16.補給
竜さまには竜さまの、人には人の。
システーナが持ってきた鉱石は、洞から少し離れた場所に保管される。
竜さまの目の届く範囲にあると、うっかり平らげてしまうらしい。
「断食後なのだから、お食事の量は調節しなければ」
「千日かけて集めてんだぜ? 竜さまの食事がいっぱい見てーよ」
「ゆっくり味わっていただきたいですね」
せかせかと鉱石を運ぶ、三者三様の意見。
竜さまは今日の食事が終わったと分かると、頭を羽の下に隠してしまった。
「りゅーさま、どうしたの?」
返答はない。
「石の行方を見ないよう、気を遣ってくださっている」
「すねてんだよ。ねー竜さまー?」
――聞かぬぞ。
ニーノが軽く息をはいた。
「システーナ、敬意が足りない」
「あ? このほとばしる敬意が見えねえの?」
「それより、早く片付けちゃいましょう」
ジュスタが肩に岩をかつぐ。
ニーノは皿でも運ぶみたいに岩を持ち上げる。
みんな力持ちだ。
私も運ぼうと、小さな岩に取り付いたら、ひょいと浮き上がった。
「お、よくひっついてんな」
システーナが岩ごと肩の上にのせてくれる。
「ほんとはこう、ごーんっとした塊をぐわぁっと竜さまに召し上がってほしーんだけど、純度が高い鉱石ってなるとなかなかなぁ」
「シスはどうやって岩を見つけるの?」
「どうやって?」
そんなことは初めて考えました、という目を向けられる。
「なんか、こう……掘ってたら、あたる?」
回答が、天才のそれだもの。
「言語化されない経験知」
「シスさんは運もありそうですね」
ジュスタを見て、はっと思い出した。
「つるはし、シスの?」
慌てて“お口にチャック”のジェスチャーをされる。真似して、お口にチャックする。
「なんだー? 無駄な隠し事かー?」
システーナは片眉を上げて見せたけど、さっさと笑い飛ばしてしまった。
鉱石を竜さまの目から隠す作業が完了し、戻る。
「りゅーさま、もう片付けたよ!」
宣言すると、竜さまが頭を出す。
首を上げた姿がいつもよりきらきらして見える。
――やっぱりおいしかったのかな。
「竜さま、帰りましたー!!」
システーナが、また竜さまにしがみつく。
テンションが上がって、私もしがみついた。
竜さまの胸元はふかふかで気持ちいい。
……なんだか、静かだな。
ふと、首を巡らせた。
隣で、ジュスタが竜さまにしがみついていた。
――なんと!
さらにニーノまで、竜さまにめり込んでいる。
「あー……、いったん竜さまにくっついちゃうと、離れたくなくなるんだよね」
ジュスタはこちらに気づいてへらっと笑う。その向こうで、ニーノは沈黙している。
――今日はみな、ここにおるのか。
長い首を折るようにして、竜さまが胸元をのぞきこんでいた。
空にはすでに星が浮かんでいる。
右を見ても左を見ても、大人は竜さまのもふもふでやられていた。
「分かんない」
ジュスタが肩を叩き、どこかを指す。
カゴが置いてあった。駆け寄って中を見ると、葉包み焼きがある。
「おー」
カゴを持って戻り、溶けている人の手ににぎらせた。
――大人も大変だなぁ。
竜さまの胸を背もたれに、葉包み焼きをほおばる。
もしかして、こうなることが、ジュスタには分かっていたのだろうか。
虫や蛙の声が高くなり、夜の気配が強くなる。
「りゅーさま、星がきれい」
竜さまも星を見上げた。
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