8.ビッグイベント
砂地にゴザを広げ、天幕を張って、火を焚く。
ニーノとシステーナがご飯の準備。私はジュスタと器の準備をする。荷物は布で覆ってても砂が入り込むから、取り出して一つ一つ砂をぬぐう。
――シス! わしも二人と遊びたいのじゃ!
お屑さまの主張に、システーナは腕輪と竜さまたちを見る。
竜さまとお骨さまは、ちょっと離れたところで遊んでる。並ぶと二人ともほぼ同じ大きさで、大迫力。その上、尻尾と尻尾、首と首をぶつけ合う。お骨さまは骨なのに、バラバラにならないのがとっても不思議。
他にも、お互い噛むふりをしたり、追いかけっこをしたり。お骨さまのほうが身軽だから、雪に埋もれてる長毛種の犬と身軽な中型犬が遊んでるみたい。
「仕方ねーなぁ。――お骨さまー!」
システーナがぴょーんと跳んでいって、お骨さまの羽の先の細い骨に腕輪をはめた。
お骨さまは首をかしげて、ちょっと羽を揺らしてみる。
――おお! たくさんがわしにくっついておる!
――ぽはっ! わしはお屑さまなのじゃ! わしも遊ぶのじゃ!
――たくさんも遊ぶのじゃ!
お骨さまが嬉しそうに羽を震わせる。
――これ。あまり屑を振り回すでない。
――そうなのじゃ! ぽはっ! ぽはっ!
みんな楽しそうで、わたしまでわくわくしてくる。
「さぁ、食事にするぞ」
ニーノの声で、はっとして、天幕に集まった。
トウモロコシの粉を焼いたクレープに砕いたサーラスの干し肉と野菜の酢漬けみたいなのが巻いてある。砂をぬぐった器には、干し野菜とイモのスープ。
久しぶりのちゃんとしたご飯に、さらにテンションが上がる。
「いただきまーす!」
クレープはしょっぱいのと酸っぱいのが一緒になってるし、干し野菜スープはイモでとろみが出てるし、大満足だ。
「おいしーね!」
――さよーか、さよーか!
お骨さまの声に振り返って、口の中の物を噴きそうになった。
地面についた竜さまのお顔に、お骨さまの頭蓋骨が乗っかってる。
「りゅーさま! だいじょうぶですか?」
――大事ない。少しごつごつしておるだけじゃ。
ごつごつ!
――わしは、友のたてがみがこそばゆいぞ!
きょっ……きょっ……
お骨さまがゆっくり羽を揺らしたので、いつもとは違う変な音。羽の先ではお屑さまがパタパタはためいてる。
「りゅーさま、痛くないかな?」
ちょっと心配で振り向いて、びっくりした。
ニーノは姿勢正しく、システーナとジュスタはにこにこして、竜さまたちを見つめてた。
……半分、見とれてる。
「おお……」
だいじょうぶってことだな。
クレープを食べながら、竜さまたちを眺める。
竜さまとお骨さまが寄り添って砂漠に寝そべってる。
うっふっふー! とっても幸せな気分だ。
ようやく落ち着いたスーヒが、食べ物を求めて火の側に出てきた。
――そうじゃ、友! ぱっぱっ! きらきら! が見たいのじゃ。
急にお骨さまが顔を上げる。
そして、謎の言葉。
――ぱっぱっ、きらきらとは何じゃ? わしは知らぬのじゃ! 山よ! さっさとしてみせるのじゃ!
竜さまは地面に頭をつけたまま、お骨さまとお屑さまを見上げて瞬きを繰り返してる。
――うーむ。してもよいが……。
ゆっくり首を上げ、こちらを見て、竜さまは地面から身体を起こす。
――皆、ここにおるのじゃ。動いてはならぬ。
――おう、おう! よいぞ。
お骨さまは嬉しそうに、その場に伏せて羽を揺する。
竜さまは、ずむずむ砂丘を越えて行ってしまった。
砂丘の向こうに羽やたてがみが見え隠れする。
「りゅーさま、遠くまで行っちゃった」
――うむ。ぱっぱっ! きらきら! をやりに行ったのじゃ。
お骨さまがこっちを見て、嬉しそうに口を開ける。
「ぱっぱっ、きらきらって何ですか?」
――ぱっぱっ! きらきら! は、ぱっぱっ! きらきら! なのじゃ!
――骨はあほうじゃ!
うーん。お骨さまはらちがあかない。
「あたしは知らねー」
「俺も初めて聞いたよ」
みんなでニーノを見る。
「見れば分かる」
むー。唯一知ってそうな人は、答えません。
――皆、よいか?
竜さまの声が頭に響いて、背筋が伸びる。
「はい!」
――よいぞ!
――よいのじゃ!
お骨さまの尻尾がゆらゆら揺れ、お屑さまはぴこんぴこんする。
ずぁあああ――
間もなく地響きみたいなすごい音がして、空を見上げる。
星を隠す黒い霧が見えた。蚊柱みたいに細長く、うごめいてる。
「お!」
黒い霧の中心を、赤い光がまっすぐ駆け上った。
炎のかたまりかな?
照らされて、霧に見えたのが砂だと分かる。砂が、竜巻みたいに高く舞い上がってる。
ばりっと生木が引き裂けるような音がして、炎のかたまりが四散した。
「ふおぉ!」
「すげー!」
一気に竜巻全体が赤く輝き、燃え上がる。――砂は燃えるはずないのに、燃えた。
目がくらむ光は一瞬だけ。
暗くなった空に、きらきらと赤い小さな光が浮かび、すぐに砂漠に落ちる。
にわか雨みたいな音をさせて、赤い光は空から消えた。
「……きれー!」
ぴょんぴょん跳ねて、拍手する。
花火みたいだ! でも、スピードや光り方が全然違う。
――きれいなのじゃ!
お骨さまは砂漠から身を起こして、後ろ肢でひょいひょい跳ね回った。
「すごい。何だったんですか、今の?」
「すげーなー! さっすが、竜さまだぜ!」
ジュスタもシステーナも興奮気味に手を叩いてる。
「竜さまが砂で竜巻を作り、高温の息で一気に溶かした」
手を叩きながら、ニーノが言う。
「おおお! すごいです」
――友はすごいのじゃ。ぱっぱっ! きらきら! ができるのじゃ。
――竜の力なのじゃ! すごいのじゃ! ぽはっ!
お骨さまのうぉほっほに混ざりに行く。
「りゅーさまはーすごいのですー! 暗い空にー光の雨ー!」
――ほう。愉快である。
ずむずむ戻ってきた竜さまが、うぉほっほに金の目を細めた。
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