げた。
ツボが見えたのか、ジュスタの声を聞いたのか、すささっと骨伝いに走り回ってたペロが、あばら骨からぽてーんとツボに落ちてきた。
ジュスタがうまいことツボで受け止める。
「おお! 上手!」
ツボの中にペロはいそいそ戻っていって、かちゃんと蓋を閉じた。
ントゥはペロを追いかけて、砂に降りてくる。でも、ジュスタにも警戒してるみたい。遠巻きにうろうろして、吠える。
「大丈夫だよ。俺たちもお骨さまが大好きだから」
しゃがんだジュスタに、いつでも逃げられる姿勢で近づき、二メートルくらいのところで威嚇ポーズ。
「そうだよ! エーヴェはお骨さま大好き!」
――わしも皆が大好きなのじゃ。
ひょいひょいと跳ねたお骨さまを見上げて、ントゥはすこしリラックスした。
でも、次の瞬間、また耳をぴくりと立てる。
ぱっと天幕の横におどりこんだ。
鼻を出してたスーヒが慌てて引っ込む。
「わー! スーヒ!」
「あー! 見つかっちまったー!」
システーナがげらげら笑ってる。
体格的に、ントゥはスーヒの穴にもぐり込めそうだけど、警戒してるのか穴の入口で吠えてる。
ントゥはとっても攻撃的です!
――ントゥ、皆、竜の付き人なのじゃ。ケンカは要らないのじゃ。
お骨さまが首を垂れて、ントゥに近づく。
「……あ! ントゥはスーヒ食べませんか?」
怖い想像に、思わず声が小さくなった。
エネックは、穴の中に住むネズミを食べるって聞いたけど……。
――スーヒとエネックは住む場所が違うゆえ、食べられるか分からんのじゃ! どちらも穴掘りは得意なのじゃ!
お屑さまの説明はちょっとずれてる。
スーヒが少し離れた砂地から、ひょいっと顔をのぞかせた。
「スーヒ!」
よかった。あっちにも出口があった。
ほっとしたのも束の間、ントゥもスーヒに気がついた。
ばっと砂を蹴立てて、駆けだす。
スーヒもさっと逃げだし、二人は日が陰った砂漠の上で追いかけっこを始めた。
――ントゥ、待つのじゃ。ケンカしないのじゃ。
お骨さまも走り出す。
――おお! 地平線にちょっとだけ残った日が見えるのじゃー! ぽはっ!
広げた羽の先でぱたぱた揺れながら、お屑さまは物見遊山。
「スーヒー!」
追いかけて走り出したら、システーナが抱え上げてくれた。
「砂漠でかけっこだなー」
「おお!」
余裕たっぷりのシステーナにちょっと面白い気分になったけど、先頭のスーヒは一生懸命だ。
「追いかけっこはもう止めです!」
「待て待てー!」
――待つのじゃー!
お骨さまが砂煙を上げてントゥの前に回り込んだ。
激しい砂煙でおろおろして、ントゥはスーヒのことを忘れたみたい。
お骨さまの骨を伝って肩に登り、くるくる回って落ち着く。
こっちではまだまだ走ってたスーヒに、システーナが追いついた。
「スーヒ! 大丈夫だよ!」
追いかけてくるエネックがいないと知って、スーヒはぷるぷると体を振るう。珍しくシステーナの足下にすり寄って、鼻を鳴らした。とっても不満げ。
きゃ! きゃ!
顔を上げる。お骨さまの頭の上で、ントゥは誇らしげに鳴いて、伏せる。
――ントゥは元気なのじゃ。
――うむ。早めに皆と馴染むとよいな。
能天気なお骨さまに、竜さまが金の目を細めた。
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