12.ペロのぺちょ
大変遅くなりました。
お土産にするために、小さな岩塩を布の中に入れて包む。探し始めると次々見つかり、思いのほかたくさんで、ほくほくだ。
「うっふっふ! ニーノ、喜びます!」
「ははっ! そーだな! ――あ、そーいや、おちびが前に言ってたやつもあるかもしんねーぞ!」
システーナが立ち上がって周りを見る。
「前言ってたの?」
「白くて柔らかい石って言ってただろ」
「――あ!」
すちゃっと立ち上がった。
そうだ! 黒板だ! 旅に砂絵板が向かないのは、お泥さまの座に行くときに経験済み。絵を描くために、黒板か紙と筆記具が要る。
「探します!」
手近な白い石を拾って、黒い石にこすってみる。
――およ? 何をしておるのじゃ?
「白い跡が付く石を探します。黒い板に絵を描きますよ」
――絵! 覚えておるぞ! 童はわしを描いたが、また元の何もない砂に戻ってしまったのじゃ! 残念なのじゃ!
「はい、エーヴェも残念です……」
前に描いたお屑さまはなかなかのできばえだった。でも、砂絵は残しておけない。色つきの砂で描いてるなら、何とかできるかもしれないけど、砂に線を引いただけじゃ、保存はできない。
――白い跡が付くなら、石灰じゃ! 先ほどおったぞ! ……む? ペロの近くにホシガラスが来ておる! 近づいておるのじゃ!
お屑さまの視線を追うと、ほよんとリラックスモードなペロの近くに鳥がいる。
カラスよりは一回り小さい。黒地に白の模様が入ってる。ペロに興味があるのか、首をかしげつつ、ちょっとずつ近づいてる。
「ホシガラス、ペロが気になりますか?」
ぴこんぴこんするお屑さまはわくわくな気配。
――少し日が射したので、きらきらとしたのかもしれぬ! 鳥はキラキラした物が気になるのじゃ! わしもキラキラした物が気になるのじゃ! 童はどうじゃ?
「エーヴェもキラキラした物が気になります!」
「あたしも、あたしも」
――皆、キラキラした物が気になるのじゃ!
前の世界でもカラスは光る物を集める習性があったけど、この世界でも同じみたい。でも、お屑さまが言うみたいに、キラキラしたものはみんな好きだ。
ホシガラスがひょいっひょいっと近づくのを、わくわくして眺める。
どうなるかな? つっついたら、水だと分かってビックリするかもしれない。
次の瞬間、驚いたのは私だった。たぶん、ホシガラスも。
「わー! ペロー!」
ペロが、近づいたホシガラスをばっと飲みこんだ。ホシガラスは飛び立とうとした形で、ペロの中で浮かんでいる。
――なんと! ペロもホシガラスに興味があったのじゃ! ぽはっ! 水玉の中では、さっぱり動けぬのじゃ! ホシガラスはうろたえておるぞ!
「ペロ! 出して、出して! ホシガラス、息できませんよ!」
ばっと羽を広げて身体を伸ばしたホシガラスが、ペロの中でくるーっと回ってる。一時停止した3Dモデルを回転させてるみたい。
ホシガラスがよく見えるのは嬉しいけど、とっても気の毒だ。
「ペロ、出せって」
システーナがペロをむんずとつかむ。ペロがシステーナの手を覆い始めて、おかげでホシガラスの頭の膜が薄くなったみたい。中のホシガラスが首を動かした。
「がぁーがぁー!」
くちばしが外に出た瞬間、響いた声にペロは固まる。
――ペロが固まっては出られぬぞ! ホシガラスよ、鳴かずにおるのじゃ!
ホシガラスが首を動かして、ペロをつつく。つつくくちばしをペロが飲み込む。
「ペロ! ぎゅーはやめろ!」
「ペロ! ホシガラス、外に出しますよ!」
大騒ぎして、いつの間にか無事にホシガラスは飛び立っていった。
「ペロー、おめーが飲み込むと、息してる奴は息できなくて死んじまうんだぜ? 息って分かるか? これなー。すー――はー――――!」
右手に張りついてるペロに、システーナが説明してる。
「ペロの中だと、息できないですか?」
そういえば、思い込みで慌ててたけど、実際はどうなのかな?
――分からぬ! わしは息はせぬのじゃ! じゃが、水玉の中で息ができるのは、水の中で息ができるものだけじゃ!
じゃあ、魚は平気かな?
「あ、そっかー、息できるかどうか知らねーのか。ペロ! ちょっとあたしの鼻、覆ってみろよ」
「え!」
システーナが右手を顔に運ぶ。分かってるのか分かってないのか、ペロはシステーナの顔に張り付いた。
「……だいじょうぶ? シス、だいじょうぶ?」
しばらくすると、シスが顔のペロを左手でつかんで、はがそうとする。
――ぽ! シスが苦しいのじゃ! ペロ! 離れるのじゃ!
「わー! ペロー! 離れてー!」
ぴょんぴょん跳ねて主張すると、ペロがぽてーと地面に落ちた。
「はー――! すー――はー――――! やべぇ! 水よりきちー、なんっも入ってこねーははっ」
システーナが深呼吸しながら、でもちょっと笑ってる。
「笑い事じゃないよ! あぶない、あぶない!」
――ペロはやはり水とも違うのじゃ! 何も吸えぬならば、魚も息ができぬのじゃ! 大変なことじゃ!
ペロは、ほよんとリラックスしてる。
一安心して、空の様子にはっと気がつく。
「あれ! もうすぐ夕方です! 急がないと!」
ニーノは夕方には帰れるって言ってたけど、また谷を降りて登ってしたら、夜になりそう。
「りゅーさまと夕陽!」
今日は曇ってるから夕陽は見えないけど、赤く染まった曇り空が見えるかもしれない。
「待て待て、おちび。だいじょーぶだって」
走り出そうとしたら、襟をつかんで止められた。
「でも、りゅーさまと夕陽です!」
「竜さまはあっちだぜ」
竜さまに反応したのか、ペロがすいっと進み始める。
「へー、ふーん。ペロにはやっぱし分かんのかな」
尾根の道を崖には行かずにたどると、下に白い丘が見え始めた。
おや? あれは、竜糞。
「は! もしかして、竜さまの洞の後ろに行きますか!」
「そーそー」
――近いのじゃ! シスはわざと遠回りじゃ!
「なんと!」
近いと言っても山道をかなり歩いたけど、最後には洞の裏口に到着した。
「りゅー――さまー――!」
ペロと一緒に走って行く。
振り返った金の目が、すうっと細くなった。
――エーヴェ、ペロ。今日は珍しい方角から来たな。
「はい! 岩の塩を拾ったよ」
布の中から塩の欠片を取りだして、かざす。
――ほう。塩か。
ぺちょ
隣で変な音がして、足下を見た。ペロがいる。
ぺちょ
「お?」
また同じ音だけど、なんか、ちょっと動いたぞ?
――ぽはっ! できたのじゃ! ペロ、跳ねておるぞ! よいぞ! よいぞ! ぽはっ!
後からやって来たシステーナの腕で、お屑さまが叫んでる。
しゃがんでペロの様子を見ると、ふいっと一センチくらい浮いた。
ぺちょ
「――おおー! ペロが跳ねた!」
ジャンプして、床に当たるときに音が出てる。
すごい、すごい!
――うむ。ペロも嬉しそうじゃ。
竜さまの声も満足げだ。嬉しくなって、ペロと一緒に跳ねた。
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