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20.空に似合うもの

 ジュスタの目がキラキラしてる。

「エーヴェ、見てみて」

 さっそく翌日には、何か作ったみたい。

「はい! 見ます!」

「あたしもあたしもー!」

 ――わしもわしもじゃ!

 結局ニーノも引っ張って、廊下に勢ぞろい。

「いちばんシンプルな飛ぶ骨組みを作ってみたんです」

 取り出したのは、二つのアーチが並んだみたいな物。カモメみたい。色も白いからそっくりだ。

 ジュスタはそれを紙飛行機みたいに、すいっと(ちゆう)に放つ。

 ほとんど直線で、廊下の突き当たりまで飛んでいった。

「おおー――!」

 みんな、拍手する。

 ――まるで綿毛のようで、鳥のようじゃ! 音もなく遠くまで飛ぶのじゃ!

「さすがお屑さま。鳥の羽を参考にしました」

 拾い上げて戻ってきたジュスタがにっこりする。

 ――そうじゃ! わしはさすがなのじゃ! 飛び方が鳥に似ておるのじゃ! わしはすぐに分かるのじゃ! ぽはっ!

 お屑さまは得意になってぴこんぴこんした。

 ――ジュスタはダァルの話を聞くとよいのじゃ! ダァルは星の端から端まで、長い距離を飛ぶのじゃ!

「お! エーヴェ、ダァル見たことあるよ! エレメントと一緒に飛びました!」

 羽が大きくて、空飛ぶ船と少し似てるかも。

 ――ほう! (わつぱ)はダァルを知っておるか! ダァルは長い距離を長い時間飛ぶのじゃ。もしかすると、竜より飛ぶのが得手なのじゃ!

「なんと」

 お屑さまが竜よりすごいと言うなんて。

 ――しかし、竜は何でもできるが、ダァルは飛ぶしかできぬのじゃ! ぽはっ! いつでも竜がいちばんなのじゃ!

「おお」

 やっぱりお屑さまです。


 竜さまはときどき羽ばたいてる。

 洞の中だと壁や天井を壊すので、洞から出て、頭を洞に向けてから、羽を動かす。

 ばさん、と羽を打ち振るうと、森の木が揺れて水しぶきが飛ぶ。まっすぐ落ちない滝みたいだ。

 滝のつもりで側にいると、ときどき強風にあおられて後ろに転がってしまう。

 ペロと水しぶきを受けて遊んでたら、二人して飛ばされてきゃらきゃら笑った。

 ペロが風圧で地面から引きはがされるのは、とってもおかしい。

 ――む。エーヴェ、そこは危ないのじゃ。

 気がついた竜さまにくわえ上げられて、洞に動かされた。ペロは自分で元の位置に戻ったみたい。でも、水しぶきが面白いので、また外に駆け出す。

 ペロと転がった。また、竜さまが洞に動かしてくれる。

 嬉しくて繰り返してると、ニーノがやって来た。

「貴様――。竜さまのお邪魔をするな」

 ニーノの目の冷たさに固まってるうちに、(やしき)に連れ戻された。ペロはどうなったか分からない。


 雨の季節は思ったより長い。

 でも、やっぱり晴れる日は来る。

 寝台で目を開けたとき、明るさに目をぱちくりした。

 久しぶりの朝日が部屋に射しこんでる。すぐに、飛び起きた。

「ニーノー、ジュスター、シースー! 晴れました!」

 邸の外に駆け出すと、ぴかぴかの青空が広がってた。

 木の葉や草は雨に洗われて、眩しいくらいきらきらしてる。

「晴れましたよー! りゅーさま、飛びます!」

「そーだな、おちび」

 上から声がした。

 声の出所を探すと、システーナが邸の屋上からこっちを見下ろしてる。

「シスー!」

 システーナは胸を反らした。


「空は竜を待つ、翼が風を起こす日を

 森は竜を待つ、影が日をさえぎるときを

 人は竜を待つ、共に賑やかに飛ぶせつなを」


 システーナの声は堂々として、胸を揺さぶる。

 遠くに行きたいと感じさせる声。


 響き渡った余韻に呼応するように洞から声が響いた。

 力強い咆哮。

 風圧みたいなのがせまってきて、ころんとひっくり返った。

「りゅーさま!」

 起き上がって、竜さまの洞へ走る。

 長く降っていた雨が、滝になってテーブルマウンテンから落ちてる。きれーい。

 羽ばたきの音が聞こえた。

 飛ぶ! 竜さま、飛ぶつもりだ。

 遠くからでも見える。

 白銀のたてがみがまぶしく揺らいでる。

 ――エーヴェ、見るがよい。

 頭に声が響いた。

「あ!」

 大きな羽が見えた。

 軽いジャンプと羽ばたき。

 テーブルマウンテンの上に浮かび、竜さまは長い首を斜め上に向ける。

 ロケットが飛び出すみたいに、竜さまは青空に飛んだ。

「わー――!」

 森の高木の上を滑空し、邸のほうへ戻ってくる。

 竜さまが頭上を通り過ぎ、目で追いかける間もなく、ごうっという音がして、またころっと転がる。

「りゅーさまー!」

 あっという間に遠くに行ってしまう大きな羽と白いたてがみ。

「……うっふっふー! すごーい! りゅーさま!」

 ぴょんぴょん跳ぶ。

 思ってたより、ずっとずっと速い。

 ずっとずっとのびのび!


 邸から、ペロがのそのそ出てきた。

「ペロも見たいですか!」

「そうみたいだね」

「ジュスタ!」

 空を見上げながら、ジュスタも邸から出てくる。

「りゅーさま、速いです!」

「速いなー!」

 遠くの竜さまの姿を追うと、邸の上に浮かんだニーノが見えた。

 竜さまの姿を追って、後ろ手を組んだまま向きをくるくる変えてる。

 ちょっと面白い。

 ――山が飛ぶと、わしはぱたぱたするのじゃ! まったく、はた迷惑なのじゃ! ぽはっ!

 竜さまが通り過ぎると、ジュスタの腕でお屑さまがはためいた。

 すごいな。

 嬉しいな!

「りゅーさま、飛びました!」

 やっぱり竜さまは、空が似合う。

ようやくプロローグを超えました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 誰よりも竜さまが一番飛ぶのを心待ちにしていたのかもしれない。雨上がりの晴天もきらきら輝く世界もこの日を祝福しているかのように思えてきますね。 竜さま、エーヴェにもやっと飛ぶのを見せられて、そ…
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