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おまけ みんなで朝ごはん

 竜さまはぐんぐん飛び回って、上手にテーブルマウンテンの端に降り立った。

 かぎ爪を引っかけた岩が、少し()がれ落ちただけ。

 ――久しぶりにしては、壊さなかったであろう。

 崖に垂れた尻尾がゆったり動いてる。

「二,七六五日ぶりでしたが、お見事です」

 ――うむ。

 ニーノは(やしき)、竜さまは洞のある山。

 離れたままなのに、普通に会話する。

「ふわー! 竜さまが飛ぶとこ、やっぱ気分いーな!」

 システーナがひょいっと屋上から降り立った。

「竜さま、さっそくご飯ですよね!」

 ――うむ。そうじゃ。いつ行こう。

 ひょいっと竜さまは洞の前に降り、首を上げてこちらを見てる。

「りゅーさま! ご飯! 急ぎます!!」

「そうだね。みんなで行こう」

 ジュスタがにこにこしてる。

 ――ふふん! 山はすっかり腹が減っておるのじゃ! まったく食い意地の張っておるのじゃ!

 ――ふむ。屑に空腹は分からぬであろう。

 ――むむ! わしに分からぬことなどないのじゃ! 本体のときはときどき腹が減ったのじゃ! ときどきじゃがな!

 お屑さまは何に張り合ってるか分からない。


「システーナ、貴様が目を付けている場所はここからどのくらいかかる?」

「竜さまならすぐだぜ」

 ニーノは頷く。

「朝食は竜さまとご一緒するか」

 ぽかんとした。

「竜さまに運んでいただこう」

「それで、明るくなる前からご飯を作ってたんだ」

 なんと、ジュスタが持ってたカゴの中身は、朝ごはん!

「エーヴェ、竜さま、乗れますか?」

 竜さまに乗れないから、船を作ってるんだよね?

「あたしが支えててやっから、なんとかなんだろ」

「乗れるが、ずっと竜さまに運んでいただくわけにはいかない」

 そうだった。長旅だから、竜さまの背中に乗ってるわけにはいかないんだ。

「貴様も、竜さまの背中を経験しておけ」

 ニーノの言葉に背筋が伸びる。

「――おぉ! 鍛錬です!」

「そうだ」


 ――む? では、すぐに行くのか?

「竜さまさえよろしければ」

 ニーノはまっすぐ竜さまを見ている。

 竜さまがばっばっと息をあげた。

 ――行くぞ! 背に乗るがよい!

 竜さまは羽をばたばたと打ち下ろし、宙に舞う。森を通り過ぎ、ずざっと邸の前に降り立った。

 邸の壁ギリギリで止まる。

「おおおー!」

 すごい迫力!

「さぁ、乗れ」

 竜さまの(まえ)(あし)から羽の付け根へ。たてがみにうずもれる。

「よし、おちびのことは任せろ」

 システーナが背中に覆いかぶさって、ガードしてくれる。

「俺は朝食を任されます」

 隣にジュスタが滑り込む。

「私は飛んで……」

 ――ニーノもつかまるがよい。わしは腹が減っておるのじゃ。急ぐぞ。

 ――待つのじゃ! ペロも行きたがっておるぞ!

 ペロは前肢の爪にくっついてるけど、登って来れない。ペロにとっては竜さまは熱すぎるんだ。

「ジュスタ、持ってやれ。カゴは私が」

「了解です」

 ジュスタはとんとんと前肢を降り、ペロを抱え上げた。

「あ! スーヒは?」

 邸の入口には見えない。

「あいつは石には興味がねーよ」

「おお、スーヒは干し草が好きです」

 今も食堂で、干し草をもぐもぐしてるのかな?


 ――さぁ、行くぞ!

 待ちかねたように、竜さまが大きく羽を広げる。

 ニーノは首の辺りのたてがみをつかんだ。

 次の瞬間、耳が風の音でいっぱいになる。

 飛ばされそうだけど、背中には誰より強いシステーナのけはいがある。安心だけど、すごい音。

「飛んでますか? もう飛んでますか?」

「もちろん!」

 風がぐんぐん通り過ぎていく。

 なびく竜さまのたてがみが目の前いっぱいで、何が何やら分からない。

 空は……ちょっと近くなった気がする。

 ――エーヴェ、左を見てみよ。

 竜さまの声に顔を左に向けた。

 滑空のために動きを止めた羽の向こう、森が見え、テーブルマウンテンが見え……。そして――あれは、邸だ。

「わぁーあ!」

 飛んでる。どんどん遠くなっていく。

 とっても速い!

「すごいです!」

 竜さまと飛ぶって思ったより、ずっとうるさくて、ずっと手が疲れる。

 でも、ニーノとシステーナとジュスタと、はためいてるお屑さま。みんなで青い空の真ん中にいる。

「楽しいね!」

 ここは竜さまの背中なんだ!



 ばぎん! ごきん、ごき!


 システーナが案内してくれた眺めのいい山の中腹で、青い空を背景に竜さまはお食事中。前肢で砕いた鉱石にかぶりつき、噛み砕いてる。

 私の手には葉包み焼き。

「りゅーさまと朝ごはん!」

 竜さまみたいな豪快な音は出ないけど、ばくばく食べる。

「お?」

 移動の間、縮こまってたペロが鉢からようやく顔を出した。

 やっぱり、風や音にびっくりしたのかな?

「ペロも朝ごはん!」

 水筒を傾けて、水をかけてあげた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 好きな話です。とても素敵です。 みんなで青空の真ん中にいるところ、エーヴェが竜さまの背中にいると噛みしめるところ、ペロも朝ごはんするところが特にお気に入り。 竜さまの迫力や風速の圧がひしひし…
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