9.スーヒの罠
床に飛び降りて、ほの白い光に輝いてるペロを見つめる。
「おわー! 明るいです!」
――大変明るいのじゃ! ぽはっ! 明るいのじゃ!
テーブルの上で、お屑さまが身を乗り出してぴこんぴこんする。
ヒカリゴケはペロの中をふわーっと移動してる。ヒカリゴケの光をペロの水面(?)が反射してるのか、ペロと周囲がぷわーっと明るい。
ペロがむわっとヒカリゴケを頭の上に吐き出す。
さっきまでペロが光ってた分、ヒカリゴケが暗くなった気がする。
しばらくして、ペロがもう一度、ヒカリゴケを飲み込んだ。すると、ぷわーっと光る。
「ずいぶん明るさが違うな」
ジュスタが側に来ると、ペロはヒカリゴケを頭の上に出したり飲み込んだりする。ジュスタにヒカリゴケを見せてるのかもしれない。
でも、その度にペロが明るくなったり、暗くなったり。
目がちかちかする。
――ぽはっ! ぽはっ! 水玉がぴかぴか光るのじゃ! 面白いのじゃ!
「――構造か、性質か」
ニーノがこっちに踏み出した瞬間、ペロは薄くなってジュスタの後ろに隠れた。形が変わっても光ってる。
光る薄いお盆かな?
「必要なことがあれば、俺が代わりましょうか?」
「……そうだな」
ニーノは元の位置に戻って、ヒカリゴケをカゴに片付けはじめた。
「ヒカリゴケがペロに飲み込まれることで強く光るのか、ペロの形状で光が反射、拡散して明るくなるのか」
「じゃあ、ヒカリゴケをペロに飲んでもらいます!」
ジュスタの背後に回って、ペロをぺちぺちする。むおっとヒカリゴケを吐き出して、ペロは暗くなった。
「ヒカリゴケは光る時間が異なる。ペロは最近、夜は寝ているようだが」
「そうですね、起きてる間だけでもやってみましょう」
――ペロは山のつばきなのじゃ! 山のつばきで明るくなるのやもしれぬ!
竜さまの涎でヒカリゴケが明るくなるかもしれないのか!
「おっしゃる通りです。そちらも確認します」
「すごいですよ! ペロ!」
ペロをぺちぺちする。ペロがヒカリゴケを飲み込んで、ぷわーっと光った。
結果は、ペロだから。
竜さまの涎につけると、ちょっと明るくなるけど、水とそんなに変わりない。ペロのときほどは明るくならなかった。
でも、竜さまの涎を発酵させてまたペロが生まれたら大変なので、発酵は試さない。
あとはやっぱり形もあるみたい。
ジュスタが試しに、ガラスビンの底をくっつけたみたいな六面体の入れ物を作った。新しいおもちゃだと思ったペロが、さっそく飲み込む。でも、同じガラスでも球体のほうが好きなのか、すぐにガラス玉に取り替えてた。
六面体の一箇所にあるくぼみに、ヒカリゴケを入れる。ビンの底みたいなところに光が反射して、ペロほどじゃないけど明るくなった。
薄い緑や青い光がともって、なかなかすてきだ。
「エーヴェ、この灯り好きですよ!」
「そうだね。思ったよりずっと明るい」
――困ったら、ペロにヒカリゴケを飲ませれば良いのじゃ! 面白いのじゃ!
お屑さまは、ぽはぽは笑う。
「ペロは自分が光ってるの、分かるのかな?」
ペロはヒカリゴケを六面体ごと飲み込んで、また輝いてる。
「うーん、どうかな? 俺たちとは全然世界の見え方が違うだろうから」
ジュスタがしゃがんで掌を差し出す。
「ペロ、それ、返してくれるかな?」
ペロはリラックスモード。ガラス玉や六面体がゆっくり回ってて、頭の上からヒカリゴケが吐き出された。
うーん、やっぱり謎です。
毛が二度目に剃られるころには、スーヒはだいぶしっかりしてきた。
走るのと、穴を掘るのが大好き。
ある朝、食堂に駆け込むと、ニーノがスーヒの横に立ってるのが見えた。
「ニーノ、おはよー!」
「おはよう」
何してるのかな?
ニーノとスーヒを見比べる。スーヒの服は土だらけで、干し草ベッドで熟睡。
「スーヒ寝てます」
「昨夜ずっと起きていたようだ。邸を出るときは注意しろ」
瞬きして、さっそく外に出てみる。
鉢からうぞうぞ出てきたペロも呼んだ。
外を眺めても、特に何もない。ところどころ土の山があるから、スーヒが穴を掘ったみたい。
「穴をのぞこう! ――うわっ!」
ぴょんぴょんと弾んで、三歩目で地面が沈んだ。
膝を土で打って、痛い。
「むー……、うわぁ!」
すりむいたか確認しようと地面に座ったら、そこもへこんだ。
ぽかんとする。
お尻がはまって空が見えてる。
「ペロー!」
邸の入口でぼんやりしてたペロが、のそのそこっちにやって来る。
「ペロ、気をつけて!」
声をかけた瞬間、ペロが消えた。
「おわ!」
慌てて、足をバタバタして穴から抜け、ペロが消えたところに行く。
「ペロ!」
のぞき込むと、穴の底でペロが固まってる。
地面ごと落ちてビックリしたんだ。
「注意しろと言っただろう」
邸の入口にニーノが立ってる。
「ニーノ! 穴があります!」
ニーノが軽く息をついた。
「スーヒがこの辺り一帯、穴を掘ったようだ。一見変わりないが、浅いところを掘っているから足を取られる」
「なんと!」
それは落とし穴!
「スーヒが起きたら、埋める作業をする。それまで、気をつけろ」
ニーノは食堂へ戻っていく。
「ペロ、大丈夫ですか?」
ニーノの気配を感じて薄くなってたから、なんだか水たまりみたい。
でも、だんだん丸みが戻ってきて、のそのそ穴の底から上がってくる。
「気をつけて帰ります! 穴だらけ!」
さっき通ったところは大丈夫なはずだ。
注意して帰る。
短い距離だけど、どきどきする。
邸の入口にたどり着いて、ペロを見下ろした。
「……ペロ、ニーノは穴に落ちたのかな?」
ペロはすさささっと食堂に入る。
追いかけて入ると、ジュスタと鉢合わせた。
ペロがぐるぐるジュスタの周りを回ってる。
「エーヴェ、おはよう。ペロ、どうしたんだろ? ――あれ? 泥だらけだな」
「スーヒの罠です! 邸を出ちゃダメだよ!」
両手を上げて主張した。
ジュスタはきょとんとしてる。
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