21.ボール遊びの約束
濃い睫毛をパチパチさせて、ジュスタが目を開けた。
「んー? あれ? ここ、どこだ?」
のそっと身体を起こして、周りを見る。
「森? あれ? 工房にいたはず……」
「ジュスタ! ジュスタは眠ってましたよ! だーいぶ眠ってました!」
「寝てた?」
「そうだ」
ニーノが側にやってくる。
「あ、ニーノさん」
「竜さまが、エーヴェが森で呼んでいるとおっしゃったから来た。貴様はエーヴェの側で眠りこけていた」
ジュスタは目を丸くしてる。
「わー! りゅーさま、エーヴェの声聞きました! りゅーさま、偉大!」
すっかり暗くなった森の道で、ぴょんぴょん跳ねる。
「うわぁ……そうか――ん? あれ、ペロ」
ジュスタはまだぼんやりしてるみたい。
膝にのったペロと船に、やっと気がついた。
「これ、俺が作った船だ。返してくれるんだな」
膝からあふれてるペロを、よしよしなでる。
「それだけじゃないよ! ペロはミクラウモの粉を取ってくれました! とってもえらい!」
「ミクラウモ……、そうだ、ニーノさん、ミクラウモという花が――」
――ミクラウモもはきれいなのじゃ!
いきなりぴこんと起き上がったお屑さまに、びっくりした。
「わあ、お屑さま! 起きました!」
――ぽ? わしは寝ておったか! なんと! もう暗いのじゃ! 童ははやく邸に帰るがよいぞ! 夜の森は童には危ないのじゃ! およ? ニーノがおる! 水玉もおるぞ! ぽはっ! 何じゃ、その姿は! 船を浮かべておる! 面白いのじゃ!
ぽはぽは、ぴこんぴこんするところを見ると、お屑さまはぼんやりしてない。
「――お屑さまのおっしゃる通りだ。まずは戻るぞ」
ジュスタがふらふらしながら立ち上がった。
「ジュスタ、だいじょうぶ?」
「うん、大丈夫。エーヴェに心配かけてごめんな」
「肩を貸すか」
ニーノが冷たい目でジュスタを見てる。
「ははっ、大丈夫です。なんだか、体中眠ってたみたいな感じですが、じきに元に戻りますよ」
ペロと船は、ぐるぐるジュスタの周りを回ってる。
……心配なのかな? ちょっと面白い。
でも言葉の通りで、少し歩くうちジュスタはいつも通り動けるようになった。
「鍛錬の途中で眠っちゃうなんて、ごめんな、エーヴェ」
急いで邸に戻る途中、ジュスタが手をつないでくれる。
「エーヴェ、とても困りました! でも、テーマイが来てくれたから、元気です!」
「テーマイ?」
「一緒にボールで遊んだ子どものディーですよ! エーヴェの弟か妹!」
「妹だ」
隣を歩くニーノが口をはさんだ。
「お?」
「オスなら、すでに二本に分かれた角を持っている」
――ディーのオスは大きい角が生えるのじゃ! 木の枝みたいに分かれるぞ! 分かれる数は、ディーが生きた時間に左右されるのじゃ! けれども、わしも八分かれほどしか見たことがないのじゃ! 不思議なのじゃ!
ディーの新事実!
「テーマイの角小さかった! エーヴェの妹!」
――ぽはっ! なぜ、ヒトとディーがきょうだいなのじゃ? エーヴェはヒトであるぞ!
「それは、テーマイの親ディーのお乳をエーヴェも飲んで大きくなったからですよ! だから、兄弟姉妹です!」
――ぽはっ! ぽはっ! 愚か者! 同じ物を飲んだらきょうだいなら、川の水を飲んだものも皆きょうだいではないか! そこら中きょうだいなのじゃ! ぽはっ!
そういう考え方もあるけど、説明してもぽはぽはされそう。
「そうか。あのときの子どものディーか。でも、どうして来たんだろう?」
「そうです、とっても不思議です!」
――ディーは臆病なのじゃ! ヒトの側には来ぬ。
うーん。やっぱり、私が心細いのが分かって、助けに来てくれたのかな?
「貴様はいつもボールを持ち歩いていただろう」
ニーノの言葉に、顔を上げる。
「鈴の音を聞いて、そちらに行くことはあったらしい。だが、鍛錬は一所にとどまらない。いつも音が動いていて、行き着かなかったようだ」
「そっか。エーヴェ、じっとしてました」
「それでたどり着けたんだろう」
なー――んだ。私に会いに来てくれたんじゃないのかぁ。
「……じゃあ、またどこかでボール遊びをしていれば、会えるかもね」
「おお!」
素晴らしいジュスタの提案に顔を上げる。
「エーヴェ、ボール遊びします!」
「うん。俺もテーマイに会えたらいいな」
「おお!」
――わしもテーマイとやらに会うのじゃ! ヒトに会いに来るディーは珍しいのじゃ!
「おお! みんなで会います!」
みんなでボール遊びをする。
想像したら嬉しくて、跳ねた。
邸には寄らずに竜さまの洞に向かうかと思ったら、ニーノに止められた。
ニーノが邸に入り、すぐに戻ってくる。
手には絞られた布。
……何だろう?
「お屑さま、失礼いたします。お顔に土が付いています」
――およ?
そのまま、お屑さまを布でふきはじめる。
――ふぼぼぼぼぼぼ、ふぼぼぼぼぼぼ。
……ふかれてる音かな?
ぽかんとしていたら、ニーノがこちらを見た。
「お屑さまが寝ているとき、そのまま引きずり回したか?」
はっと思い返してみる。
お屑さまが寝てるときは、腕輪からぶら下がってる。システーナは背が高いから引きずらないけど、私だと地面に顔がつくかもしれない。
「お屑さまの頭が地面に触れないよう、気をつけろ」
「ふわー! はい!」
――問題ないのじゃ!
布の間から、ぴこんとお屑さまが頭を出す。
――わしは地面に転がることもたくさんあるのじゃ! 土は良き物じゃ! 問題ないのじゃ!
「おお!」
お屑さま、偉大!
――しかし、ふかれるのは面白いのじゃ! ぽはっ!
新たな楽しみを見つけたお屑さまは、ぴこんぴこんした。
長い一日がなかなか終わりません。
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