7.一生分の旅
ちょっと短めです。
竜さまのたてがみを登って、鳴り竹を見に行く。たどり着いて、角の間に立った。
洞の入口からのぞく空が、朝焼けでバラ色だ。
お願いしたら、竜さまが鳴り竹を鳴らしてくれる。
うっふっふ。満足です。
「りゅーさま、古老の竜さまに会ったら、他の竜さまにも会いに行きますか?」
――エーヴェが会いたいと言っておったであろう。
「会いたーい! りゅーさまは他の竜さまにいつ会いましたか?」
竜さまが頭を傾けたので、角を支えにバランスを取る。
――ふむ、ずいぶんになる。泥や骨とも久しく会わぬ。泥とはときおり話をするが、座が遠ければ声が届かぬゆえ。
「ゆがんでるから?」
前に聞いた気がする。
――そうじゃ。屑のおかげで、泥とはずいぶん話しやすくなった。
お屑さまが聞いたら、大いばりでぴこんぴこんだ。
「お骨さまとは話しませんか?」
――話さぬ。あやつは力がずいぶん弱まっておる。……否、もしかすると使いようを忘れたのかもな。
「お骨さまは、いろいろ忘れてます!」
頭が軽くなったって言ってたから、きっと力の使い方を覚えてない。
「じゃあ、竜さまみんなに会います! みんな喜ぶね!」
――うむ。時間が許す限り世界を回ってみよう。
「時間? 決まりがありますか?」
上から竜さまの金の目をのぞき込むと、竜さまが落ちないように頭を傾けてくれた。
――落ちてくる赤子があろう。
「なんと!」
そっか、私の次の誰かが落ちてくる!
「わー! いつですかー?」
――ここはあまり落ちて来ぬ。
そうだ。お泥さまの座に比べると、付き人はとっても少ない。
――確か、調べておったな。
「はい。平均すれば、三万二千日ほどの周期です」
割り込んできた声に、びっくりして身体を起こす。
「ニーノ!」
――ニーノ、今日は遅かったのう。
「おはようございます、竜さま。少し手間取っておりました。エーヴェ、貴様は邸に戻れ」
はしっと竜さまの額に伏せる。
忘れてた。ニーノは毎朝、洞の掃除をしてる。
「……エーヴェ、りゅーさまに歯を飲んでもらいましたよ!」
「聞いていない。貴様は帰れと言っている」
むー、下にいたら、ペロの動きでニーノが来るのが分かったかも。
――では、また来るとよい。
竜さまが頭を降ろしてくれたので、しぶしぶ床に降りる。
ぶーっと頰が膨れた。
「腹が減って動けなくなるぞ」
「はい! でも、質問です! 長ーい間旅したら、りゅーさまの庇護がなくて、森が困りますか?」
とりあえず、三万二千日……だいたい一生分世界をぶらぶらしても大丈夫だと分かったので、違うことが気になる。
ニーノが冷たく見下ろしてきた。
「良い質問だ。それについては竜さまとご相談している。貴様は心配しなくていい」
「おお!」
分かんないけど、竜さまとニーノが相談するなら大丈夫です!
「じゃあ、りゅーさま、エーヴェまた来るね!」
――うむ。
「ペロ、貴様も蒸発の危険がないうちに、戻れ」
おわ! ペロもばれてます! ちゃんと爪の後ろでぺたっとして、こっちから見えないのに。
「ペロ、おいでおいでー」
――ニーノの言う通りじゃ。ペロも行くがいい。
爪の所に走って行くと、やっぱりペロが薄くなってた。
「久しぶりに鉢なしでニーノと会って、自信ないですか?」
私の影に隠れて、ペロは移動する。ペロとニーノと竜さまの顔を見比べながら、洞を出た。
入口から出た所で、お腹がすいてるのに気がつく。
「やっぱりお腹すいたね! ペロ、急いで帰ります!」
だいぶ丸みが戻ったペロが、同意するみたいに素早く移動を始めた。
すぐにシステーナの歌が聞こえてくる。
「シス、気になってること、分かったかな?」
システーナはちょっとお骨さまみたい。言葉や記憶より、直感で動く感じ。
「気になってること思い出して、羽の船ができたらいいねー」
ぴょんぴょん跳ねてたら、リラックスモードに戻ったペロが動きを止めた。
「ペロー?」
近づいてしゃがむ。
何かを食べてるわけじゃない。ただじっとしてる。
「どうしましたか?」
もちろん答えはない。
しばらくすると、のそのそ動き始めた。
うむー、ペロともお話しできたらいいのに。
「ぺ、ろ、わっ、みずっ、た、ま!
こ、と、ばっ、はなっ、さ、ぬ!」
歌う間に、邸に着いた。
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