7.ぼんやり、ぼんやり、とんでけー!
ニーノが洞の外に出て、しばらくして戻ってきた。
「皆、落ち着きました。ありがとうございます」
――うむ。何よりじゃ。
耳を澄まさなくても、鳥の声や風の音が戻ってきた。
風の音は気のせいかな?
「りゅーさまはみんなに大事です! 偉大!」
嬉しくなって、両手を上げる。
竜さまの近くが安心だから、たくさんの生き物がいるなんて知らなかった。私がお乳をもらえたのも、ディーが近くで子育てしてたからなのかも。
「ここは竜さまの座だ。俺たちが気づいてなくても、竜さまは大事なんだな」
ジュスタがほっとした顔で笑った。
竜さまに聞いた話だと、その後も洞に鳥やコウモリや虫やイノシシなんかが顔を見せに来たらしい。
――皆の顔を見られて、なかなか良きことである。
金の目を細めた竜さまは満足げだ。
お屑さまの周囲騒がせな提案だったけど、竜さまがいろんな生き物に大事にされてるのが分かったので、ウキウキする。
私も竜さまに会いに来る生き物が見たくて、洞の近くで木の陰に隠れてみたけど、やって来たのはニーノだった。
「皆があやしんでる」
「なんと」
きょろきょろ周りを見たけど、やっぱり何もいるようには見えない。
みんな、隠れるのが上手。
スーヒのぼんやりは、どこかに行ってしまった。邸のあっちこっちをのぞいては、追い出されてる。
なぜか階段が気に入って、登ったり降りたりするので、一緒に登ったり降りたりした。
毛が少し伸びだしたころに、ニーノが顔とお尻以外を覆う服を作ってあげて、ますます動きやすくなったみたい。
ときどき、朝、部屋に来て「ぴゃ」と鳴く。
一緒に階段で遊ぶと満足して、食堂で枯れ葉をかじる。
静かにしてるときは、要注意。
「あ! スーヒがまた、椅子の脚をかじってます!」
スーヒはやっぱりネズミに近いのか、何かをかじりたくてしょうがないらしい。
「こら、さっきかじる用の棒をあげただろ?」
スーヒは、不満そうに鼻をヒクヒクさせる。ジュスタがあげた前足で抱えるのにぴったりの棒は、見当たらない。
――ぽ! ペロじゃ! ペロが飲み込んでおるぞ! ジュスタが作ったものは、全部興味があるのじゃ! ぽはっ!
「こらー! ペロー!」
棒を飲み込んで、ほよんとしてるペロを追いかける。スーヒもついて来て、かけっこになった。
スーヒは脅かしで走ってから、走る楽しさに目覚めたみたいで、誰かが走るとついて来る。ペロともよく追いかけっこしてるので、意外と仲良しなのかも。
すさささっと走るペロを追いかけて、竜さまの洞への道に入る。
「あ! テーマイですよ!」
草を食べてたテーマイがこっちを見た。
脅かしの翌日にはテーマイは竜さまの洞にやって来て、スーヒと遊んだ。
テーマイはスーヒよりずっと背が高くて足が速いけど、スーヒを飛び越えたり、ジグザグに走ったりして上手に遊ぶ。
スーヒは一生懸命追いかけるけど、あんまり長いこと側に行けないと「ぴゃ!」と鳴きはじめる。そして、ころんとひっくり返ってふて寝だ。
「スーヒ、どうしましたか?」
傍に寄ろうとすると、ととっとテーマイが寄って来た。
テーマイはスーヒを放って、私とボール遊びを始めたり、竜さまの近くに行ったりする。そのうち、スーヒの機嫌が直って、みんなでボール遊びした。
テーマイは、なかなかスーヒの扱いが上手です。
棒を飲み込んで走るペロに、テーマイは耳を向けて注目してる。
最初はペロを警戒して、岩の上や竜さまの尾っぽの上に逃げてたけど、最近は様子を見ている、くらいまで慣れてきた。
ペロはテーマイの側をくるっと一周して、洞に入っていく。
スーヒも一周しようとして、でも、ペロの動きに気がついてそっちを追う。
「テーマイ! み!」
私はテーマイの前でぴょんと跳ねた。テーマイは耳をパタパタする。
「び!」
うっふっふー! 挨拶できるようになりました。
――ボール遊びをするのじゃ! 童、ボール遊びじゃ!
お屑さまは不思議だ。自分ではボール遊びできないのに、盛り上がってる。
お屑さまはペラペラなので、ボールが直撃するとぺちゃんなのだ。
テーマイはぴこんぴこんするお屑さまが気になるみたいで、鼻を伸ばす。
――ディー! わしはお屑さまなのじゃ! 偉大な竜であるぞ! ぽはっ!
テーマイの鼻息で、お屑さまはそよそよした。
「りゅーさま! おはよーございまーす!」
テーマイと一緒に洞に入る。
――うむ。おはよう。すっかり賑やかであるぞ。
竜さまは、ペロとスーヒがあっちの壁からこっちの壁へ、ぐるぐる走り回るのを目で追ってる。
こんなに走れるなら、きっと食べられそうになっても素早く逃げられるはず。
「はい! 賑やか! スーヒもとっても元気です!」
――ぽはっ! 違うのじゃ! 皆元気なのじゃ! 良きことじゃ! ぽはっ!
お屑さまは嬉しそうにぴこんぴこんした。
今日も平和です。
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