8.光のぽんぽん
スーヒの毛が一センチまで伸びると、まだ光ってるのが分かった。
後光がぼんやり射してるみたいで、ちょっと面白い。
「きちんと生えそろったら、もう一度、剃ろう」
毛の様子を診たニーノが言う。スーヒの退院が延びたってことだ。
こっそりうぉほっほをしていると、ジュスタがやって来た。
「おや、エーヴェ、うぉほっほだね」
ぴょんと振り返る。
「ジュスタ! 晩ご飯ですよ!」
「ああ、道理でお腹がすくと思ったよ」
最近もジュスタは、部屋や工房を行ったり来たりして、忙しそう。
「ジュスタ、どうですか? 船はうまくいきますか?」
「がんばってるよ。――ああ、エーヴェにこれをあげる」
食堂に入ったところで差し出された。
掌には、タンポポの綿毛みたいに丸い毛のぽんぽんが乗っかってた。
「うわー! 光ってます!」
毛のぽんぽんってだけでもかわいいのに、ぼんやり薄緑色に光ってる。
「分かった! スーヒの毛です!」
「当たり。ナイフの柄につけようか? どこにあるのかすぐに分かるだろ」
素晴らしいアイディアだ。
さっそく部屋に駆け戻って、ナイフを持ってくる。ジュスタが紐で、柄にぽんぽんを結びつけてくれた。
「おわー! すてきだね!」
ナイフを持ったり、ベルトに収めたりして様子を眺める。
……すてきだ!
「毛を使うのが案外難しくて、練習用に作ったんだ」
「練習? じゃあ、本当は何にしますか?」
「えーっとね、ちょっと待ってて……」
「貴様ら、飯が先だ。席に着け」
部屋に戻りかけたジュスタにニーノの声が飛んだ。
今日は炊き込みご飯。いい匂いのキノコは、スーヒが見つけた。
穴掘りの練習に、テーマイとニーノとスーヒ、四人で鍛錬に行くことがある。その最中に発見した。丸っこいキノコで土に三分の二は埋まってる。かすかに針葉樹みたいな匂いがする。
ニーノによる厳しいチェックを経て、食べていいと判断された。食卓に上るのはこれが二回目。
キノコは味が染みて、いい香りでおいしい。
食堂の端からは、かりかりと枯れ葉をかじる音がする。
見つけたスーヒは、キノコに興味なしだ。
ペロは鉢に収まってたけど、ジュスタの気配を感じたのか、うぞうぞ出てきた。
お屑さまは止まり木で熟睡中。
お腹がいっぱいになって、食卓を片付けるとジュスタが部屋から船の模型を持ってきた。
ペロが壊したときから、船の形はだいぶ変わってる。マストがなくなり、帆は横に張りだして三重の羽になった。甲板は丸っこくなって甲虫の胴体みたい。
「すごく変わったね!」
「うん。やっぱり空の上と水の上は違うなって思ってさ」
ペロが頭に船をのせて走っていたとき、帆が風で後ろ向きにふくらんでるのを見て、縦に帆を張っても意味がないと気がついたんだって。
……どういうことかな?
「船は水に接してるから、風を一方向から受ければ進める。でも、空を飛んだら船はどこにも固定されてない。だから、まずは水平に船を支える帆がいるんだ。風を受けて、風に乗っかる」
「ほおー」
「大きな船を支えるには強くて長い帆が要る。長い帆を持ってると、帆の先が見えないかもしれないだろう?」
操縦をどこでするか分からないけど、帆の先まで見るのは大変そう。
「あ! スーヒの毛!」
「そう。特に暗いときには光ってくれるととても分かりやすいから」
おお! 帆の端がスーヒの毛で光ります!
「そんなに量はなかったはずだが」
首をかしげたニーノに、ジュスタは頷く。
「はい。だから特徴的な形にしたら、分かりやすいかと思って」
それでぽんぽんを作ったのか。
「あと、雨が降ったときに水が溜まるのも困るから、甲板を屋根みたいに傾けて、落ちて行くようにした」
「うんうん」
身を乗り出して、椅子の上でぴょんぴょん跳ねる。ペロは食卓に登りたそうに、部屋をぐるぐるめぐってる。
「この円い穴は何だと思う」
模型の甲板に開いた穴を示されて、目をパチパチした。よく見ると、船の側面にもある。
「あ、窓だ!」
「そう。エーヴェが明るいほうがいいって言ってたからね」
「おおー!」
役に立ってる感じがする。
「でも、どうして円いの?」
大型船の窓が円いのは、割れにくいからだったと思うけど、円く穴を開けるのは大変なはずだ。
「ガラスは重くなるから、ここには竜さまの鱗を使おうと思ってる」
「ふわぁー!」
窓が竜さまの鱗!
「外がよく見えたほうがいいところはガラスだけどね。竜さまの鱗はとっても軽いだろ?」
「軽いよ!」
何しろ私が持ち上げられる。
「ニーノさん、ヒカリゴケのほうはどうですか?」
「ああ、そうだな。持ってこよう」
ニーノは部屋に戻って、カゴを持ってくる。ガラス槽に入ったコケを並べていくと、八種類もあった。
そのうち二つが光っていて、一つは白っぽく、もう一つは緑色で薄暗い。
「この辺りが灯りになりそうなコケだ」
ふさふさで白く光ってるコケを指先で摘まむ。
「これはほとんど乾燥しているが、光る」
「エーヴェも触りたい!」
無言で掌に落とされた。
乾燥した水苔みたいにカサカサだけど、ほわっと白く光ってる。
「水を含んだほうが明るいようだが、乾燥しても光るからありがたい」
「そうですね」
掌がほの白く浮き立つのが面白くて、掌を開いたり閉じたりする。
「すごいねー」
高く持ち上げてかざしていると、止まり木のお屑さまがぴょこんと顔を上げた。
――ぽ! 何がすごいのじゃ?
「わ!」
びっくりして、ヒカリゴケが手を離れる。
落ちた先にペロがいた。一瞬後、ペロはヒカリゴケを飲み込む。
「なんと!」
――なんと!
お屑さまと声が重なった。
ヒカリゴケを飲み込んだペロは、ぴかぴかに輝いている。
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