6.見ぃつけた
竜さまと遊びます。
竜さまの遊びは豪快だ。竜さまと一緒に砂丘を削りながら、滑る。竜さまが歩いた後にできる大きな足跡に落ちる。竜さまが羽で起こした砂嵐で、穴が埋まるのを眺める。
――山は砂を荒らしすぎなのじゃ! わしのように慎ましく遊べぬのか!
飛んでくる砂に、お屑さまがぷんぷんしてる。
「お屑さまは、どうやって遊びますか?」
――わしは輪になって砂丘をコロンコロンと転がるのじゃ! 優雅な上に、砂を荒らさぬのじゃ!
――九頭本体であれば、わしと大差あるまい。
竜さまは尻尾で、砂丘の頂上を平らにならしてる。
――今は屑じゃ! 美しいのじゃ!
お屑さまは誇らしげだ。
お屑さまが輪になって砂丘を転がるのを見てみたいけど、万が一、飛んで行ってしまったらとっても悲しい。
口には出さないでおこう。
「うわっ!」
足下をふわふわの毛が通り過ぎて、ビックリする。
黄色に見えるけど、あれはスーヒだ。いつものぼんやりが、どこかに飛んで行っちゃったみたい。あちこち駆け回って、穴を掘ってる。
反対にペロはすっかり引きこもり。天幕の下で、水が入ったツボになってる。
みんなすっかり砂まみれになって、満足した。
――うむ。もう少し行くか。皆、背中に乗るのじゃ。
竜さまの背中に登って、荷物やペロと一緒に固定される。
「今度は手の中じゃありませんか?」
背中の上のほうがわくわくするけど、どうして場所が変わったかは気になる。
――地面が砂では、空に飛び出せぬ。
「え?」
疑問を口にする前に、竜さまは、ずむ、ずむと動き出した。
羽を地面と水平に開いて、だんだん速度が速くなる。
「おおおー!」
飛行機の滑走とおんなじだ!
たてがみに、しっかりつかまった。
砂丘の尾根伝いに走って、いちばん高い場所に来た瞬間、竜さまは空に飛び出す。
放物線を描いて――落ちる、と見えた。
「おぉー――!」
砂漠のすれすれを飛んでいく。
「すごいです!」
砂丘に当たらないように、身体を傾けるのがかっこいい。ぼん、と羽を一打ちすると、ぐん、と高度が上がった。
速度も風も強くなっていく。砂が混じってるのか、ちょっと痛い。
――屑よ、方向はこちらでよいか。
――よい! 白い物を探すのじゃ!
システーナの腕で、ほとんど水平になびきながら、お屑さまが言い放つ。
――よし。少し高く飛ぶぞ。
竜さまが二回、三回と羽を動かすと、みるみる砂漠の景色が遠くなった。
*
背中側から日が射して、砂丘の色が赤みがかってきた。
夕方になっても、まだ骨は見つからない。
私の位置からだと、竜さまの肩越しに地平線近くの砂漠が見えるだけなので、骨探しは他のみんなの仕事。それに、ここから動くなと、ニーノに厳命されてる。
最初は竜さまのたてがみにかじりついてたけど、今はあぐら。荷物が支えになるので、ずっと力を入れてなくても平気なのだ。
「見つかんねーなぁ!」
「そうですねー!」
システーナとジュスタが声を掛け合ってる。二人とも風に負けないように、大声だ。
「骨、見つからないと、大変です!」
――まだ砂漠に着いたばかりだ。慌てるな。
――そうじゃ! わしの記憶は確かなのじゃ!
ニーノとお屑さまの声が頭に響いた。
――そうですね。
「ま、のんびり探そーぜー――!」
ジュスタはテレパシーで、システーナは大声で返す。
飛ぶ影が地平線まで届くくらい長くなった頃、竜さまが急に首の向きを変えた。
ぐいっと身体が振られて、慌ててたてがみにしがみつく。
「りゅーさま、見つかりましたか!?」
――どうやら。
「おお!」
「さっすが、竜さま!」
――見よ! わしは正しいのじゃ!
システーナとお屑さまが、噛み合わないけど盛り上がってる。
しばらく飛んだ後、竜さまは高度を下げ始めた。スピードもゆっくりになってるはずだけど、砂丘の側を過ぎるときは、とっても速く感じる。
四つの砂丘を旋回し、最後に砂地に突っ込んだ。
どっ……ざあああぁああ――……
砂をブレーキにして、竜さまが砂地を滑る。背後で巻き上がった砂が、滝みたいに落ちていく。
ひょいっひょいっと軽く身体が浮いて、止まった。
竜さまは羽をすぼめて、首を上げる。
――見つけたぞ。
すぐさま身体をくくったロープを解いて、竜さまの背中から降りる。
日の光はすでになくて、残照で砂漠が輝いていた。
――ぽはっ! 見つけたのじゃ!
「どこですか?」
竜さまが首を向けてる方向を、手をかざして見つめる。
百メートルくらい先、砂丘の半ばに長い物が顔を出してる。
薄暗い砂漠で、ほの白く光ってるみたい。
「あれだー!」
「おーありゃー、後肢の骨だ」
システーナの言葉を背中で聞きながら、走る。
「――貴様、あまり走るな」
肩越しに見ると、大人は竜さまの背中から荷降ろし中。
ニーノは眉をひそめてるけど、素早く行って、見なきゃ!
近づくと砂丘も骨も、思ったより大きい。
「岩みたいです!」
上り坂になって走るスピードが落ちたとき、ぐらっと骨が揺れた。
「――あれ?」
気のせいか、砂丘も揺れた気がする。
しげしげと見上げた砂丘が、もろ……もろ……と崩れ始める。斜面が揺らいで、骨がぐらぐら揺れる。
「う……わぁああ!」
とうとう、ごろんと転げ出した。
頭の上に落ちてくる骨を覚悟する。
次の瞬間、風に持ち上げられた。
目を開けると、砂漠からふわっと浮かび上がっている。
「ニーノ!」
素晴らしい速さでニーノが飛んできて、つかまれた。
小脇に抱えた私に目をくれ、ニーノはすぐに視線を上げる。崩れる砂丘をじっと見つめてる。
ぼはー……ん
びっくりだ。
噴火するみたいに、砂丘が砕け散った。
そして、白い物が、にゅうと顔を出す。
砂丘の裾から立ち上がる白い柱を、ニーノがよけた。
柱は向こう側とこちら側にあり、傘のように大きく広がる。
ひゅ――ひゅん!
きょきょきょきょきょ……
「あー――――――――――!!」
この音は!
――我が友よ。
竜さまの声が頭に響いた。
砂丘の残骸にひょいひょいと飛び乗って、全身が現れる。
紺碧の空を背景に、くっきり浮かんだ白い骨。
――友ー! 見つかったのじゃ! 友がわしを見つけたのじゃ!
きょきょきょきょきょ……
変な音を立てて羽を揺らし、お骨さまは後肢でひょいひょい跳ねた。
再登場、嬉しい。
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