11.豊かな砂漠
大きな骨の断面をのぞき込む。
中は空っぽ。白い壁越しにうっすら光が透けてる。
「本当に穴が開いてます」
潜り込めそうだけど、Uターンする広さはないから、ヤドカリみたいに足から入った。
段ボールハウスみたい。狭いけど、明るいから安心感がある。入口が遠くなって、秘密の小部屋感が増して、愉快。
「いーなー、おちびはー」
こっちをのぞき込んだシステーナが、ふてくされてる。
「うっふっふー!」
ニーノはぎりぎり入れるかもしれないけど、ジュスタやシステーナは無理だ。
「そうそう。そんな感じで入ってたんだよ」
ジュスタものぞき込んできた。ントゥは最初、この骨の中に入ってて、近づいたニーノとジュスタの前に飛び出してきたらしい。
「わんわん、ぎゃー――! ってすごい声で威嚇されて、ニーノさんの話も聞いてくれないから、とっても困ってたんだ」
「おお! エネックはわんわん吠えますか!」
――うむ! エネックは怒るとわんわん吠えるのじゃ! 喜んでおるときは、きゃ! と鳴くぞ! 警戒心が強いゆえ、エネック以外と一緒におることは、ほとんどないのじゃ! 骨と一緒におるのは奇妙なのじゃ! ぽはっ!
お屑さまが見えないので、骨からはい出す。
――あいさつをして、じっとしたのじゃ。とてもうまくいったのじゃ。
お骨さまは胸を反らして、尾骨で砂をかいた。
「お骨さまは素敵な竜さまです! 付き人になりたい生き物はきっといっぱいいます!」
両手を上げて主張したら、お骨さまは羽をばっと広げる。
――うむ! わしは素敵な竜なのじゃ。
ントゥは、好きに動くお骨さまの目のくぼみで腹ばいになってる。長い尻尾が風で揺れた。
日陰で休憩してるみたい。
「……でも、さっき、どうしてお屑さまを呼びましたか?」
ントゥとお骨さまが関係あるなんて、誰も分からなかったはずなのに。
「豊かな砂漠、大きな骨のイメージが、ントゥから伝わってきた」
豊か? 砂漠には似合わない言葉。
――ゆえに、骨のゆかりの者かもしれぬと思うたのだ。
お骨さまとントゥを眺めていた竜さまが、こちらを見る。
――ントゥは、わしのゆかりなのじゃ。
――うむ。なによりである。
竜さまの同意に、お骨さまはぱかっと口を開ける。嬉しそう。
「ントゥはりゅーさまにも吠えましたか?」
――うむ。がんばっておった。
「おおお! ントゥは勇気があります!」
竜さまがントゥに鼻を寄せると、ントゥはぴょんと跳ね上がり、お骨さまの肩骨の上に乗って、威嚇する。
――ントゥ。わしの友じゃ! 怖くないのじゃ。
お骨さまが竜さまの鼻先をぱくりとする。竜さまは顔をふるふるした。
――よい。じきに慣れよう。
私もントゥと仲良くなりたい。
「じゃー、この骨運ぶかー?」
システーナが頭蓋骨を地面から引っ張り出した。骨より、砂が重そう。
「お願いします。だいぶ集めたはずですから、一度戻って確認しましょう」
私が入り込んでた骨を、ジュスタが持ち上げる。
また最初のグループ分けに戻って、天幕に戻ることにした。
お骨さまの背中に頭蓋骨を乗せて、砂漠をすーっと泳いでいく。後から飛んだ竜さまが、頭上を過ぎたので手を振った。
――友の羽は大きくて立派なのじゃ。
お骨さまも、竜さまの姿を見送ってる。
――ぽはっ! 山も骨も、羽の大きさは変わらんのじゃ! お主らは似ておるのじゃ!
お骨さまの羽がたたまれてるので、お屑さまは今とても近い。
「似てる竜さまと似てない竜さまがいますか?」
――当然なのじゃ! 童は泥に会うたであろう! 泥と山は全然似てないのじゃ! わしと山も全然似てないのじゃ!
確かに似てない。お屑さまの本体は、何しろ首が九つもある。
「どうやったら似ませんか?」
――逆じゃ! 似るほうが珍しいのじゃ! 卵の周りの環境で、竜はそれぞれ、まったく違う姿で生まれるのじゃ! 環境が同じ場所など、普通はないのじゃ!
なるほど。じゃあ、おどろさまは卵のとき、水の近くにいたからオオサンショウウオ似になって、お屑さまは……どんな場所だったら、首が九つになるんだろう?
「じゃあ、りゅーさまとお骨さまは、似た場所で生まれました」
――うむ、そうなのじゃ。忘れたが、そうなのじゃ。
――骨はあほうで困るのじゃ! だいたい何でも忘れておるのじゃ!
お屑さまは不満げにぴこんぴこんするけど、お骨さまは全然気にしてない。
「そーいや、この骨はどんな竜さまなんだ?」
システーナが拾った頭蓋骨をとんとんたたいた。
――形は山と骨に似ておるな! おそらく、世界が滅ぶ前に死んだのじゃ! 直接会うたことはないが、知っておる! まだ五万日も生きておらぬ、幼い竜であるぞ!
「幼い竜さま!」
ちょっとショックだ。
――幼いのに、この骨には力を感じるのじゃ。わしより竜なのじゃ。
お骨さまが、すいっと砂丘を越えると。天幕がちらりと見えた。
「お骨さまより竜?」
――ぽはっ! お主はいろいろ奇妙なのじゃ! 竜の中でも珍しいのじゃ! 確かに竜というなら、この骨のほうなのじゃ! 幼くして死んだゆえ、竜の力が骨に残っておるのかもしれぬ! この辺りの砂漠が住みよいのも、この骨のおかげなのじゃ!
「へー――」
システーナは感心してるけど、ちょっと分からない。
「砂漠、住みよいですか?」
夜と昼が冬と夏みたいに違って、水もなかなか手に入らない場所だよね?
首をかしげると、お屑さまがぴこんぴこんする。
――童は不毛の地を見たことがあるまい! 不毛の地は、生き物の影も見えぬぞ! エネックが住むからには、ここはネズミや虫や植物がおるのじゃ! ずいぶん豊かなのじゃ!
「おお!」
豊かな砂漠って、そういうことか。
――着いたのじゃ。
お骨さまの声に、前を向く。
たてがみをなびかせた竜さまが、天幕の側でくつろいでる。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




