表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

166/300

12.ペロのぺちょ

大変遅くなりました。

 お土産にするために、小さな岩塩を布の中に入れて包む。探し始めると次々見つかり、思いのほかたくさんで、ほくほくだ。

「うっふっふ! ニーノ、喜びます!」

「ははっ! そーだな! ――あ、そーいや、おちびが前に言ってたやつもあるかもしんねーぞ!」

 システーナが立ち上がって周りを見る。

「前言ってたの?」

「白くて柔らかい石って言ってただろ」

「――あ!」

 すちゃっと立ち上がった。

 そうだ! 黒板だ! 旅に砂絵板が向かないのは、お泥さまの座に行くときに経験済み。絵を描くために、黒板か紙と筆記具が要る。

「探します!」

 手近な白い石を拾って、黒い石にこすってみる。

 ――およ? 何をしておるのじゃ?

「白い跡が付く石を探します。黒い板に絵を描きますよ」

 ――絵! 覚えておるぞ! (わつぱ)はわしを描いたが、また元の何もない砂に戻ってしまったのじゃ! 残念なのじゃ!

「はい、エーヴェも残念です……」

 前に描いたお屑さまはなかなかのできばえだった。でも、砂絵は残しておけない。色つきの砂で描いてるなら、何とかできるかもしれないけど、砂に線を引いただけじゃ、保存はできない。

 ――白い跡が付くなら、石灰じゃ! 先ほどおったぞ! ……む? ペロの近くにホシガラスが来ておる! 近づいておるのじゃ!

 お屑さまの視線を追うと、ほよんとリラックスモードなペロの近くに鳥がいる。

 カラスよりは一回り小さい。黒地に白の模様が入ってる。ペロに興味があるのか、首をかしげつつ、ちょっとずつ近づいてる。

「ホシガラス、ペロが気になりますか?」

 ぴこんぴこんするお屑さまはわくわくな気配。

 ――少し日が射したので、きらきらとしたのかもしれぬ! 鳥はキラキラした物が気になるのじゃ! わしもキラキラした物が気になるのじゃ! 童はどうじゃ?

「エーヴェもキラキラした物が気になります!」

「あたしも、あたしも」

 ――皆、キラキラした物が気になるのじゃ!

 前の世界でもカラスは光る物を集める習性があったけど、この世界でも同じみたい。でも、お屑さまが言うみたいに、キラキラしたものはみんな好きだ。

 ホシガラスがひょいっひょいっと近づくのを、わくわくして眺める。

 どうなるかな? つっついたら、水だと分かってビックリするかもしれない。


 次の瞬間、驚いたのは私だった。たぶん、ホシガラスも。

「わー! ペロー!」

 ペロが、近づいたホシガラスをばっと飲みこんだ。ホシガラスは飛び立とうとした形で、ペロの中で浮かんでいる。

 ――なんと! ペロもホシガラスに興味があったのじゃ! ぽはっ! 水玉の中では、さっぱり動けぬのじゃ! ホシガラスはうろたえておるぞ!

「ペロ! 出して、出して! ホシガラス、息できませんよ!」

 ばっと羽を広げて身体を伸ばしたホシガラスが、ペロの中でくるーっと回ってる。一時停止した(すりー)(でぃー)モデルを回転させてるみたい。

 ホシガラスがよく見えるのは嬉しいけど、とっても気の毒だ。

「ペロ、出せって」

 システーナがペロをむんずとつかむ。ペロがシステーナの手を覆い始めて、おかげでホシガラスの頭の膜が薄くなったみたい。中のホシガラスが首を動かした。

「がぁーがぁー!」

 くちばしが外に出た瞬間、響いた声にペロは固まる。

 ――ペロが固まっては出られぬぞ! ホシガラスよ、鳴かずにおるのじゃ!

 ホシガラスが首を動かして、ペロをつつく。つつくくちばしをペロが飲み込む。

「ペロ! ぎゅーはやめろ!」

「ペロ! ホシガラス、外に出しますよ!」

 大騒ぎして、いつの間にか無事にホシガラスは飛び立っていった。


「ペロー、おめーが飲み込むと、息してる奴は息できなくて死んじまうんだぜ? 息って分かるか? これなー。すー――はー――――!」

 右手に張りついてるペロに、システーナが説明してる。

「ペロの中だと、息できないですか?」

 そういえば、思い込みで慌ててたけど、実際はどうなのかな?

 ――分からぬ! わしは息はせぬのじゃ! じゃが、水玉の中で息ができるのは、水の中で息ができるものだけじゃ!

 じゃあ、魚は平気かな?

「あ、そっかー、息できるかどうか知らねーのか。ペロ! ちょっとあたしの鼻、覆ってみろよ」

「え!」

 システーナが右手を顔に運ぶ。分かってるのか分かってないのか、ペロはシステーナの顔に張り付いた。

「……だいじょうぶ? シス、だいじょうぶ?」

 しばらくすると、シスが顔のペロを左手でつかんで、はがそうとする。

 ――ぽ! シスが苦しいのじゃ! ペロ! 離れるのじゃ!

「わー! ペロー! 離れてー!」

 ぴょんぴょん跳ねて主張すると、ペロがぽてーと地面に落ちた。

「はー――! すー――はー――――! やべぇ! 水よりきちー、なんっも入ってこねーははっ」

 システーナが深呼吸しながら、でもちょっと笑ってる。

「笑い事じゃないよ! あぶない、あぶない!」

 ――ペロはやはり水とも違うのじゃ! 何も吸えぬならば、魚も息ができぬのじゃ! 大変なことじゃ!

 ペロは、ほよんとリラックスしてる。


 一安心して、空の様子にはっと気がつく。

「あれ! もうすぐ夕方です! 急がないと!」

 ニーノは夕方には帰れるって言ってたけど、また谷を降りて登ってしたら、夜になりそう。

「りゅーさまと夕陽!」

 今日は曇ってるから夕陽は見えないけど、赤く染まった曇り空が見えるかもしれない。

「待て待て、おちび。だいじょーぶだって」

 走り出そうとしたら、襟をつかんで止められた。

「でも、りゅーさまと夕陽です!」

「竜さまはあっちだぜ」

 竜さまに反応したのか、ペロがすいっと進み始める。

「へー、ふーん。ペロにはやっぱし分かんのかな」

 尾根の道を崖には行かずにたどると、下に白い丘が見え始めた。

 おや? あれは、(りゆう)(ふん)

「は! もしかして、竜さまの洞の後ろに行きますか!」

「そーそー」

 ――近いのじゃ! シスはわざと遠回りじゃ!

「なんと!」

 近いと言っても山道をかなり歩いたけど、最後には洞の裏口に到着した。

「りゅー――さまー――!」

 ペロと一緒に走って行く。

 振り返った金の目が、すうっと細くなった。

 ――エーヴェ、ペロ。今日は珍しい方角から来たな。

「はい! 岩の塩を拾ったよ」

 布の中から塩の欠片を取りだして、かざす。

 ――ほう。塩か。


 ぺちょ


 隣で変な音がして、足下を見た。ペロがいる。


 ぺちょ


「お?」

 また同じ音だけど、なんか、ちょっと動いたぞ?

 ――ぽはっ! できたのじゃ! ペロ、跳ねておるぞ! よいぞ! よいぞ! ぽはっ!

 後からやって来たシステーナの腕で、お屑さまが叫んでる。

 しゃがんでペロの様子を見ると、ふいっと一センチくらい浮いた。


 ぺちょ


「――おおー! ペロが跳ねた!」

 ジャンプして、床に当たるときに音が出てる。

 すごい、すごい!

 ――うむ。ペロも嬉しそうじゃ。

 竜さまの声も満足げだ。嬉しくなって、ペロと一緒に跳ねた。

評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。

是非、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 興味を持ったものをまるーっと呑み込んじゃうのはペロなりのお近づきのしるし、親愛表現なのかなと思うとペロの丸呑み特性はなかなかに友だちができづらいなーとしんみりしちゃいました。 でも、ぴょん…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ