13.重い課題
テーマイはケガをしたけど、足が動くので森に帰った。
……ケンカしなくて済むといいなぁ。
スーヒはテーマイが消えたほうを見ながら、鼻をヒクヒクする。でも、森には入らない。
「スーヒ、森が苦手ですか?」
スーヒの顎をなでていたニーノが顔を上げる。
「いろんな匂いがして、おじけづいている」
「おお。森で生まれたのに」
近づいて、顎をなでると、スーヒは目を閉じた。
まだ毛が短いから、指にピンピンする。
「ここに連れてくるのも、なかなか動かず苦労した」
――わしが励ましに励まして、ようよう、よっちら歩いたのじゃ! 大変なことじゃった!
ニーノとジュスタとお屑さまで、追い立てて来たのかな。
「ずっと穴の中でした。スーヒ、歩くの大変だったかもしれません!」
邸に着いた後は、しばらく筋肉痛だったかも。
「今度、鍛錬に連れて行こう。森に慣れたほうがいい」
「はい!」
スーヒと森を歩く! 楽しそう!
「そういえば、スーヒはいくつですか?」
――ぼんやりはもう大人じゃ! 童よりは年若く、テーマイよりは年上じゃな! 岩の中で長く一人で、匂いしか知らない物がいっぱいあるのじゃ!
「なんと!」
スーヒ、テーマイより年上だったのか! 身体の大きさで、テーマイが年上だと思ってた。
でも、よく考えれば、いちばん小さいペロがシステーナより年上だから、外見は当てにならない。お屑さまはもっとだ。
ニーノが邸に戻ったあと、ペロとスーヒと竜さまの洞に向かった。
竜さまと夕陽を見て、遊んで一日大満足。
明日はスーヒと鍛錬だ!
でも、翌日は雨だった。
「鍛錬はお休みです」
スーヒは食堂の隅で、棒をかじってる。ほっとしてるのかな?
ペロは食堂にいない。雨を浴びに行ってるのかも。
砂絵板を持ってきて、みんなの絵を描いたり、お屑さまとおしゃべりしたりしてると、ジュスタが船の模型を持ってきた。
「ジュスタ、船、また変わりましたか?」
「うん、見てごらん。――ニーノさん、ちょっと相談したいんですが」
テーブルの上に置かれた船を、お屑さまとのぞきこむ。
「きれいだねー!」
――うむ、羽が美しいのじゃ!
お屑さまが言う羽が船の左右に伸びてる。
帆船と同じで縄と布で形作られた三重の羽。飛行機の羽みたいに、上下の角度を変えられるみたい。船尾には三角帆が立ってて、その下に舵がある。いるかの尻尾みたいにいろんな向きに動かせる。
もともとマストの前にあった操舵台は船尾に近い場所に移動して、屋根付きの部屋になってた。甲板は丸みを帯びた屋根で、何カ所か扉がついてる。
――童! 船に足がついたのじゃ!
「わ、ホントです!」
スイスの木靴を履いた足が、船尾に近い船体に生えてた。これで、地上でも傾かない。
「すごーい!」
実際飛ぶとどうなるか、ジュスタが考えてるのが伝わってくる。
「何がすごいんだい?」
ジュスタがニーノと戻ってきた。
「足が生えました!」
にこにこしながら、ジュスタが船の側面を指す。
「ここに扉をつけるんだ。乗り降りは縄ばしごでいいかと思って。荷物を運び入れるのは、板を渡せばいいしね」
船の中に入っていく、小さな自分を想像しながらジュスタの説明を聞く。
「今日は何をしますか?」
「ちょっと試してみる」
みんなで廊下に出た。邸の中でいちばん長い空間だから、ここで試すんだ。
ニーノがジュスタから船を受け取って、右手で支え持つ。
ふわっと空気が揺れて、船がすごい速度で宙を舞った。
廊下の向こうの壁にぶつかる前に、船は急にスピードが落ちる。そのまま、ゆっくり着地した。
「うわー――!」
――飛んだのじゃ!
二秒くらいかな? でも、ちゃんと飛んでた。
「どうですか、ニーノさん」
船を拾い上げ、駆け戻ったジュスタが聞く。
ニーノは、考え込んでる。
「もう一度、試す」
ニーノはもう一度、同じ仕種で船を飛ばす。
今度は少し船の動きが違った。
実際は、竜さまに持ってもらって十分なスピードがついたところで放してもらう。
飛行機というより、グライダーに近いのかな。
ニーノはいろんなケースを再現してるに違いない。
「すごい! ジュスタ、すごい!」
ぴょんぴょん跳ねて、手を叩いた。
――面白いのじゃ! ニーノもよく風を操るのじゃ!
結局、実験は十回以上。毎回船はちゃんと飛んで、着地した。
でも、ニーノはため息をつく。
「きちんと計算してみるが、かなり厳しいな。船が飛べるだけの速さで竜さまに飛んでいただくことはできるだろう。だが、そのスピードに船が耐えられるか」
「はい」
「重さも問題だ。もっと軽ければ長い距離を飛ぶことができるだろうが、今のままでは常に竜さまに持っていただくことになる」
「――はい」
少しジュスタの肩が下がる。
――む? 山がこれを持つのか? どこを持つのじゃ?
お屑さまが伸び上がって船をのぞき込んだ。
「ああ……、確かにそれも問題です」
船の上に、竜さまが持ちやすい場所を作らないといけない。
でも、持つところを作ったら、その分、重くなってしまう。
「いろいろな構造を作っているが、現状でそれを試せないのも不安だ」
ジュスタが頰をかく。
「そうなんですよね」
ああ、そっか。今は無人飛行だもんね。模型だから、誰かが中に入って、動きを確かめることもできない。
「浮くことは間違いない。ただ、強度と重さだ」
「はい」
ジュスタが眉を下げた。
「――ジュスタのせいじゃないよ!」
思わず、ぴょんと跳ね上がる。
「ジュスタの船浮きました! 重いのはジュスタのせいじゃないです! ジュスタ、すごい!!」
ジュスタはにこっと笑った。
「ありがとう、エーヴェ」
「だいじょうぶ! ジュスタ、ちゃんと飛ぶ船作れます!」
「うーん。そうだなぁ……」
ジュスタはしゃがんで目線を合わせてくれる。
「前にエーヴェが、ルピタからもらったおもちゃを見せてくれただろう?」
「――竹とんぼ!」
飛ぶ船の話が出てから、何度か竹とんぼをジュスタに貸した。
でも、急にどうしたんだろう?
「本当は……、あんなふうに自分で浮き上がるのが、ちゃんと飛ぶってことだと思うんだ」
きょとんとして、瞬く。
「――俺は、もっと努力しないとね」
頭をわしゃわしゃして、ジュスタは立ち上がる。
「ニーノさん、ありがとうございました。もうちょっと考えてみます」
ジュスタをぽかんと見送る。
雨なのに、外に出ていってしまった。
「――ジュスタ、心配!」
しゅばっと見上げたニーノは、眉間にしわを寄せていた。
まだまだ試行錯誤です。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




