10.怒れる小さき者
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
竜さまがこちらに首を向ける。
――この小さき者が怒っておるのだ。
「小さき者?」
何とか見ようと、お骨さまの肩の辺りで伸び上がる。そのとき、お骨さまが羽をばっと広げた。
――おお! あれは!
ぐん、とスピードが速まって、慌ててお骨さまにしがみつく。
「お? なんですか? どうしましたか、お骨さま?」
――エーヴェ! 忘れておった。びっくりがあるのじゃ。
「ビックリ?」
「なーに忘れたんだよ、お骨さま」
システーナが聞いた頃には、竜さまのところにたどり着いてた。
「りゅーさまー!」
手を振ると、竜さまは一つ頷く。
竜さまの向こうの砂地に、丸い骨が砂から顔を出してる。ニーノとジュスタも竜さまの側で、丸い骨を見てた。
骨の上には小さな四つ足の動物。
「お? 何かな?」
「ありゃー、エネックじゃねーか?」
システーナは手をかざして目を細めた。
……エネック? 初めて聞いた。見た目はキツネみたい。長い尻尾は、ぼふっとふくらんでる。頭が丸く見えるけど、大きな耳を後ろに伏せてるんだ。
今、エネックは口を大きく開け、威嚇ポーズで全身こわばらせてる。
「……なんで怒ってますか?」
――分からぬ。
竜さまからの答えが届くか届かないか。
お骨さまが、砂から飛び出した。
――ントゥ! わしなのじゃ!
ばっと羽を広げたお骨さまを見て、白い骨の上のエネックはぴょんっと跳び上がる。威嚇の姿勢がとけて、耳がじわーっと立ち上がっていった。
キツネよりずっと大きな耳。先っぽが黒い。
エネックは足下を見て、お骨さまに鼻先を向け、また足下の骨をくんくん嗅ぎ、その場でぴょんっと跳ねる。
――骨! お主、このエネックを知っておるのか?
お屑さまの問いに、お骨さまは羽の先を見上げる。
――ントゥなのじゃ。わしの付き人なのじゃー!
「なんと!」
お骨さまの付き人!
……キツネ?
きょきょきょきょきょ……
お骨さまは羽をふるわせて、ひょいひょい跳ね始めた。
急な動きで放り出されたけど、システーナが拾ってくれて、無事に砂地に降りる。
――お主の付き人じゃと?
お屑さまがビックリしてる。
「お骨さまの付き人? ントゥ? は名前ですか?」
――そうなのじゃ! エーヴェに言われたのをやったのじゃ。
お骨さまは胸を反らす。
「あ! もしかして……」
――そうなのじゃ。ントゥにあいさつしてじっとしたのじゃ。ントゥはわしのそばに来たのじゃ。それから、一緒におるのじゃ。
「おおー!」
思わず、拍手する。
お骨さまに付き人ができたなんて、とっても嬉しい!
「よかったですねー、お骨さま」
笑顔のシステーナに、お骨さまは羽をふるわせる。
――うむ! わしのいちばんの付き人なのじゃ!
お骨さまが顔を近づけると、ントゥは鼻をくっつけ、ぴょんっと跳ねる。尾が波を描いて揺れ、四足全部伸ばすようにして、ぽーんと跳ねる。
「――嬉しそう?」
次の瞬間、ントゥは丸い骨からお骨さまの頭上に軽々と飛び移り、お骨さまの首の骨を駆け下りて腰骨の辺りまで行く。と思ったら、またぴょんぴょん頭の上に戻ってきた。
くるくると頭のてっぺんで回り、何度も何度も跳ねる。
――ントゥは元気なのじゃ。
お骨さまはひょいひょい跳ねるけど、ントゥは上手にバランスを取って頭の上に立ってる。尾っぽがうねうね動いて、機嫌が良さそう。
さすがお骨さまの付き人だ。
――友よ。だが、なにゆえ付き人と離れておった?
みんながお骨さまと小さなエネックの様子に気にとられてた中、竜さまが聞いた。
確かに、竜さまの言う通り。付き人は竜さまの側にいるのが仕事だって、ニーノも言ってる。
お骨さまは首をかしげ、ントゥはひょいっと首の骨に飛び移る。
――なにゆえ? うーむ。なぜじゃ? わしは友を驚かせようと思って、砂の中を潜って移動したのじゃ。
お屑さまがぴんっと伸び上がった。
――愚か者! 砂に潜っては、エネックは骨を追えぬのじゃ! それで、どこかに置き去りになったのじゃ!
「――エネックは、その骨に竜さまや私たちを近づけないようにしていました。察するに、その骨をお骨さまだと思っていたのでは?」
「さっきすごく喜んでたのは、動いているお骨さまに会えたからかもしれませんね」
ニーノの推測を、ジュスタが引き継ぐ。
みんなの視線がお骨さまに集まった。
――うむ! わしもントゥに会えて嬉しいのじゃ。
お骨さまは口を大きく開けて、どこか誇らしげだ。
全然分かってない。
「お骨さま! ントゥはお骨さまを探してました! お骨さまが潜って竜さまのところに来ちゃったら、ントゥはお骨さまがどこに行ったか分かりません! ントゥはとっても心配しましたよ!」
――その通りじゃ! 童、よく言った! 骨はあほうなのじゃ!
――なんと。ントゥは心配したのか? 心配はよくないのじゃ。
お骨さまは心なしうなだれ、しょんぼりして見える。
「いえ、付き人ならば、竜さまを追いかけるのは当然のこと。お骨さまに否はありません」
うわー! ニーノが竜さま絶対正しい主義を発揮してる。
「まー、ントゥは今はご機嫌みてーだぜ」
――うむ。友よ、改めて、そなたの付き人を紹介せよ。
竜さまの言葉に、お骨さまが首を持ち上げ、口を開けた。
――わしの付き人、ントゥじゃ! 元気なのじゃ!
お骨さまの頭の上で座り、ントゥは尾っぽをくねらせた。
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