16.ペロ、隠れる
浅瀬に停泊中に起きた惨事に駆けつける。
「ペロっ! なんてことですか!」
ショックで地団駄踏んだ。
帆をかける帆桁が折れ、船尾の舵が砕けてる。
ペロはすこし止まってたけど、ニーノが近づいてくることに気づいて、うぞうぞ水の奥へ向かった。
「ペロー! 船を出しなさーい!」
ペロは深い所で止まってる。
追いかけようとしたら、ジュスタに止められた。
「ペロも壊したかったわけじゃない。船に興味があったんだろ。ペロー、怒らないから返してくれー!」
壊れた部品を拾い上げるジュスタを見ると、もっと腹が立って両足で地面を踏む。
「ジュスタが作った物壊したら、怒ります! ペロ、悪い!」
――ペロは赤子なのじゃ! 誤って壊すのもしかたない! しかし、船が壊れたのは残念なのじゃー!
「お屑さまのおっしゃる通りだ。止めるべきだった。いつも通り、すっかり飲み込むと思ったが」
ニーノは眉間にしわが寄ってる。
「ニーノ! 気づいてたのに止めなかった!」
両手を上げて抗議すると、頭をぽんぽんされる。
「エーヴェ。ニーノさんに怒るのは違うよ。どうなるのかペロが分かってなかったなら、誰にも分かるはずがない」
――そうじゃ! ペロは触らねばどんなものかしっかり分からぬ。触って確かめようとするのは当然なのじゃ! 壊れるとは思っておらぬのじゃ!
「むー――!」
収まらないから、身体を揺する。
「――大丈夫か?」
ニーノの問いに、ジュスタはペロを見た。
「中心の機構は壊れてないみたいなので、大丈夫ですよ」
「ホントに?! だいじょうぶ?」
ジュスタの顔とペロを交互に見やる。船をくわえたペロは川の中央に近づいていて、水面にちょっとしか見えない。
「大丈夫。ペロが返してくれたら、修理する」
修理できるならよかった。ちょっと安心して、ペロに向き直る。
「ペロー! はやく返します!!」
ペロは頭も見えなくなっていた。
残骸を拾い集めて岸の岩に腰掛け、ペロが戻ってくるのを待つ。
「船が、何かもっとよくなるところはないかな?」
ペロの方向を見て口をとがらせていたら、ジュスタに聞かれて顔を上げる。
「ジュスタ、あの船とってもいいですよ!」
「うん、ありがとう。でも、よくできるところはきっとあると思うんだ。あの中にエーヴェが暮らすんだぜ? よく考えて」
確かに、船の中で暮らすなんて初めてだ。ちゃんと考えたほうがいい。
ニーノは羽を付ける船体の強さとか、難しいことをアドバイスする。
「――お! エーヴェ、思いついたよ! 窓があるといいです!」
船は甲板で上から光が入らない。きっと中は真っ暗だ。
「そうだな。灯りも考えたほうがいい。邸は採光部が大きいから夜も不自由しないが、四方が壁に囲まれていては勝手が違う」
「なるほど、灯りが要るのか……」
――ヒカリゴケを生やせば良いのじゃ! 夜も明るいのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんする。
「ヒカリゴケ! エーヴェ見たことあります! ぽわっと光ってました」
――明るくてきれいでふかふかするのじゃ! ヒカリゴケは良きものじゃ! ぽはっ!
お屑さまのお気に入りなのかな? 月よりずっと暗いけど、室内で動き回る分なら足りるかもしれない。
「鍛冶場も作りたいから、ヒカリゴケは嫌がりそうですね」
ジュスタは首を傾けて考えてる。
「鍛冶場を作るなら空気の流れをよく考えることだ。狭い場所で火をたき続けると、人は死ぬことがある」
おお、一酸化炭素中毒!
――なんと! ヒトは簡単に死ぬのじゃ! 死ぬのはダメなのじゃ!
「ちゃんと考えて、死ぬような船は作りません。――あれ、ペロ?」
ばっとのぞき込むと、ぺたーっと薄くなったペロが残骸を取り込んでいた。
「ペロ! 船返して!」
岩を飛び降りたけど、ペロはすごい勢いで水の中に戻っていく。
「ペロー――!」
「なんで全部持って行ったのかな?」
集めた残骸が、一つ残らずなくなっている。ジュスタが首をかしげてペロの消えたほうを見た。
むー、ジュスタは優しいです。
――ペロは船に興味があったのじゃ! きっと全部欲しかったのじゃ!
お屑さまはぴこんぴこんする。
「ペロ! 返さないとジュスタ、修理できません!」
沢はゆったり流れてて、ペロがどこにいるかわからない。ペロは息をしないから、泡も上がってこない。
しばらく水面を見つめた後、ニーノが軽く息を吐いた。
「……ペロはペロで、考えがあるのだろう。私は戻る」
「はい、ありがとうございます」
――ぽ! ペロは赤子なのじゃ。考えなぞないのじゃ! ぽはっ!
「おお! お屑さま! エーヴェもそう思います」
飛び上がって、大賛成した。
ニーノはくるりとジュスタに向き直る。
「ジュスタ、貴様は今日は他のことをしろ。昼にはエーヴェと食事をとって、鍛錬に付き合え」
「え? あ、分かりました」
一つ頷いて、ニーノはふわっと浮かび上がり、飛んで行ってしまった。ヤーリの作業に戻るんだ。
「やったー! ジュスタと鍛錬です!」
最近はジュスタはずっと船にかかりきりだったので、久しぶり。
「そうだな、エーヴェと鍛錬だ」
「でも、ペロが戻りません」
沢のどこかに沈んでいるペロを眺める。
ジュスタも腰に手を当てて、沢を眺める。
「うーん、そうだね。今は戻りたくないのかな?」
――ペロは水玉ゆえ、水の中でも大丈夫なのじゃ。しばらく放っておいても問題ない! 童は森へ行くのじゃ! 今日はミクラウモの香りがするのじゃ!
「みくらうも?」
初めて聞いた。
――花が咲いておるのじゃ! 見たいのじゃー!
「おお! エーヴェ、見たーい!」
「じゃあ、一回邸に戻ろう。昼ご飯を食べてから、ミクラウモを探す」
「はーい!」
――行くのじゃー!
お屑さまと一緒に、大きく伸び上がった。
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