22.ペロ、ぶよん
「りゅーさまー――! ただいまー――!」
駆け込んだ洞の中は、白銀のたてがみの光でほの明るい。
――エーヴェ、戻ったか。大事ないか?
鼻をすいっと近づけられたので、嬉しくて飛びつく。
「大事ないです! テーマイもニーノもペロも来ました!」
「ミクラウモという花の花粉でジュスタが眠って、エーヴェが一人になったようです。竜さまは、ミクラウモをご存じですか?」
ニーノの言葉に、竜さまは金の目を一つ瞬いた。
――名前を聞いたことはある。しかし、粉で人が眠るのか。
――そんなことは知らぬのじゃ! しかし、花の中で、ふらふらしたり寝たりするハチはいるのじゃ。ふらふらしたり、寝たりするのは粉のせいかもしれぬ!
「お屑さまも寝ましたよ!」
竜さまの鼻から額に登って、振り返る。
――痴れ者め! わしは好きなときに寝るのじゃ! 粉など関係ないのじゃ!
うーん、お屑さまは起きても元気だったから、本当に偶然同じタイミングで寝てたのかな?
「寝てるジュスタ、なんだか嬉しそうでした。寝る前も、歌歌って楽しそうでした」
粉には楽しくする効果もあるんじゃないかな?
「そうなんです。今思うと、夢を見てたみたいで。竜さまが飛ぶ日の夢でした」
「なんと!」
ジュスタはにこにこしてる。
「竜さまが飛ぶために羽をぐーっと伸ばすんですけど、それが邸に当たって邸が一部壊れちゃうんですよ」
「ジュスタ、船はできてましたか?」
竜さまが頭を上げたので、ジュスタはぐんぐん遠くなる。
「うん、できてたみたいだ。その場にはなかったけど、満足感があったからね。何より、久しぶりに竜さまが飛ぶのを見られて、すごく嬉しかったよ」
「ほおー!」
興奮して、両手を上げる。
飛ぶ竜さまの夢! それは嬉しいです。
「楽しい気分になって、楽しい夢を見るだけですし、ミクラウモも別に悪気はないんでしょう」
――ふむ。
「念のため、調べておきます」
ジュスタはのんびりだけど、ニーノは全然油断してない。明日にも調べに行きそう。
「ニーノ、寝ないように気をつけます!」
――うむ。エーヴェの言う通りじゃ。気をつけるが良い。
「はい」
――ところで、さきほどからペロがあちらに行ったりこちらに行ったりしておる。
ペロの移動では音が立たないけど、頭に船をのせてるから、ぱたぱたと帆が風を受ける音がしている。
――山よ、ペロが頭にのせておるのは船じゃぞ! 水に浮かぶゆえ、水玉にも浮かぶのじゃ! ぽはっ!
――うむ。ジュスタが作ったものであろう。なにゆえ、ペロが頭にのせておるのじゃ?
「あぁ! そういえば、ペロはジュスタの船を壊しましたよ!」
ペロの動きを追いかけてあちらを見、こちらを見する竜さまの鼻先にへばりつく。
……あれ?
「ペロ、船を渡してくれるか?」
ジュスタがしゃがんで呼びかけると、ペロは近づいてきてしばらく周囲をぐるぐるする。
「――さっさと返せ」
ニーノの声に一瞬固まり、すささっとジュスタの後ろに隠れた。
「ペロ、ニーノさんは怖くないよ」
笑いながら、ジュスタが船を手に取る。
……やっぱり、残骸がなくなってる。
「うん、そうだ。――ペロが修繕したんだね」
船がなくなったペロは、リラックスモードの水玉になってる。
ジュスタは船をいろんな方向に傾けてる。しげしげ見つめて、目を丸くした。
「ははは! 面白いな、形が変わってる! ペロが変えたのかな?」
隣でほよんとしてるペロの頭に手を置く。
「いったいどうやってつないだんだ? 船の元の形もよく分からなかったはずなのに……」
竜さまがふっと鼻息をもらした。
――ペロは船がどういうものか分からぬゆえ、どう乗れば壊れるかも分からなかった。大きな音がして驚き、皆が悲しむのでまた驚いたのじゃな。
むー、ペロに悪気がなくても、とってもショックでした。
ジュスタは蜂蜜色の目をとろけさせる。
「ペロ、ありがとう。ペロが船を壊したとき、怒りはしなかったけど、ちょっと悲しかったんだ。時間をかけて、知恵をしぼって作ったからね。でも、今、すっかり悲しくなくなったよ。……ペロはすごいな!」
しばらく止まったペロが、ぶよんと震えた。
みんなが見つめる間、何回かぶよんぶよんする。
――ぽはっ! 残念なのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんし、竜さまは金の目を細めた。
「なになに? 何ですか?」
――ペロは跳ねたいが、いつもよりずっと身体が大きいゆえ、震えにしかならぬのじゃ! ぽはっ!
「なんと!」
ペロもやっぱり嬉しいときに跳ねるのかな? ジュスタが悲しくなくなって、ペロが嬉しいならエーヴェも嬉しいな!
「分かった、分かった。無理しなくていいよ」
ジュスタにぺちぺちされて、ペロがまたぶよんとする。
ニーノが軽く息をついた。
「ようやく一段落か」
「おお! ひとだんらーく!」
竜さまの頭の上で、うぉほっほをした。
次回から新章になります。プロローグが遠い。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




