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17.雨上がりを待つ

 カゴの底を指で探っても、ポップコーンに当たらない。

「食べ終わりました」

 ――もう仕舞いか! ま、よいのじゃ! いっぱいボール遊びできたのじゃ!

 お屑さまの細い頭は、油でちょっとテカってる。

 ――む? ジュスタ、何を見ておるのじゃ?

 ジュスタは親指と人差し指でつまんだポップコーンをじっと眺めてた。

「あ、えっと……、これって軽くて面白いなって」

 指の間でポップコーンはへしゃげる。

(もろ)いけど」

 ――うむ! 軽やかなわしのボールじゃ!

 すっかりお屑さまのボールになってる。

「あ! 分かりました! ジュスタ、船のこと考えてます!」

 重さがいちばんの問題だもんね。

「そう。でも、自分一人で考えてもうまくいかないときは、外から借りてこないとな」

 ――うむ。その通りじゃ。飛ぶことならば、鳥や虫がうまい。

 じゃあ、竜さまと相談してたのか。

 よかった。ちょっと安心だ。

 ――山よ、お主も飛ぶのは達者じゃ! 力を貸してやるがよい!

 竜さまは首を傾ける。

 ――ジュスタは飛ぶ姿や羽が見たい。わしはすぐさまは飛べぬ。

「エーヴェ、もう大丈夫! りゅーさま飛びます!」

 ――うむ。しかし、まあ、ずいぶんとのんびりしておったゆえ、準備がいる。大風でもあれば、ひょいと乗るが。

 そうか、竜さまは飛ぶ準備が要るのか。

 ――わしが来たときに寝こけておったからな! 鍛錬不足じゃ! ぽはっ!

 ――ふむ。屑の言う通りじゃ。ゆえに、鳥を呼ぶ話をしておった。

 楽しそうな予感!

「鳥に来てもらって、羽や飛び方を見せてもらう予定なんだ」

「おおお! 素晴らしいです!」

 ――今は雨が上がるのを待っておる。

 雨が上がったら、たくさん鳥が来るのかな?

「楽しみだね!」

「そうだね」

 ジュスタはへしゃげたポップコーンを口に入れた。


 雨の音を聞きながら、竜さまの胸に寄りかかって、ジュスタとおしゃべりする。

 ふかふかの毛が気持ちいい。

「その不思議な道具を持つと、ちょっと光が見えたんだよ!」

 めでたく成長が分かった鍛錬室でのできごとを話す。

「へえ、光ったんだね」

「ジュスタは光りましたか?」

 ジュスタは目を閉じて、うなった。

「確か光った気がする。あと、白いもやが出て来たな」

「なんと!」

 人によって違いがあるのか。

「そういえば、ニーノのとき、ちょっと風が吹きました」

「ニーノさん?」

 不思議そうな顔に、はっとする。

「そうですよ! お屑さまが言うから、ニーノが道具で測りました」

 ――ぱん! と弾けたのじゃ! ニーノはたくさん()()を得ておるのじゃ!

 お屑さまはぜんぜん反省しない。

「弾けた……って、ケガしなかったかい?」

「してないよ! みんな元気!」

「そうか」

 ほっとしたように笑ってから、ジュスタは(あご)に手を当てて考え込む。

「――どうしましたか?」

 長いことジュスタは黙り込んでる。

 ペロが壁と壁一往復したくらい。

「ああ、ごめんごめん。なんだか、使えるような気がして」

「使える? ――船に?」

「あの道具は竜さまの爪を材料に作ってる。竜さまに由来する力を、一点に集中させる効果があるんだ」

 ――ほほう!

「りゅーさまの力!」

 じゃあ、私の中にはキラッと光るくらい竜さまの力があるってことか。

「とても素敵です!」

「うん。それでニーノさんは力が強くなりすぎて(はじ)けちゃったんだと思う」

「なんと!」

 ――さもありなん!

 確かに二百五十年分の力だもんね。

「でも、(はじ)けるのって力だろう? ボールみたいに下に打ちつけたら、上に(はず)む」

 ――ふむ。ジュスタは竜の力で船を浮かすと考えておるのか?

 竜さまの質問に、ジュスタは蜂蜜色の目を見張った。

「――はい。でも、あれ?」

 そのまま首をかしげる。

「なんだか、おかしいな? 俺たちが持ってる力を、船を浮かべる仕組みにできないかと思ったはずなんですけど」

 竜さまに持ち上げてもらう以外の方法だと思ってたのに、私たちが持ってる力も竜さまの力だから、堂々巡りになってる。


「ジュスタ! エーヴェ、一つ気がつきました!」

 ベルトに引っかけてた竹とんぼを取り出す。

 ぶん、と勢いよく飛ばした。

 竹とんぼはきれいに放物線を(えが)いて、かつんと床に落ちる。

「竹とんぼ、ちゃんと飛びます! でも、飛ばすのはエーヴェだよ!」

 ジュスタの目の前で掌をこすり合わせた。

「しゅってしないと、竹とんぼは飛べません。でも、エーヴェ、竹とんぼはちゃんと飛ぶと思います! 船は、竜さまに最初持ってもらいます。それってしゅっと同じです!」

 全部自分の力でできるわけじゃない。

 帆船だって、風がなければ動けない。

 ――ぽはっ! 確かにその通りじゃ! 竜とて蹴る大地がなければ、空を飛べぬ!

「ああ、そうか……」

 ジュスタを竜さまがのぞき込む。

 ――おや? わしが船を持って飛ぶのは、不服であるか?

 びっくりだ。

「とんでもない!」

「そんなことないです!」

 二人で、大きな声になる。

「竜さまの手をわずらせない方法がいいかと……。でも、まあ、こだわりすぎでした」

 頭をかいて、ジュスタは笑った。

「まずは、軽い材料を見つけて、長く飛べることですね」

「それから、たくさん鳥に会います!」

「そうだね」

 ――そうじゃ! わしもたくさんの鳥に会いたいのじゃ!

 竜さまは首を上げて外を見る。

 ――まぁ、ゆっくり待つのじゃ。まだ雨は上がらぬ。

 金色の目を細くした竜さまと一緒に、洞の外を見る。

 曇り空。雨はまだ降ってる。

 ペロがのそのそ近づいてきた。

「ペロ、どうしましたか?」

 ペロは頭からむわっと竹とんぼを吐き出して、リラックスモードになる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 少し光が見えてきたのかな。竹トンボやポップコーン、鳥たちから着想を得て、竜さまに後押ししてもらって飛ぶ船はどんな船になるか想像もできません。完成も楽しみですが、こうして皆で試行錯誤する時間…
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