19.最高の材料
洞に着くと、竜さまが鼻息で身体を乾かしてくれた。
システーナと二人でふくふくになる。
――シス、今回も鉱石はないのか?
竜さまが匂いを確かめるみたいにシステーナに鼻を寄せた。
「ないです! いい場所を見つけましたから、一緒に飛んでいきましょう!」
「おお!」
素敵な提案だ。みんなで竜さまの豪快な食事シーンを見られるかもしれない。
――ふむ。そうか。
竜さまはだいぶ残念そう。耳が何度もぴるぴるしてる。
「そんで、これがジュスタへの土産だ!」
ひょいっと背負った白い物を放った。ジュスタが慌ててつかむ。
次の瞬間、蜂蜜色の目を見張った。
「――軽い」
システーナがにやーっと笑う。
「船見たときにさ、たぶん軽ーい材料が要る気ぃしたんだよなー!」
「シス、すごい!」
まだまだ、重さの問題は話してなかったのに、もう気がついてたなんて!
「それで――、これって何なんです?」
――うむ、竜の骨じゃ! とても古いものじゃ!
白い物をしげしげと眺めたお屑さまが断言する。
「なんと!」
骨とは言ってたけど、竜さまの骨だったなんて。
「いやー、ずーっと前だけどさ、白い三角形の珍しい石があったんだよ」
システーナは洞の床にあぐらをかく。
私はジュスタに駆け寄って、骨を受け取った。
「ふぉおおおお! 軽いです!!」
直径三十センチで二メートルはあるのに、軽々と頭上にかざせる。
「はっはー! 今のおちびと一緒さ、かっるーってびっくりしてよー! でも、三角形でケガして手ぇ放しちまったんだよな。悪りぃことにそこが山の崖でさー。石は斜面を転がって、あっとゆー間に見えなくなっちまった」
ほらっと手首に巻いた布を解く。
「まだ傷跡が残ってんだぜ。めっちゃ鋭かった」
「なんと!」
掌から手首にかけて、白い傷跡が残ってる。
治った今でも痛そうだ。
「大丈夫でしたか?」
「ニーノが治した! め……っちゃくちゃ怒られたけどなー」
「手首は急所だからな」
響いた声に顔を上げる。洞の入り口でニーノが笠を外して水を払ってる。
「ニーノ!」
「お、来たなー! んで、竜さまに話したら、竜の牙だろうって言われてさ」
――牙じゃと? 手くらいたやすく切れるのじゃ! まったく、シスは不用心なのじゃ!
お屑さまが憤慨してる。
「そうそう、不用心。ま、ずーっと昔の竜さまの歯が、石になってたんだろーな。おちびの歯も抜けたじゃねーか? きっとそんな感じだぜ。んで、おんなじ感じで何か見つかっかなーってさ」
「――それだけでよく見つけたな」
ニーノがちょっと呆れてる。
「あるってことは分かってるから、見つかっだろ」
「シス、すごいよ!」
でも、どこかで竜さまが死んだのかと思うとちょっと悲しい。
骨を返すと、ジュスタは吸い寄せられるみたいに骨を見つめる。
――確かに竜の骨は硬く、軽く、船の材料にはよかろう。
竜さまの言葉にシステーナが胸を反らした。
「ほらな? 使えるんじゃねーか?」
「そう……ですね。でも、加工はできるんでしょうか? 船にするには、切ったり削ったりしないといけませんから」
サーモンピンクの目がきょとんと見開かれた。
「――システーナに聞いても仕方ない。どうせ、考えていない」
ニーノが冷たく言って、竜さまに視線を向ける。
竜さまは金の目をぱちぱちした。
――うむ。竜の身体の中でも、骨は殊に強い。人の力ではどうにもなるまい。
「おお――」
軽くて強くても、加工できなかったら船には使えない。
「――竜さまの力ならば、できるのでしょうか?」
ニーノの質問に首をかしげた。
竜さまに切ったり削ったりしてもらうつもりかな?
――竜ならば、折ることも切ることもできるであろう。
――当然なのじゃ!
竜さまたちの反応に、ニーノはジュスタを見る。
「貴様、今、刃物があるか」
「え、はい」
「それは竜さまのたてがみを燃料にしているか」
ジュスタは一瞬、固まった。
慌ててナイフを取り出して、骨の端に当てる。
ナイフを動かすと、白い粉がこぼれた。
――ぽ! 傷がついたのじゃ!
――ふむ。
竜さまもお屑さまも驚いてる。
ジュスタも、きょとんとナイフを見つめた。
「――つまり、竜さまのたてがみや鱗を燃料にした金属は、竜さまの骨を加工できる……ってことですか?」
「貴様は特性も同時に使っているだろう。そもそも特性は、竜さまに由来する力だ」
「おおー! ジュスタ、よかったです!」
両手を上げた。でも、ジュスタはなんだか顔色が悪い。
「ジュスタ? どうしましたか?」
「――いや。そうだね、よかった」
おでこをかいて、ジュスタはシステーナを見る。
「すごい材料です。でも、これだけじゃ足りないですよ、シスさん」
「それなー」
システーナは腕を組んだ。
「そーなんだよ。これはずーっと古い地面から出てきた骨で、そうそう簡単に見つからねーしさ」
うーん、とっても珍しいのに、探し当てたシステーナはすごい。
――骨が必要ならば、砂漠へ行けばよい!
お屑さまがぴこんと伸び上がる。
「へ?」
システーナはびっくりした顔。
――うむ。確か、昔死んだ竜の亡骸がある。
――骨に聞けばよいのじゃ! あやつはいつも阿呆のように砂漠を走っておるのじゃ! きっと見たことがあるのじゃ!
――しかし、あやつは覚えておるか怪しいぞ。
――ぽはっ! まったくなのじゃ! 阿呆で困るのじゃ!!
おしゃべりしてるお屑さまと竜さまを見比べる。
「その……竜さまの骨、使っていいのですか?」
さっきから少し気にかかってたことを口にした。
――童、使ってよいかとはどういう意味じゃ?
お屑さまはぴこんぴこんする。
「昔死んでしまった竜さま、りゅーさまやお屑さまのきょうだいです。死んでしまったあと、勝手に使うのいいですか?」
ニーノだって、気にしないのかな?
ちらっと見たけど、いつもの無表情で何も分からない。
竜さまは金色の目を細める。きらきらと白や水色の光が、目の奥で揺れた。
――死んだ後、心が残るのはわずかな時間であろう。亡骸となれば、まずは食べ物である。骨や爪は何者かの住まいになる。そうやって、皆を通じて星に帰るのじゃ。
――骨になって、空を飛ぶのじゃ! とても良きことなのじゃ!
「おお……」
振り返ったニーノの目が優しい。ジュスタもほっとしたように笑った。
「んじゃあ、最初に骨ぇ集めてー、船ぇ作ってー、みんなで旅ってこったな!」
「はい!」
「勝手に決めるな。船を作るのはジュスタだ」
指折り決めたシステーナにニーノが冷たく言う。
「じゃージュスタ決めろよ」
「えっ! え……、まぁ、骨は見てみたいです。これ以上の材料はないですから」
「おおー――!」
ぴょんぴょん跳ねる。
空飛ぶ船、材料が見つかった!
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