2.朝の冒険
前話に少し加筆しました。
朝起きて、すぐに竜さまの顔が見られるのは素晴らしい。
「おはよーございます! りゅーさま!」
――おはよう、エーヴェ。今日はいい天気じゃ。
まだ太陽が出てなくて、空に黄色と青のグラデーションが広がってる。
――ニーノとジュスタは、まだ帰っておらぬ。予定より遠出したようだ。
「じゃあ、まだ竜さまとおするばん! ……るすばん!」
ペロが竜さまの爪の裏から出てくる。
「おはよー! ペロ」
ペロは転がってる鉢に近づいて、身体を滑り込ませる。
二人で竜さま一周かけっこをした。
休まずに走ったらペロのほうが速いけど、いろんな方向に走ったり、ぽよんと止まったりするのでけっこういい勝負だ。
――うむ。二人とも速いぞ。
こっちを見ている竜さまを見上げる。
「りゅーさまは走りますか?」
――走るより、飛ぶほうがよい。
竜さまの飛ぶ姿ばっかり気にしてたけど、走る竜さまもきっと大迫力。
一周を終えて、竜さまの背中に登ってでんぐり返しをして遊ぶ。
「ペロは竜さまに乗れなくて残念です」
首を伸ばして様子を見ると、ペロはすでに二周目ダッシュに入ってた。
「……でも、楽しそうです!」
――うむ。ペロはのびのびしておる。
怖いニーノがいなくて、大好きな竜さまの側だもんね。
――二人が戻るに、いまだ時間がかかりそうである。エーヴェ、腹が減っておろう。ジュスタが朝食をエーヴェの部屋に隠したと言っておったぞ。
「おお! 本当ですか!」
竜さまの首を登るのに夢中になってたけど、もうお腹が減っている。
「じゃあ、エーヴェ朝ごはん探してきます!」
――うむ。ペロも一緒に行くとよい。
ペロはギザギザに走って来て、私の前で止まった。
「はい! じゃ、ペロと一緒に行ってきます。行きますよ、ペロ!」
声をかけて走る。
振り返ると、ペロはぽよんとしてたけど、急に気がついたみたいにすさささっと走って来た。
「ペロ、どうしてジュスタは朝ごはん隠したのかな? 晩ごはんのカゴに一緒に入れてもいいよ!」
露の上を走って、ペロはちょっと大きくなってる。
「あー――! ペロはつまみ食いです!」
笑いながら、ぴょんぴょん跳ねる。ペロもちょっと跳ねてる気がした。
邸の前に着いて、いいことを思いつく。
「ペロ! エーヴェの部屋に窓から入ります!」
入口からそれて、部屋の窓の下に立つ。窓の扉を開け、つま先立ちで部屋をのぞき込んだ。自分の部屋だけど、見たことない感じでわくわくする。
「むー、背が届きません」
足下のペロを見た。
「お! ペロ、こっち来て! エーヴェ、上に乗って部屋に入ります!」
ペロの肩車! いや、頭かな?
ペロはのそのそ近づいてきたけど、窓の下で止まってくれない。
「こっちこっち! ――行きすぎです! こっち!」
誘導しても、ペロは好きに動いてる。そのうち、壁に張りついて登り始めた。
「わー! わー! 待って!」
窓に向かって登るペロの鉢にしがみついて、引き留める。
でも、ペロは意外と力が強い。
「あわわ!」
鉢から手が滑って、地面に落ちた。
薄情なペロは窓のさんに登って行ったり来たりしている。
「むー!」
口を尖らせて周りを見た。何もない。
走って、納屋に向かう。納屋の入口の脇に置いてあった箱をひっくり返して中身を捨て、取って返す。
箱を窓の下に置いて、えいやと登った。
「ほら! ペロ! エーヴェも登りましたよ! ――とうっ!」
かけ声とともに床に飛び降りる。
ペロものそのそ壁伝いに降りてきた。
「よし! ペロ! 朝ごはんを探します!」
さらーっと部屋を眺め渡す。
特に変化は感じない。
「……きっといい匂いがしますよ!」
ふんふん匂いをかぐ。
美味しい匂いはしない。
「むー、おかしいなぁ?」
ちゃんと探す。寝台の下をのぞき、赤い目の竜さまモビールを見上げ、竜さまの鱗を動かす。
「あ! これなにー?」
大きな四角いカゴがあった。目がしっかり詰まってて、背負えるようになってる。
「むむ! ペロ、これはジュスタっぽいですよ!」
ペロも近づいてきて、竜さまの鱗の端を飲み込んだ。
カゴを揺すってみる。
なかなか重い。
固い物がかちゃかちゃいうのと、液体が揺れる感じがする。
中が見たいけど、どうやって開けるのかな?
背負う帯がついてる反対の面に、複雑に編まれた模様がある。
何かの鍵になりそう。でも、触っても開かない。
「むー。分かりません」
ペロが鉢から竜さまの鱗に移ろうとしてる。
さっと取り上げて、寝台に安置した。
「ペロ! りゅーさまのところに戻ります! りゅーさまなら開けられるかもしれません!」
寝台の下でうようよするペロに声をかけ、謎のカゴを背負った。
「りゅーさま! 見つけました!」
洞に帰って、竜さまに背負ったカゴを見せる。
ペロはしたたたたっと、まっすぐ竜さまの爪に駆け寄る。
――まだ食べておらんのか?
「カゴが開かないです!」
よいしょっと降ろして、竜さまに披露する。
「何か入ってる感じします!」
竜さまはすいっと鼻面を寄せて、金の目を二度瞬いた。
――中に熱がある。……よく分からぬが、これはもうすぐ開くぞ。
「お?」
首をかしげて、改めてカゴを見た。
あれ? 編まれた草の模様が変わっている。
複雑な模様で鍵かなと思った場所だ。
……ぶつっ
何かが切れる音がした。
「なにー?」
傍に寄ったとき、弾けるようにカゴの蓋が開いた。
「ほわっ!」
――む?
竜さまもちょっと首を縮める。
……爆発かな? びっくり箱?
おそるおそる近づくと、いい匂いがした。
「あれ? スープの匂いです!」
中には器に入ったスープと葉包み焼きがある。
人差し指でつっつく。
「なんと! あったかい!」
中の食べ物は、しっとりして温かかった。
「すごい! ジュスタ、魔法ですよ!」
――うむ。驚いたぞ。
竜さまもカゴをのぞき込む。朝ごはんの他に、焼けて切れた植物やお湯が入った容器や石がある。
これが何かの仕組みかな?
分からない。
とにかく、もうお腹がペコペコだ。
葉包み焼きを剥くと、中からふわっと湯気が上がった。
「いただきまーす!」
叫んで、湯気ごとかぶりついた。
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