1.竜骨探し
お待たせいたしました。
朝日を感じてぴょこんと身体を起こした。
竜さまのモビールに光が当たって、赤い目がきらきらだ。
昨日の夜、枕元に準備した長袖、長ズボンを着る。リュックサックは入口に置いて、食堂へ向かった。
――そういえば、わしではないがわしも、竜の骨を見たことがあるのじゃ!
急にお屑さまが思い出して、場所やかかる日数などを大人が話し合い、準備を進めた。
竜さまと朝ごはんを食べてから、十日くらい経った。
朝ごはんの日は帰って来て、一日寝ちゃった。とってもくたびれたみたい。でも、筋肉痛とかなかったのは、やっぱり子どもだからかな?
そして、今日、竜の骨を探しに行く。まだ船は作れないから、今回も竜さまの背中に乗って移動だ。
今回、大人たちが荷物を持つので、私は竜さまの前肢でつかんでもらう。そして、ペロを持つという重大な役目ができた。
「ペロー! 準備できましたか?」
食堂の鉢の中で、ペロはまだ動いてない。
「もー! ペロ! 鉢じゃなくてこっちこっち!」
ガラスのツボをこんこんと鳴らす。ジュスタが砂漠に行くペロのために作ってくれたニューアイテム。ガラスの蓋までついてる。
「砂漠はとっても暑いです。ペロは、きっと、しゅんって消えちゃいますよ!」
蒸発する場所を小さくすれば、暑い砂漠でもしゅんとは消えない。
ツボを横に置いたけど、ペロは鉢の中でリラックスモード。
「むー……」
ちょっと考えて、ツボに水を入れて戻ってくる。
「ペロ! 水ですよー。どうぞ!」
もう一度、横にツボを置いたけど、ペロは無関心。考えて、ツボを倒してみる。ちょっと水を指につけてペロにかけた。
ペロはすいーっと水を吸いこむ。
「ペーロっ! こっちに新しいツボですよー!」
こんこんとツボを鳴らす。まだペロはのんびりしてるので、えいやっと鉢を倒した。とうとうペロが出てくる。
「はい! ペロ、ツボです! こっちだよ!」
ペロはなぜかいったんうぞうぞこっちに来て、徐々にツボに近づく。ツボを飲み込もうとして、口に気がついた。さらに、中に水があることも気がついた。
そこから、ツボに吸いこまれるみたいに入ってく。逆再生の動画みたい。
「ペロ、こうやって蓋も閉められますよーっと!」
力を込めてツボを立ち上げて、蓋を閉める。
ペロは口からうぞうぞ出てきて、蓋をのみこんで、吐き出す。蓋の端を持って閉めたり開けたりした。蓋とツボの縁が当たってカチャンと鳴ると、固まって、また動き出す。
「どうですか?」
ペロは蓋をカチャカチャさせてる。
……気に入ったのかな?
「おはよう、エーヴェ。あ、ペロ、ツボに入ったんだ」
「おはよー! ジュスタ! 入りました!」
ペロは蓋を押し上げたり、中に戻ったり。まるでベレー帽を上げ下げしてるみたい。
「どうかな? ツボなら鉢より風の影響も受けにくいだろ?」
ジュスタがツボをとんとんすると、ペロはうようよ中に戻っていって、ツボにきれいに収まった。
「気に入ったのかな?」
「うん、そうだといいな」
「おーい、朝ごはんだぜー!」
――朝ごはんなのじゃー! 豆がたくさんなのじゃー!
システーナが朝ごはんをどーんとテーブルに置いた。豆といろんな野菜をゴロゴロ煮込んだシチューみたいな料理。
甘辛い味で、ご飯と一緒に食べる。見た目はごちゃごちゃだけど、味を知ってると、とっても美味しそうに見える。
「残しておいても腐るから、食べておけ」
「おおー!」
ニーノが山盛りフルーツを持ってくる。久しぶりにドラゴンフルーツもあった。ラオーレも、もちろんある。
「ごちそーさま!」
たくさん食べて、準備万端だ。
「――では、行くぞ」
邸の窓や入口を閉めて、ニーノが言う。スーヒは食堂を追い出されて鼻をひくひくしてる。
「スーヒは竜さまの洞の近くでおするばん!」
「留守番」
「るすばん!」
「はっはっは! お留守番っていいにきーよな!」
明るく笑って、システーナが荷物を背負った。小山くらいある大荷物。ジュスタもニーノもたくさん荷物を持っている。
私はリュックサックにボールと竹とんぼ。
竜さまは洞の外で、日光浴してるみたい。近づくと竜さまの近くにいた鳥がさっと飛んで行ってしまった。
「おお、鳥がたくさんいました」
――うむ。風の具合など尋ねていた。
竜さまは羽を軽く揺らす。
――もう準備はよいのか?
「はーい!」
「お待たせいたしました」
――砂漠に行くのじゃ!
システーナの腕でお屑さまがぴこんぴこんする。
――では、乗るがよい。
背中に登る前に、ジュスタからペロを渡される。
「重いよ。だいじょうぶ?」
「だいじょうぶ! ペロは、エーヴェと一緒です!」
鉢より口が小さくなって、ペロは動きにくくなってしまった。バランスが悪くてぐらぐらするので、誰かが抱えて運ばないといけない。
ずしっと重いけど、膝の上にのせればいいだけだから、きっとだいじょうぶ。
――むむ! 童がペロを持つのか! 落とすでないぞ! 落としては水玉といえどもさすがに無事ではすまぬぞ! ぽはっ!
お屑さまが不吉なことを言う。
「だいじょうぶですよ!」
――うむ。わしがしっかりつかんでおく。大事あるまい。
「ふっふー! りゅーさま、偉大!」
竜さまの金色の目を見上げていたら、ふくらはぎのところに何か当たる感じがした。見ると、スーヒが鼻先を押しつけてる。
「スーヒ、どうしましたか? エーヴェたちは砂漠に行きますよ」
鋭い前歯で長ズボンをがじがじされて、慌てる。
「ダメだよ! 穴が開きます!」
髪にふわっと暖かい空気が触れた。竜さまがのぞき込んでる。
――ほう。スーヒは、今度は一緒に行きたいらしい。
「なんと!」
ぼんやりなのにどうしたんだろう。
長い期間、留守にするのが分かるのかな?
――よかろう。
ぐわっと影が差して、スーヒとペロと三人で狭いところにいた。スーヒの毛はふさふさだけど、背中に当たるのはゴツゴツした感触。
竜さまの手の中だ。指の隙間から外の様子が見える。
思ったよりあったかい。
――行くぞ。
軽い羽ばたきの後、強く打ち振るう音がする。すうっと高くなった感覚にお腹がくすぐったい。
指の隙間から風が吹き込んできた。
風を感じて視線を下げると、爪の隙間から森の様子が見える。
「おおお! すごいです」
風の音がし始めたときから、ペロはぴったり蓋を閉じてる。対照的にスーヒは、鼻をうごめかせて指の間や爪の隙間をのぞき込む。
「おお。スーヒ、勇敢です」
スーヒと一緒に指の間をのぞいた。
「うわー!」
いつの間にか高くなった視界に、背の高い森の向こう、黄色く砂漠の線が見えていた。
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