おまけ 夢は遠い
新章前のオマケ日常です。
鉢の中で眠ってるペロに水をかける。
ふだんペロは、朝ご飯の前に起きてるから、今日は起きるのが遅い。
昨日の大活躍で、くたびれたのかな。
「おはよー! ペロ!」
水はみるみるうちになくなる。
どうやって水を飲んでるのか、いつも不思議。
ペロはうぞうぞして鉢の片側にあふれ出し、床に着くと、えいやっと鉢を持ち上げてかぶった。
鉢かぶりスタイル完成です。
「ペロ! 今日はエーヴェとボール遊びの練習をします!」
うぞうぞ歩き出したペロを追いかけて、説明する。
「テーマイとペロとエーヴェの三人でボール遊びできたら、とっても素敵です!」
テーマイはペロの気配に逃げ出しちゃったけど、船が浮かんでないペロは水玉だから、きっと仲良くなれると思う。
「ペロはディーを知ってますか? テーマイはディーですよ!」
――童! わしを忘れておるぞ! わしも行くのじゃ!
テーブルからお屑さまの声が聞こえて、慌ててお迎えに行った。
ニーノの用事がすんでから鍛錬に行くので、それまで邸の前でボール遊びだ。
「お屑さま、ペロはボール遊びできると思いますか?」
――ペロはよく、ガラス玉を転がしておるのじゃ! ボールとガラス玉はだいたい同じ形なのじゃ。
なるほど。ガラス玉から練習を始めれば、すぐにコツをつかむかもしれない。
ふとペロを見ると、ガラス玉のほうへ向かっている。
先回りして、ガラス玉を拾った。
「ペロ! ボール遊びです! こっちこっち!」
邸の外に走り出る。ペロも追いかけてきた。
しゃがんで、ペロにガラス玉と籐で編んだボールを見せる。
「これはペロのガラス玉。これはエーヴェのボール。どっちも転がして遊ぶものですよ!」
ちりちり、ちりり……
草原に両方転がすと、ペロは素早くガラス玉を追いかけて、飲み込む。
そのまま、リラックスモード。
……安心してるみたい。
籐のボールは無視だ。
――ぽはっ! ペロはエーヴェのボールをボールだと分からぬのじゃ!
ボールを拾い上げて、ちりちりと振る。
「ペロー! ボール! 転がしますよ!」
ちりちり、ちりり……りん
転がった籐のボールがペロに、ぽよんと当たった。
ペロがボールを飲み込む。
しばらく、ボールがゆっくりとペロの中を漂った。
ペロの中で物が回ってる様子はスローモーションみたいで、夢を見てる気持ちになる。
ぬわっとボールはペロから出てきて、ころころ転がった。
ペロはガラス玉を飲み込んだり、吐き出したりで遊びはじめる。
むー、興味がなさそうです。
「お屑さまー! どうしたら、ペロはボールで遊びますか?」
――知らぬのじゃ! 赤子は好きなもので遊ぶのじゃ! ペロはガラス玉が好きなのじゃ。……ぬ? もしや、遊び方が分からぬのかもしれん! わしも知らぬぞ! どうやるのじゃ?
「お? お屑さま、ボール遊びできますか?」
竜さまともボール遊びをしたことを思い出す。
テーマイとペロと三人で遊ぶことを考えてたけど、お屑さまも加わったらさらに嬉しい。
試しに、投げたボールをリフティングしてみる。
――ぽはっ! 身体のいろんな所に当てるのじゃ。当たって、ボールはまた飛ぶのじゃ。ぽはっ!
お屑さまの言葉にちょっと考える。
お屑さまやペロには手や足がない。気がついて、おでこで突いた。
「――こう! ですよ!」
ヘディングの見本。
――ぽ! 童! わしにも投げるのじゃ! わしもやるのじゃ!
「おお! はい!」
わくわくして高く投げ上げる。
お屑さまは素早くボールの下に入りこんだ。
――ぽ!
「ぎゃー――!」
お屑さまの細い身体が、籐の編み目の隙間に入りこんでしまう。
ボールにお屑さまが突き刺さったみたい。
――ぽはっ! これはうまくいったのか? ぽはっ!
輪投げなら、とってもうまくいった結果だけど。
「おお……」
「――エーヴェ、どうかしたか」
氷みたいな声に跳び上がった。
「ニーノ! 大変です! お屑さまがボールに突き刺さりました!」
ボールをまとったお屑さまに、ニーノは目を見張る。やがて、軽く息を吐いた。
……うーむ。ボール遊びの夢は遠いです。
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