9.竜のあくび
本年中はお付き合いいただきありがとうございました。来年もマイペースで続けていきます。よろしくお願いいたします。
みなさま、よいお年をお迎えください。
竜さまはゆったりとくつろいで、火を眺めている。金の目が、閉じては薄く開くのを繰り返す。もしかすると、眠いのかも。
お骨さまは竜さまの頭に頭を乗せようとしてよけられたり、お互いの尻尾の上に尻尾を乗せようとしたり、なんとか遊ぼうと試みてる。
「ありましたー」
天幕を離れてたジュスタが戻ってきた。肩に白くて長い骨を担いでる。背の三倍くらいあるから、ジュスタがとっても力持ちに見える。
「けっこう遠くまで飛ばされてましたよ」
――見つかって何より。
――なかなかに大きな骨なのじゃ!
お骨さまがキョロキョロと首を動かして、頭を傾ける。
――骨を探しておるのか? わしではないのか?
「探してました! お骨さまにとーっても会いたかったです!」
両手を上げて主張すると、お骨さまはぱかーっと口を開ける。嬉しそう。
――わしも会いたかったのじゃ! エーヴェ!
うっふっふー!
――それ以外に、竜の骨を集めに来たのじゃ。ジュスタが船を作る。
竜さまの言葉に、お骨さまがくるりと首をめぐらす。
――船? 知っておる。水に浮かぶ物じゃ。
お骨さまの羽の先で、お屑さまがぴこんっと伸びた。
――空飛ぶ船じゃ! 山の付き人がみんな入っても、空を飛ぶのじゃ!
――なんと! 空を飛ぶとは!
ふこぉぉぉおおおおお――……
突然響いた音にびっくりする。
大きく開けた口を、竜さまはばぐん、と閉じた。
――うむ。明日また探せばよいのじゃ。
竜さまが金の目をぱちぱちして、首を身体の横に置く。
今のはあくび? あくびだったのかな?
――友はもう寝るのか? ならば、わしも一緒に寝るのじゃ。
お骨さまは、竜さまに半分乗り上げるみたいにして、頭を降ろした。こそばゆいって言いながら、ずっと竜さまにくっついてる。
――まったく! 山は鍛錬が足りんのじゃ! もう寝ておるのじゃ!
お屑さまだけがぴこんぴこんした。
お屑さま以外静かになってしまったので、骨に視線を向ける。
「骨、大きいね! 軽いですか?」
近づいてしげしげ眺める。表面には編み目みたいな規則正しいでこぼこが微かにあって、岩とは違う雰囲気。
「持ってごらん」
「お?」
力を込めて、えいっと端を持ち上げる。
「――軽い!」
さすがに軽々じゃないけど、ツボ入りペロより軽いかもしれない。
「お、おちび、力持ちー!」
システーナが指笛を鳴らすので、得意になって肩に乗せた。
お、行けるぞ!
もう少し小さかったら、ダンベルみたいに頭上に掲げられたかもしれない。
「すごく軽いですよ! ジュスタ」
「うん。たぶん、中が空洞なんだよ」
ジュスタがこんこんと指の背で骨を打つ。
骨に耳を当てると、音が反響してるのが分かる。
「鳥の骨と同じだね」
「なるほどー!」
だから、とっても軽いのか。
「――それは問題だろう」
ニーノに軽く首をかしげる。
「手に入れたときの形のまま使うわけではない。加工したとき、断面に穴ができる」
「おお、そうです!」
真ん中に穴があったら、使える部分も限られる。
でも、ジュスタはにやっとした。
「実は、ちょっと考えてることがあるんです。それに、竹みたいに、穴があるからできる使い方もあります。なんとかなります」
「おおー! すごい! ジュスタ、かっこいい!」
「ありがとう、エーヴェ」
ニーノも頷いた。
「ま、今日は寝よーぜー! 明日から、骨探しだ!」
「わー!」
ぼふんと毛布巻きにされて、ゴザに転がる。
「おやすみー、おちび!」
「おやすみ、シス!」
低くなった目の前を、干し草のかたまりが通り過ぎた。
スーヒだ。自分で掘った穴に、引きずり込んでる。
「おやすみ、スーヒ! ニーノ! ジュスタ!」
「いいから寝ろ」
名前を挙げていこうとしたら、ニーノにさえぎられた。
翌朝から、本格的な骨集めが始まった。
――手分けをするか。砂漠を動くならば、お主のほうが得意であろう、友よ。
竜さまとニーノとジュスタ、お骨さまとお屑さまとシステーナと私で二グループに別れる。
――得意なのじゃ。たくさん骨を見つけるのじゃ。
すーいすーいと砂に輪をかいて泳ぎ、お骨さまはやる気いっぱい。たぶん新しい遊びだと思ってる。
ニーノが話をつけて、スーヒは天幕の番をすることになった。今は、穴の中から鼻をのぞかせてる。
そして、ペロは今、お骨さまの肩、直射日光が当たらないところにひっついてる。
夜明け頃、お骨さまの頭の上で光が反射してて、システーナが見つけた。
「ツボの蓋だけかぶってんぞ! あーっはっはっは!」
ツボから飛び出したとき、蓋だけは持って行ったらしい。リラックスモードに蓋を乗っけてて、サイズの合わないベレー帽か冠をかぶってるみたい。
「無事でよかったよ」
ジュスタは優しい。
――ペロ? それが頭におるのか? 全然見えんのじゃ。
起きたお骨さまがぶんぶん顔を動かしたけど、ペロはしっかりくっついて、お骨さまには見えない。
――うむ。ついておる。日に当たると消えてなくなるゆえ、大事にするのじゃ。
こっちも起きた竜さまが、こおぉおっとあくびをした。
――ほう! ふむ。分かったぞ。このちょっと冷たいのがついておればよいのじゃ。
お骨さまは首を高く上げ、ちょっぴり嬉しそうだ。
――たくさんも冷たいのもついておる。わしは立派なのじゃ。
尾っぽを振って、お骨さまは元気いっぱい立ち上がる。
――なんじゃ! わしはお屑さまじゃぞ!
お屑さまは、持ち上がった羽の先で、やっぱりぴこんぴこんする。
竜さまは空から、お骨さまは砂漠を泳いで骨を探す。お屑さまが言ってたことは本当で、確かにいろんな大きさや形の骨が散らばってる。
いくつか見つける度、スーヒの天幕に戻って骨を積み、また探しに行く。
日が高くなるにつれ、山も大きくなった。
……一人の竜さまに、こんなにたくさん骨があるんだ。
ぽやーっと眺めていたら、お屑さまがぴこんっと伸びた。
――む! なんじゃ! 山が呼んでおるぞ! 骨! 何か困っておるらしい。行くぞ!
竜さまからのテレパシーかな。
竜の座だと大人もテレパシーが使えるけど、座の外だと距離が離れるとダメ。でも、竜さま同士は話せるので、こんなときとっても便利だ。
――どっちに行くのじゃ?
と、お骨さま。
――こっちじゃ!
――こっちか?
――どっちを目指しておる! こっちじゃ!
「ちょい待ち、お屑さま」
お屑さまはぴこんぴこんするけど、お骨さまにくっついてるから、お骨さまの向きが変わると方向が変わる。
システーナが間に入って、腕輪をつけ、竜さまが呼んでいる方角に向かった。
――どうしたのじゃ! まったく、わしがおらぬと何もできぬのじゃ! ぽはっ!
お屑さまの声は聞こえるけど、竜さまの声は聞こえない。お屑さまがいばってるだけで、話は全然見えなかった。
――どうも、骨に触られたくないようである。
しばらくして、ふっと頭に響いた声に、目を見張る。
距離が近くなると、人にも聞こえるようになるのか!
えっと、骨があったけど、そこに何かいるってことかな?
――なにゆえ触れられたくないのじゃ? 竜の骨なのじゃ!
――分からぬ。じゃが、友に関わりあるかもしれぬ。
――わし?
身体をくねらせて、砂を泳ぎながら、お骨さまは首をかしげる。
――おお、友よ。近いな。
「あ! 見えたぜ!」
お骨さまの首に手を掛けたシステーナが、前方を指す。
白い竜さまのたてがみ。それと同じくらい白い、丸い骨。
目をすがめる。
骨の上に、小さな何かが乗っかってるように見えた。
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