表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

188/300

11.自分時間の長さ

 岩でベルトを固定して、ゆらゆら揺れる。腕輪の先のお屑さまが、はためいてる。

 安定感はばっちりだけど、ハーネスで揺れるより、ブランコのほうが楽ちんかな。

 隣ではペロがまた、ぽてーと干し草の山に落ちていった。けらけら笑ってると、草むらからぴょんぴょーんと大きい影が飛び出てくる。

「あ、テーマイです!」

 何度も来てるので、遠目でもすぐに分かる。

 テーマイもこっちを見た。

 上から手を振ったけど、目が合った顔にびっくりする。

「なんと! テーマイ、ケガしてます!」

 ――む! 本当じゃ! きっと噛みつかれたのじゃ!

 顔や首にひっかき傷が何カ所も。大きいのはえぐれてて、赤く血が盛り上がってた。

「テーマイ! テーマイ!」

「エーヴェ! バタバタしない! すぐ降ろすから」

 ジュスタに言われて、止まる。

 スーヒが駆け寄って、テーマイに挨拶してる。ペロは干し草の山から現れて、側に行ってる。

 ……むー、人間は不自由です。

「テーマイ、大丈夫?」

 足が地面に着いて駆け出したら、ベルトに引っ張られて戻された。

「危ないよ、エーヴェ! 落ち着いて!」

 ――ぽ! (わつぱ)、なぜ戻ったのじゃ?

「むー! 人間はダメです!」

 地団駄踏んでると、テーマイが近寄ってきた。

「び!」

「みー! だいじょうぶですか?」

 耳を忙しく動かしたり前肢(まえあし)で地面を蹴ったり、テーマイは落ち着かない。

 ――ケンカをしたのじゃ! ペロは当てにならぬゆえ、ニーノを呼ぶがよい!

 確かに、ペロはリラックスモードになってる。

「テーマイ! ニーノのところに行きます!」

「金具を外すからエーヴェはじっとするんだ。ニーノさんはもう呼んだから」

「おお!」

 (やしき)からニーノが出てきて、テーマイが顔を上げ、とんとーんと跳ねていった。


「大したケガではない。心配いらん」

 ケガの様子を診て、ニーノはテーマイを邸に連れて行く。

 でも、テーマイは邸の入口で止まった。

「テーマイもおいでー」

 ――テーマイは、ここは入ってはいけない場所だと思っておるぞ。

 子どものとき、ここに入れなかったもんね。

「ニーノー!」

「外で構わない」

 ニーノが桶を持ってきて傷口を洗い、薬草を塗った布を傷口に当てる。布は包帯で巻くからテーマイの顔と首が包帯だらけになってしまった。

「テーマイ、大丈夫なんですか?」

 後からやって来たジュスタに、ニーノは軽く頷く。

「見た目が大事(おおごと)なだけだ」

「よかったです!」

 手当が終わると、テーマイは日当たりがいい木の側に移動して座り込んだ。

 隣に行って、ちょっと背中をなでる。

 ……いやかな?

 表情を見守る。嫌そうな顔はしてない。

 ほっとしてテーマイをなでながら座っていると、スーヒもやって来て側に座る。ペロもやって来たけど、くるーっと一巡りして帰っていった。

 日当たりがよすぎて、鉢を取りに行ったのかな?

 ジュスタも実験の片付けに戻っていく。


「ニーノ。テーマイ、ケンカしましたか?」

 隣に立って、テーマイの頭をなでていたニーノが頷いた。

「ディーのオスとケンカしたらしい。テーマイに子どもを持つつもりはないが、オスがしつこくした」

「なんと! テーマイ、大丈夫でしたか?」

 テーマイの背中をごしごしなでる。

「テーマイは強い。オスは追い払ったようだが、気が立っている」

 ――ぽはっ! そのオスは人気がないオスなのじゃ!

 ぴこんぴこんするお屑さまに、首をかしげる。

「どうしてですか?」

 ――ディーはみんなバラバラで過ごすのじゃ。子どもを作る気持ちになったら、人気があるメスのところに、たくさんオスが集まるのじゃ! そして、ケンカじゃ! メスはオスを選ぶだけなのじゃ! ケンカはせぬ!

 メスとケンカするオスは人気がないってことかな?

 ――テーマイはまだ若いから、人気がないはずじゃ。それなのに、しつこくするのはとっても人気がないオスなのじゃ!

 おや? ちょっと違うみたい。

「どんなメスが人気がありますか?」

 ――長生きのメスじゃ! 子を育てた経験が多いほうが人気があるのじゃ!

「テーマイの親は強いメスだ。竜さまの洞の近くに縄張りを持って、何匹も子どもを育てている」

 びっくりしてニーノを見る。

「竜さまの洞の近く、人気ですか?」

「当然だ。いろんな生き物が、この近くに住みたがる。食料が豊かで()()がある」

 じゃあ、激しい縄張り争いが行われてるのかも?

「全体の数が多くないから争いは少ないが、皆できれば竜さまの近くにいたい」

「――エーヴェ、とってもいい場所に住んでます!」

 誇らしい。でもテーマイを見て、ちょっとしょんぼりする。

 私より短い時間しか生きてないのに、もうオスやら子どもやらの問題に直面してるテーマイ。

 寿命が違うから仕方ないのかもしれないけど。

「テーマイは子どもがほしいのかな?」

 ニーノはしばらく黙って、テーマイをなでた。

「今は興味がないようだな。親からいろいろ教わって、竜さまに会って、大きい物に興味があるようだ」

「ほー――! すごいです!」

 なんだか驚きだ。

 野生の生き物は、生まれて大きくなるまでに半分くらいまで死んじゃう。だから、すぐ次の子どもを産むことになると思ってたけど、それ以外のことに興味を持つこともあるのか。

「もしかして、テーマイも、いろんな竜さまに会いたいですか?」

 テーマイはこっちをじっと見て、耳をふるっとした。

「ぴゃ!」

 声をのぞき込む。

「もしかして、スーヒも、いろんな竜さまに会いたいですか?」

 テーマイの横にぴったりくっついて座ってるスーヒは、鼻をうごめかせてる。

「ぴゃっ!」

 ……うーん。分かりません。

評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。

是非、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 一二行目のエーヴェとはためくお屑さまがまるで青春の一ページみたいにきらきらして見えました。お屑さまのはためきしか聞こえず、雄大な景色が眼下に広がってるからかな。素敵なはじまりです。 テーマ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ