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17.ジュスタの好きなパン

のんびり。

 ジュスタと(やしき)に戻って手を洗い、台所に入る。

「んー、まだ昼には時間があるから、一緒にご飯を作ろうか?」

「お! やりますよ!」

 お屑さまの腕輪を()宿り木にかけて、台所へ一緒に行く。

 ――何を作るのじゃ? 料理はいろいろあって訳がわからんのじゃ。同じ物を使っても、全然別の料理になるのじゃ! なぜじゃ? ヒトは同じ味を食べるのが好きではないか?

 お屑さまはぴこんぴこんして、ジュスタの()(もと)をのぞき込む。

「人間は食べることが好きだから、そのために長い時間をかけるんですよ」

 ジュスタは台の上に材料を並べていく。私は低い腰かけを運んできて、その上に乗った。

「この間ひいた大麦の粉があるから、俺が好きなパンを作ろう」

「ジュスタが好きなパン!」

 この世界のパンと言えば、ぱさぱさパンだ。今度はどんなパンだろう。

 大麦の粉と、その三分の一くらいのトウモロコシの粉。塩がちょっと。

「あ! エーヴェが取ってきた塩だよ!」

「え、そうなのかい?」

 塩取り遠足の話をしながら、水をくわえた粉を混ぜた。

「水が行き渡るように、粉をどんどん混ぜていくんだ」

 ――ぽ! どんどん姿が変わるのじゃ! 不思議なのじゃ! 生きておるのか? 名乗るが良いぞ! ぽはっ!

 お屑さまはぴこんぴこん楽しそう。

 最初はぱさぱさ、ぱらぱらでつながるように見えない粉のかけらが、だんだん一つのまとまりになっていく。とっても不思議。

 でも、生きてたらちょっと怖い。

「力を入れてぎゅーっと押すよ。そうそう」

「丸くなってきました! ペロみたい!」

 ……む? ペロはどうしたかな? でも、知らないもんね!


 ふっくらやわやわの生地が、きれいに丸く整っていく。

 うきうきしてきた。

「持ち上げると、ゆーったり伸びるくらいの固さになったらいいよ。どうだい?」

 ジュスタみたいに片手で持ち上げると、ゆーっくりと長くなる。

 寒さで固くなった蜂蜜に似てる。

「いいです!」

「うん、いいね!」

 ――いいのじゃ! どうなるのじゃ? これから、どう変わるのじゃ?

 ジュスタは台に粉をまいて、生地を置く。手でとんとん伸ばし始めた。

「エーヴェはこれ」

 棒を渡された。

 ……これは、めん棒かな?

「棒を転がして薄くのばすんだよ」

「おお! はい!」

 ジュスタは手で上手に薄くする。

 結構広く伸ばしたけど、これ、パン?

 ――粉と粉がつながりあって、ひらひら薄くなったのじゃ! 面白いのじゃ! ぽはっ!

 お屑さまは大興奮。腕輪を外しててよかった。


「エーヴェは甘いのとしょっぱいのどっちが好き?」

「甘いの! でも、しょっぱいのも好きです!」

「じゃあ、エーヴェのは砂糖とココナッツをかけよう」

 広く伸ばしたパンの上に、砂糖とココナッツをパラパラかける。砂糖は茶色なので、茶色と白の粉が、黄味がかったパン生地の上にいっぱいだ。

 ジュスタのほうは赤茶色のソースと乾いたハーブを砕いてばらまく。

 ――これは味を付けておるのじゃ! 知っておるぞ!

「その通りです、お屑さま。まんべんなくできたら、この生地をくるくる巻く」

「巻きます!」

 巻物みたいにくるくる。

「長くなったら、逆からも巻く」

「巻きます!」

 うずうずのパン生地ができあがる。

「これをもう一度、伸ばすんだ」

「ほー!」

 ――また薄くするのか? 人間は不思議なのじゃ!

 薄くした所に、また砂糖とココナッツを振りかける。また、ぐるぐる巻いて、もう一度薄くした。

「最後にまーるくして、焼くよー」

「焼きまーす!」

 熱した(とう)(ばん)の上に、お好み焼きみたいに薄くしたパン生地を乗せる。

「後は焼けるまで待つだけだよ。エーヴェは手を洗って、テーブルで待っておいで」

「はーい!」

 腰かけを片付けて、手を洗いに走った。


「ほーい、焼けたぜー!」

 ジュスタがパンとスープを持ってきてくれる。

 パンはピザのように切られている。切った面を見ると、巻いた意味が分かった。

「おお! 重なってます!」

 ――なんじゃ? わしにも見せるのじゃ!

 お屑さまにも見せる。パンの層とココナッツの層が幾重にも重なっている。

 ――何度も薄くしたのは重ねていたのじゃ! なにゆえ、重ねたのじゃ?

 口に入れると、パリパリでココナッツの香りが広がった。

「おいしー!」

「こちらもどうぞ」

 ジュスタが作ったのは、濃くて甘い味噌みたいなソースにハーブの香りすっきり。

「おいしー!」

「そうだろ?」

 熱々で、いい香りで、パリパリだ。

「ジュスタが好きなパンは、エーヴェも好きなパンです」

 口いっぱいに頬張りながら言うと、ジュスタも口いっぱいに頬張ってうんうんした。

 ――(わつぱ)はおいしーばかりじゃ! ぽはっ!

 お屑さまはぴこんぴこんして、楽しそうだ。


 お昼の後、元気いっぱいにミクラウモの花を探しに行く。

「お屑さま、ミクラウモ、どんな匂いがしますか?」

 ――ミクラウモの匂いなのじゃ! 虫も鳥も近づきたくなる匂いじゃ。(わつぱ)たちでも近づけば分かる!

「どちらにありそうですか?」

「あれ? ジュスタもミクラウモ知りませんか?」

 てっきりジュスタは見たことがあると思ってた。

「いいや、初めて聞いた」

「おお! じゃあ、エーヴェと一緒です!」

 お屑さまはぴこんぴこん周囲を見る。

 ――あちらこちらから匂うのじゃ! ぽ? 違う花も香っておる! 山の森はいつでも花がいっぱいなのじゃ! 場所によっては、花の咲く時期が限られておるのに、山は力が強いのじゃ! む? 山の力でなく(せかい)の力か? ぽはっ!

 よく分からないけど、どっちに行ってもたどり着くのかな?

「まぁ、行ってみようか、エーヴェ」

「はい!」

 沢の近くを通るけど、ペロのことは知らないもんね!

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― 新着の感想 ―
[良い点] エーヴェ、めちゃくちゃペロのことを気にしてる。私も気になってます。 なのにジュスタとエーヴェwithお屑さまのパンづくりが面白くて、食べたい〜ってなりました。とても美味しそうです。ココナッ…
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