11.自分時間の長さ
岩でベルトを固定して、ゆらゆら揺れる。腕輪の先のお屑さまが、はためいてる。
安定感はばっちりだけど、ハーネスで揺れるより、ブランコのほうが楽ちんかな。
隣ではペロがまた、ぽてーと干し草の山に落ちていった。けらけら笑ってると、草むらからぴょんぴょーんと大きい影が飛び出てくる。
「あ、テーマイです!」
何度も来てるので、遠目でもすぐに分かる。
テーマイもこっちを見た。
上から手を振ったけど、目が合った顔にびっくりする。
「なんと! テーマイ、ケガしてます!」
――む! 本当じゃ! きっと噛みつかれたのじゃ!
顔や首にひっかき傷が何カ所も。大きいのはえぐれてて、赤く血が盛り上がってた。
「テーマイ! テーマイ!」
「エーヴェ! バタバタしない! すぐ降ろすから」
ジュスタに言われて、止まる。
スーヒが駆け寄って、テーマイに挨拶してる。ペロは干し草の山から現れて、側に行ってる。
……むー、人間は不自由です。
「テーマイ、大丈夫?」
足が地面に着いて駆け出したら、ベルトに引っ張られて戻された。
「危ないよ、エーヴェ! 落ち着いて!」
――ぽ! 童、なぜ戻ったのじゃ?
「むー! 人間はダメです!」
地団駄踏んでると、テーマイが近寄ってきた。
「び!」
「みー! だいじょうぶですか?」
耳を忙しく動かしたり前肢で地面を蹴ったり、テーマイは落ち着かない。
――ケンカをしたのじゃ! ペロは当てにならぬゆえ、ニーノを呼ぶがよい!
確かに、ペロはリラックスモードになってる。
「テーマイ! ニーノのところに行きます!」
「金具を外すからエーヴェはじっとするんだ。ニーノさんはもう呼んだから」
「おお!」
邸からニーノが出てきて、テーマイが顔を上げ、とんとーんと跳ねていった。
「大したケガではない。心配いらん」
ケガの様子を診て、ニーノはテーマイを邸に連れて行く。
でも、テーマイは邸の入口で止まった。
「テーマイもおいでー」
――テーマイは、ここは入ってはいけない場所だと思っておるぞ。
子どものとき、ここに入れなかったもんね。
「ニーノー!」
「外で構わない」
ニーノが桶を持ってきて傷口を洗い、薬草を塗った布を傷口に当てる。布は包帯で巻くからテーマイの顔と首が包帯だらけになってしまった。
「テーマイ、大丈夫なんですか?」
後からやって来たジュスタに、ニーノは軽く頷く。
「見た目が大事なだけだ」
「よかったです!」
手当が終わると、テーマイは日当たりがいい木の側に移動して座り込んだ。
隣に行って、ちょっと背中をなでる。
……いやかな?
表情を見守る。嫌そうな顔はしてない。
ほっとしてテーマイをなでながら座っていると、スーヒもやって来て側に座る。ペロもやって来たけど、くるーっと一巡りして帰っていった。
日当たりがよすぎて、鉢を取りに行ったのかな?
ジュスタも実験の片付けに戻っていく。
「ニーノ。テーマイ、ケンカしましたか?」
隣に立って、テーマイの頭をなでていたニーノが頷いた。
「ディーのオスとケンカしたらしい。テーマイに子どもを持つつもりはないが、オスがしつこくした」
「なんと! テーマイ、大丈夫でしたか?」
テーマイの背中をごしごしなでる。
「テーマイは強い。オスは追い払ったようだが、気が立っている」
――ぽはっ! そのオスは人気がないオスなのじゃ!
ぴこんぴこんするお屑さまに、首をかしげる。
「どうしてですか?」
――ディーはみんなバラバラで過ごすのじゃ。子どもを作る気持ちになったら、人気があるメスのところに、たくさんオスが集まるのじゃ! そして、ケンカじゃ! メスはオスを選ぶだけなのじゃ! ケンカはせぬ!
メスとケンカするオスは人気がないってことかな?
――テーマイはまだ若いから、人気がないはずじゃ。それなのに、しつこくするのはとっても人気がないオスなのじゃ!
おや? ちょっと違うみたい。
「どんなメスが人気がありますか?」
――長生きのメスじゃ! 子を育てた経験が多いほうが人気があるのじゃ!
「テーマイの親は強いメスだ。竜さまの洞の近くに縄張りを持って、何匹も子どもを育てている」
びっくりしてニーノを見る。
「竜さまの洞の近く、人気ですか?」
「当然だ。いろんな生き物が、この近くに住みたがる。食料が豊かで庇護がある」
じゃあ、激しい縄張り争いが行われてるのかも?
「全体の数が多くないから争いは少ないが、皆できれば竜さまの近くにいたい」
「――エーヴェ、とってもいい場所に住んでます!」
誇らしい。でもテーマイを見て、ちょっとしょんぼりする。
私より短い時間しか生きてないのに、もうオスやら子どもやらの問題に直面してるテーマイ。
寿命が違うから仕方ないのかもしれないけど。
「テーマイは子どもがほしいのかな?」
ニーノはしばらく黙って、テーマイをなでた。
「今は興味がないようだな。親からいろいろ教わって、竜さまに会って、大きい物に興味があるようだ」
「ほー――! すごいです!」
なんだか驚きだ。
野生の生き物は、生まれて大きくなるまでに半分くらいまで死んじゃう。だから、すぐ次の子どもを産むことになると思ってたけど、それ以外のことに興味を持つこともあるのか。
「もしかして、テーマイも、いろんな竜さまに会いたいですか?」
テーマイはこっちをじっと見て、耳をふるっとした。
「ぴゃ!」
声をのぞき込む。
「もしかして、スーヒも、いろんな竜さまに会いたいですか?」
テーマイの横にぴったりくっついて座ってるスーヒは、鼻をうごめかせてる。
「ぴゃっ!」
……うーん。分かりません。
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