18.晴れの兆し
雨のシーズンが始まったのか、なかなか雨は止まない。
でも、近いところにいる鳥はちらほら来る。みんな、邸じゃなくて竜さまの洞に来るので、最近、ジュスタはちょくちょく洞に行く。
竜さまに会いに行ったタイミングで、私も二、三回会えた。
小鳥が多い。大きくてもハトよりは小さい。前の世界で、駐車場を高速で歩き回ってた鳥くらいの大きさかな?
みんな洞を飛び回ったり、羽繕いをしたりする。
きまぐれに、一羽がちょん、と手に乗ってくれて、とっても感動。
「軽いよ!」
ミクラウモのときに見た鳥だ。本当に指に乗ってるのか確認するほど軽くて、どきどきした。
「すごいね! こんなに軽いから飛べます!」
「うん。本当に軽い」
ジュスタもビックリしてる。
鳥たちは一通り飛び回ると、帰っていく。竜さまが何か言ってるかもしれないけど、分からない。つまり、ボランティアだ。
「鳥さんたち、みんな協力してくれます」
――山は大きな鳥のようなものじゃ! 鳥を食わぬ鳥じゃから、皆安心しておる。
ジュスタの付けた腕輪で、お屑さまがぴこんぴこんする。
鳥が見たいから、お屑さまは最近ジュスタと一緒。
――ジュスタが飛びたいというと、面白がる鳥もいる。そういう者が来ておる。飛ぶ姿を見せてやるがよいぞ。
私たちを面白がって見てる鳥がいると思うと、なんだか楽しい。
「ジュスタ、飛びます!」
「もちろん!」
ジュスタなら絶対できる。
いっぱい応援するぞ!
それから、ときどき竜さまが洞をゆっくり歩いたり、尻尾を動かしたりしてる。
竜さまの新たな姿を見られるので、洞に来るたび、ワクワクだ。
目を閉じて、顔を下に向けてることもある。その時は、たてがみがほわーっと光ってとってもきれい。
「りゅーさま、準備してますか?」
竜さまは金の目を開いて、こちらを見る。
――うむ。竜とて動かねば萎えるゆえ、ゆっくり慣らすのじゃ。
やっぱり大風の時に飛んだのは、わくわくしてうっかり飛んじゃった感じなのかも。
「りゅーさま、いつ飛びますか? まだ、たくさん慣らしますか?」
――雨が止んだほうが楽しかろう。もうしばらく待つがよい。
雨の中を飛ぶ竜さまはかっこいいけど、青い空に飛ぶ竜さまは、見ただけできっと胸がスカッとする。
「はい!」
その日は、竜さまがぶんぶん振る尻尾につかまって遊んだ。
スーヒの毛がふかふかに生えそろい、光らないことも分かった。
でも、スーヒはまだ食堂にいる。
「私は帰ることを勧めているが、まだ自信がないようだ」
「なんと。スーヒ、走れるし、穴も掘れます!」
食堂の隅のスーヒを見ると、棒をせっせとかじってる。ジュスタがあげた棒は、もう三代目。
ぼんやりのんびりのスーヒには、食堂はとても居心地よさそう。
「スーヒ、ずっと邸にいますか?」
「そういうわけにはいかない。竜さまの洞の近くで少しずつ森に慣れるしかないだろう」
竜さまとスーヒ、どっちも慣らし期間!
「でも、竜さまの洞の近くは人気があるよ! ケンカになりませんか?」
「――それも経験だ」
「おお」
野性は大変です。
ジュスタは鳥に会いに行ったり、ニーノと相談したり。でも、雨にはばまれてなかなか前に進まない。
スーヒはときどきやってくるテーマイと仲良くしてるけど、なかなか森に帰る勇気が出ない。
竜さまは雨が上がるまで飛ばない。
なんだかいろいろなものが止まってる感じがする。
雨が降るから、鍛錬もお休みだ。
「ペロ、りゅーさまのところ行きますか?」
ペロは雨でちょっと元気に見える。
鉢をかぶらずにいろんな所に行けるから、嬉しいのかな。
大きな笠をかぶって、ペロと一緒に洞への道を歩く。
私も雨はちょっと好きだ。草や木がぬれてつやつやしてるのや、大きな笠をかぶって歩くのは特別な気分がする。
でも、せっかく成長したのに、竜さまがなかなか飛ばないのは残念。
「りゅーさま、早く飛ぶといいです。ジュスタは軽い材料見つけて、スーヒは自信を持ちます!」
あ、スーヒがいなくなると、テーマイは来てくれないかな?
だったら、スーヒもペロみたいに竜さまの付き人になったらいい。それとも、スーヒは付き人になれないのかな。
「むー、難しいことがたくさんです!」
ペロはいつも通り、ジグザグに進んでだんだん大きくなる。
雪だるまみたい。
真似して、ジグザグに歩いてたら、ふと森のほうで何かが動いた。
「お? テーマイですか?」
森に向いて笠のつばを持ち上げる。
雨で葉っぱや枝がひっきりなしに動いてる。
……気のせいかな?
何か見えた気がしたけど。
ペロはだいぶ遠くに行っている。追いかけようとして、何か白い光が目の端によぎった。
「お?」
振り向いたとき、もう分かっていた。
雨の中を、森の木を超えて、ここに降りてくる。
「シスー――!」
システーナの周りは白く光ってるみたい。
「おー! おちびー!」
地面に降り立ったシステーナが、次の瞬間には私を抱え上げた。
「おー? またおっきくなったなー!」
「そうですよ! はじけ菓子食べたよ!」
サーモンピンクの目がきらきらと輝いた。
「やったなー! 竜さま飛ぶじゃねーか!」
「そうだよ!」
二人でわーわー喜んで、うぉほっほをした。
「シス、長いこといませんでした! 何してたの?」
一通り満喫して、システーナに質問する。システーナがにやーっと笑った。
「ふっふー、すげーぞー! ジュスタに土産だ」
「お? なんですか?」
システーナがぐっと背中を指し示す。
「骨ぇ拾ってきた」
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