3.なんと なんと なんとー!
ハッピークリスマスイブ!
間が開いてしまい、申し訳ありません。
聞いたことのない音が何度も聞こえる。
どおっと落ちてきた滝が一瞬で蒸発したら、こんな音になるかもしれない。
竜さまがガイオから光をぶつけられてる。
とってもうるさい。
びゅんびゅん飛び回る竜さまはかっこいい。すごい速さなのに、くるっと方向転換するところなんて、すごい。
ガイオって人も、速く飛べるってことだけど……。
「付き人なのに、どうしてりゅーさまに光をぶつけてますか?」
びっくりが収まって、やっぱりむかむかしてきた。
付き人は竜さまと仲良く暮らすんじゃないのかな?
――ガイオはときどき襲いかかってくるのじゃ!
「なんと!」
竜さまに襲いかかるなんて、頭がどうかしてる。
――わしではないが、わしも一回会ったのじゃ! 南の森でわしとシダが楽しく話しておったら、何やら光の球をぶつけられて、わしもシダも地面から飛びだしてしまったのじゃ! わしはすごい勢いで飛んでしまい、シダがどうなったか分からん! ガイオはまったくの痴れ者なのじゃ!
「それはとっても悪い!」
お屑さまと一緒に憤慨だ。
――うむ。ガイオ、なかなか楽しいが、まだ足りぬようだ。
音が遠のいたり近づいたりを何度か繰り返し、頭に竜さまの声が響いた。
次の瞬間、今までよりも速く竜さまが飛ぶ。
あっと言う間に竜さまもガイオも見えなくなった。
遠くの空がキラッと光って、しばらく。
ずぁあおぉ……ん
すごい音が響いてひっくり返りそうになった。すばやくニーノが支えてくれる。
森の木が揺れて葉っぱが千切れ飛んでいった。
「うぁあああ! 何? なんですか?」
……あれ? おかしい。
声が遠く聞こえる。
――ぽはっ! ガイオが飛ばされたのじゃ! 遠くまで飛ばしたのじゃ! 山よ、よくやったのじゃー! ぽはぽは! わしが長逗留しておるだけあるのじゃ! ぽはっ!
お屑さまの大喜びは、頭に響くのでいつも通り。
「ガイオ、飛んでっちゃった?」
システーナとジュスタが頷くけど、いちばん得意げなのはお屑さま。
――そうじゃ! 山が咆哮と風とでガイオを弾き飛ばしたのじゃ! きっと遠い遠い砂漠まで飛んだのじゃ! これが竜の力なのじゃ!
いつもより素早くぴこんぴこん、かぷかぷしてるから、目が追いつかない。
「ほーこー! さっきのは竜さまの声ですか?」
――声とは違うぞ! 小さく小さく空気を押しこめて、ちょいっとずらすと、大きな衝撃が走るのじゃ! 山が口と吐息と羽でやったのじゃ! すごいのじゃ!
「おお!」
よく分からないけど、竜さまがすごいのは間違いない。
システーナとジュスタもきょとんとしてるから、みんな理屈は分かんないんだな。
――これ、屑よ。わしの特技を軽々しく話すでない。
頭に声が響き、悠々と羽ばたいて戻ってくる竜さまの姿が見えた。
――前に、お主がさように言っておったぞ。
ニーノが壁を解いたのか、スーヒが駆け出して岩の陰に入る。ペロは動き疲れてたのか、倒れた壺の中に収まって蓋を閉めてた。残念ながら蓋の上下が逆さまだから、あんまりきれいに閉まってない。
――構わんのじゃ! 山は特技がたくさんあるゆえ、一つ二つ知れたところで問題ないのじゃ!
――ふむ。一理ある。
竜さまは岩に降り立ち、羽を震わせて、丁寧にたたんだ。
気のせいか、さっきよりたてがみが輝いて見える。
「竜さま、おけがは?」
真っ先にニーノが聞いた。
――ない。
――そうじゃ! ないに決まっておる! ニーノは無礼なのじゃ!
――屑よ、そう噛みつくでない。
竜さまはなだめるけどニーノが謝るから、お屑さまは意気軒昂。ぴこんぴこんしながら、竜を誇ってる。
「……りゅーさま、さっきのガイオは何ですか? 変です!」
両手を上げて、竜さまにアピールする。
断然、説明が必要です。
竜さまは目を細めて、長く鼻息を吐いた。
――人はいろいろおるであろう。その一人だ。どうやら前の世界は、竜に勝つことが人に価値を与えたらしい。それゆえ、ああやって挑んでくる。
あまりのことに開いた口がふさがらない。
「前の世界と今の世界は、別の世界ですよ!」
「その通りだ」
珍しくニーノの全肯定が入って、またビックリしてしまう。
「しかもガイオが竜さまに振るう力は、もともと竜さまに由来する。竜さまに力をいただきながら、竜さまを打ち負かそうなどと滑稽だ」
「おおぉ……」
ニーノはとても怒ってる。
――何、したいことをすればよいのじゃ。ガイオが挑んでくるのも面白いことである。
「そうだぜー。竜さまがぐいぐい飛んだり攻撃したりすんの、なかなか見れねーだろ」
にっかーと笑うシステーナに、ニーノが冷たい目を向けた。
――山が面白がっておるから、シダやわしが飛ばされてしまったのじゃ! 山はもっと遠くにガイオを飛ばすべきなのじゃ!
……お屑さまは当たり前みたいに言うけど、遠くに飛んだ先で別のお屑さまに会ったら、また面倒なことになるような?
「まぁ、でも、ガイオさんもまるっきり悪い人ってわけじゃないですから」
ジュスタは、ペロの蓋を正しく直してあげてる。
「竜さまを攻撃するなんて、とても悪いですよ!」
「そうだね。でも、ガイオさんはエーヴェが成長するまで、待ってたんだよ」
システーナがゲラゲラ笑う。
「竜さまが飛べねーと挑戦の意味がねーからな! ヒナがいるときは来ねえ」
「――なんと!」
竜さまが飛ぶのを心待ちに、成長を願った日々。
毎日いろんなことがいっぱい詰まったあの時間を、そんな野蛮な目的で待ってる人がいたとは。
「残念!」
ジュスタが噴き出した。
「むー! 笑い事じゃないですよ!」
「まったくだ。これからまた、わずらわせに来る」
ため息をついたニーノを思わず凝視する。
「あーそーなんだよ、おちび」
システーナはにやにや。
「あれ、鍛錬してまた来るんだぜー。おもしれーよなー?」
「……なんとー!」
――まったく、ガイオは人騒がせな痴れ者なのじゃ! それに飽き足らず、しつこいのじゃ!
お屑さまが正しい。
「ぜんぜん面白くないですよ! ガイオ、悪い!」
腹が立って、地団駄踏む。
様子をうかがって鼻を出したスーヒが、また隠れてしまった。
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