2.六人目が来た
スーヒは狭い竜さまの手の中を、鼻をひくつかせながら歩き回る。けっこう落ち着いてるみたい。暗くて狭くてところどころ光が射しこむのは、スーヒのいた場所と似てるからかな。
竜さまが落とすわけないとは思うけど、指や爪の隙間から風が吹き込んできて、下が見えるのはドキドキする。
物を落としたら大変だ。
「お! ペロ、出てきません! 蓋も落としちゃダメだよ!」
様子を見るようにうようよ出てきたペロに注意する。
ツボに入ったせいか、ペロは前より不思議な光景。水がこぼれない魔法のツボだ。
――エーヴェ、心配ない。わしの手からこぼれ落ちるのは容易ではないぞ。
「あ! りゅーさま!」
容易ではないってどういうことかな?
――風が吹き上がってくるゆえ、まずは落ちぬ。そして、落ちたとしてもニーノがすぐさま取ってくるのじゃ。
「おお、ニーノ!」
じゃあ、安心かな?
――竜さま、エーヴェはすぐに試したがります。
――ぽはっ! その通りじゃ! 童はすぐに何でも試すのじゃ! うかつに物を言うでないぞ、山よ!
お屑さまはいつも通りだけど、ニーノの声も頭に響いてくる。竜さまの手の中だから、テレパシー状態になってる。
確かに、隙間からは風が吹き込んでくるけど、下に物を落としたらやっぱり落ちていきそうな気がする。
――なるほど。エーヴェ、試すでないぞ。
「はい!」
落としても大丈夫な物を考え始めてたので、背筋を伸ばした。
砂漠には竜さまの羽でも一日以上。休憩しながら行く。
昼を過ぎた頃、小高い岩の上に降りた。竜さまとみんなが座ってもまだスペースがあるから、かなり広い岩だ。
めいめい荷物を降ろして伸びをする。竜さまもぶんぶん首を振ってる。やっぱり誰かが乗ってると、肩が凝るのかな。
いつもと違う景色の中、竜さまの側でご飯を食べたり、おしゃべりしたりでとっても嬉しい。
――やはり景色が変わったな。風の匂いも違う。
金の目を細めて風景を眺めてる竜さまは、洞の中にいるときより青く見える。背中の鱗に空の青が反射してるからかな?
たてがみは輝きが弱くなって真っ白。竜さまが、空と雲でできてるみたい。
「りゅうさまのたてがみ、なんだか長く見えます」
水筒の水を飲みながら、システーナは首をかしげる。
「そうかぁ? 風でなびいてんじゃねーの」
――山のたてがみは力に関係しておるのじゃ! 今はのんびりしておるから、無駄に長くなっておるのじゃ! ぽはっ!
お屑さまは説明してくれるけど、よく分からない。
「やっぱり、りゅーさまのたてがみ、長さ変わりますか?」
首をかしげる。ニーノが無言で二つ目の葉包み焼きをくれた。
「竜さまのたてがみは、力をまとえばその分、長く見える」
「へー――」
システーナもジュスタも感心したような顔。
――む?
竜さまが首を反対の方向へ向けた。
――ニーノ。
竜さまが呼んだときには、ニーノの表情が変わってた。
次の瞬間、ぱっと閃光が走って目を閉じる。
「おわっ! 何? 何ですか?」
ツボの蓋のカチャカチャする音が止まったから、ペロも固まってる。
――今日こそ、勝ってみせる!
聞いたことのない声が頭に響いて、目を開けた。
「ほわっ!」
羽を大きく開いた竜さまの向こうに、光の滝が見える。
竜さまが光の川をせき止めてるみたい。
「なに? どうしました?」
――うむ。案ずることはない。ニーノ、よいか?
「はい。問題ありません」
ニーノがうやうやしく答えた。
竜さまは首を高く上げ、吼える。
たぶん、ニーノが防音してくれたけど、それでも頭にごーんと音が響いた。
――久しぶりじゃ、ガイオ。息災でなにより。
ガイオ?
竜さまは岩を飛び出す。
気がつくと、光の滝は消えてて、森の上に浮く何かが見える。
「……あれ、人です」
空飛んでる。何者だろう。
――ガイオか! 人騒がせな痴れ者なのじゃ! 山がささっと追うゆえ、見ておれ!
お屑さまは知ってるみたい。
「あっはっはー! そっかー、そういや来る頃だもんな」
「ガイオさん、律儀ですねー」
システーナとジュスタは食べる手を止めず、なんだか見物ムード。
スーヒとペロはさっきの咆哮で逃げだそうとしたけど、見えない壁ではばまれてるのか、ぐるぐる駆け回ってる。
「ニーノ、知ってますか?」
聞いたとき、森の上空がまばゆく輝いた。
光の球が竜さまに当たっているように見える。
……どういうこと?
まるで、竜さまに攻撃してるみたいだ。
「へー、前より数出せるようになってねーか?」
「飛ぶのもずいぶん速いですよね」
システーナもジュスタものんき。
確かに、竜さまから下がりつつ、攻撃してるような……?
なんだかだんだん腹が立ってきた。
「あの人、何してますか? りゅーさまに光をぶつけてますよ! とっても無礼!」
――童の言う通りじゃ! あやつは大変な無礼者なのじゃ!
お屑さまが激しくぴこんぴこんする。
たぶん壁を作ってるニーノが不機嫌な目で見下ろしてくる。
「あれは、ガイオだ」
「ガイオ!」
それはなんとなく分かってた!
「竜さまの付き人で、私の前にあたる」
しばらく、ニーノの顔を見つめた。
「なんと!」
竜さまの付き人、まだいました!
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