10.ぶらさがり実験
今朝はココナッツミルクの香りがする甘いお粥で、お腹がぽかぽかだ。
スーヒは細長い枝をかりかりかじってる。無表情なのに口だけ高速で動いてるのは、相変わらず面白い。
「エーヴェ、今日、ちょっと手伝ってくれるかな?」
「いいよ! 何ですか?」
「二,三六九日は大幅に過ぎてるけど、ベルトができたんだ」
一瞬ぽかんとして、はっと気がつく。
「ひゅんです!」
――ひゅん? ぽ! サーラスの皮じゃな!
お屑さま、ちゃんと覚えてる。
「残念だけど、ひゅんじゃないんだ。船が飛んでるとき、外に出なきゃいけないこともあるかもしれない」
「はい。……あ! ひゅんと似てます」
安全ベルトみたいな物が要る。ジュスタは蜂蜜色の目をとろけさせた。
「ベルトの強度を確かめるんだ。一緒にやろう」
「やります!」
「危ないことはするな」
ニーノが冷たく釘を刺した。
「はい、もちろんです」
「もちろんだよ!」
――わしも見に行くのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんした。
長袖長ズボンに着替えて、ジュスタと合流する。納屋に行って干し草を抱えて運ぶ。森の入口の高い木の下に積み上げた。
――干し草の山を作るのか? 高い山なのじゃ!
干し草運びを、スーヒが嬉しそうについてくる。ときどきこぼれる干し草を、かりかりする気だ。
「スーヒ、つまみ食いダメですよ!」
鼻をひくひくしてるけど、分かったかな?
ジュスタがいるので、ペロもついて来てる。ペロは落ちた干し草を飲み込んで、持ってくる。
たぶん、ジュスタに見せたいのかな。ジュスタの側に行って、吐き出す。
結果的に手伝ってる。えらい。
ジュスタは大きな岩にベルトを掛けた。
高木の枝にベルトを投げて、ぐいっと引く。
引いてるうちに、ベルトがピンと張って、岩が持ち上がった。
「おお! ジュスタ、力持ち!」
ベルトはしっかり岩を支えてる。
――おおお! サーラスの皮が岩を支えるのじゃ! 不思議なのじゃ!
確かに不思議。
ジュスタが何度も脂を塗り込んで、固いけどしなやかになったんだ。
「この岩はエーヴェよりずっと重いから、エーヴェの体重を支えるのは問題ない」
「はい!」
ジュスタはゆっくり岩を地面に戻し、複雑に絡んだベルトを見せてくれた。
「確かめたいのはどっちが楽なのか。お腹を太いベルトで支えるのと、脇と足の付け根四点で支えるのを作ってみたんだ」
「おお! すごいです」
太いベルトでお腹を支えるのは、荷袋式かな?
付けてみようとしたら、ペロがほよんと乗っかった。
「ペロ? つけてみたいですか?」
「ペロが?」
お屑さまを見ると、ぴこんぴこんした。
――ペロはジュスタが作るものは何でも興味があるのじゃ。
「おお。じゃあ、エーヴェこっちにします!」
複雑な仕組みのベルトを引っ張り上げる。
「ここに足を通して、こっちに腕を通す。それから、金具を留めるんだ」
お腹のベルトに両脇と背中からベルトが伸びて、頭が上になる形。ハーネスみたい。
とてもしっかりしてる。
「それじゃ、引き上げてみるよ」
「はい!」
ジュスタはゆっくりベルトを引く。一回、ぐっとベルトに引っ張られ、じょじょに身体が浮く。
「おおおー!」
――ぽはっ! ゆっくり上がるのじゃ! ぽはっ!
お屑さまはちょっとずつ浮いていくのが面白いみたい。
あっちやこっちに顔を向けてる。
「エーヴェ、苦しいところはないか?」
「大丈夫です!」
「動けるかい?」
「動けるよ!」
両手両足バタバタすると、ジュスタはにこにこする。
「もっと上まで行けるよ!」
「よし、分かった」
ぐいぐい視界が上がっていって、邸の屋上が見えてくる。
ひゅんじゃないけど、楽しい。
「ほー、高いです!」
――高いのじゃ! 飛んでないのに、浮いておる! 面白いのじゃ! ぽはっ!
飛んでる船で使えるなら、とっても便利だ。
空中でうぉほっほをしても、大丈夫。
「降ろすよー」
ジュスタの声が聞こえて、ゆっくり地上に戻っていく。
「楽しかった!」
「痛いところはないかい? 赤くなってない?」
一応確認してみるけど、大丈夫そうだ。
「だいじょうぶです!」
報告しに行くと、ジュスタはしゃがみ込んでる。
「どうしましたか?」
「ペロが順番待ちしてるみたいだ」
ペロは荷袋式のベルトを飲み込んで、薄くなった。全部包むのは無理なので、また元に戻っていく。
ジュスタは笑って、ペロの頭上でベルトの金具を止める。
ペロの形は一定じゃないから、ベルトを締めてもあまり意味がない。うようよして皮を包み込んでる。
かしわ餅の餅だけ動いてるみたい。
「じゃあ、引き上げるぞ」
「ペロー、落ちちゃダメだよ!」
ペロはじわじわ上がっていく。
ペロは背が低いから、見上げるのは変な気分。
「ペロ、高ーい」
「うようよしないよ」
ジュスタが言うけど、ペロはうようよして、つるっとベルトから落ちた。
「わ! ペロ!」
干し草の山に一瞬きらっと光ってペロが落っこちた。
「だいじょうぶ? だいじょうぶ?」
しばらくして、ペロが何事もない様子で出てくる。
ペロ、強い!
「ペロに、ベルトは要らないかな?」
ジュスタはほっとした様子でペロをなでる。
ペロは満足げに、ジュスタの周りを回った。
「スーヒはどうかな?」
こっそり枯れ草の山から枯れ草を食べてるスーヒを抱える。
「協力してくれますか?」
スーヒは鼻をひくつかせてる。
「ぴゃ!」
ベルトをお腹に巻いてみたけど、スーヒは後ろ肢をばたつかせてすぽんと飛び出していった。
「あー!」
「スーヒは浮かぶのに興味がないみたいだな」
結構なスピードで走り去り、途中に落ちてた干し草を拾ってもぐもぐしてる。
――ぽはっ! 見るのじゃ! また、ペロがベルトに乗っておる!
振り返ると、ペロがほよんとベルトに乗っている。
「ペロは気に入りました!」
「俺としては、落ちないで欲しいんだけどね」
ペロは薄くなってベルトを飲み込み、また吐き出した。
引っ張り上げてくれるのを待ってる。
「エーヴェもまた浮きたいです! 今度はぶらぶらしてみます!」
「わかった。じゃあ、まずペロから。落ちないでくれよ」
――ダメなのじゃ! また、落ちる気がするのじゃ! ぽはっ!
お屑さまの言う通り、何回やってもペロは干し草の山に落ちて行った。
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