15.敬意を表せ
短いお話が続いています。
ニーノとシステーナがにらみ合っている。
冷たい無表情で後ろ手を組む姿はおなじみだけど、余裕の笑みで腰に手を当てるほうにもデジャビューがあった。
ぽかんとしてる間に、ジュスタに手を引かれて、竜さまの側に移動する。
――あ、運慶作の鬼の像だ。
鉱石の塊を片手でかかげたシステーナに、灯籠を持ったあの天燈鬼が重なる。
「竜さまがお待ちかねなんだから、そこどけよ、ニーノ」
「竜さまに鉱石を差し上げることに異存はないが、システーナ、貴様のやり方は承服しがたい」
「はーん? じゃあ、貴様はどうやりてーの、ニーノ?」
「干した草の中に鉱石を盛り付け……」
「竜さまー! 行きまーす!」
ニーノが言い終わる前に、リズミカルに二歩後退し、システーナ選手、投石しました!
――こわっ! 直径一メートルある鉱石を投げる人間、こわっ!
ぶぐぁ――っ
風が吹いた。
放物線の頂点に達したところで、竜さまが鉱石を口でキャッチする。
口先にある鉱石を、頭を二回振って、移動させる。
ばがん、と激しい音がした。奥歯で鉱石を砕いている。
竜さまは目を閉じて、顎をあぐあぐ動かしている。がち、ぼき、がき、と普段、耳にしない破壊音が響く。ときどき、かけらが降ってきた。
やがて音が止み、竜さまの鼻から、ふんす、と息が上がる。
誰も、声を上げなかった。
黄金の瞳が開いて、私たちを見下ろした。
かすかに、首をかしげるような仕種――。
――興奮で身体がびりびりする。
おいしかった! おいしかったんですね!!
そして、次があるなら苦しゅうないんですね!
ポジティブな感情があふれ出して、その場で飛び跳ねる。
「りゅーさまー! りゅーさまー!」
「次行きまーす!」
「……だから、このやり方は、敬意が足りない」
ニーノの声が珍しく、動揺している。
「なんでー? あたしも楽しいし、竜さまも楽しいし、よくね?」
「急に、たくさん召し上がるのも、よくない」
――あ、ニーノ、なんか微妙に竜さまから目をそらしてる。
「ジュスタ、おめーはどう思うよ? あたしのやり方とニーノのやり方」
にやにや顔のシステーナは、両手で鉱石を掲げ持ち、左右に揺らしている。
竜さまの目が鉱石を追う。
……いいなぁ!
「俺はニーノさんのやり方も、シスさんのやり方も好きですよ」
ジュスタは満面の笑みだ。
「ニーノさんのやり方だと、竜さまは鼻息で草を吹き飛ばして、丁寧に鉱石を召し上がりますよね。散らばった破片をきれいにさらう竜さまの舌も好きです。もちろん、空中で鉱石を受け取る竜さまもたいへん素敵ですけど」
「おちびはどうだ?」
え、私にも聞くのか。
「んー。りゅーさま、どっちが好き?」
竜さまを見上げると、おい、と咎められる。
「そんな些事の判断を竜さまにお願いするなんて、しつれーだろが。まずはてめえの小さい頭で判断しろ」
「えー……だって、どっちも竜さまかっ……かっこいい」
システーナはからっと笑う。
「だよなぁ!」
軽いトスを、竜さまは即座にキャッチした。
「竜さまのご負担が少ないように食事していただくことも、大切だろう」
「誰相手に物言ってんだよ。竜さまに負担なんて考えることがお門違いで不遜じゃねーか」
「食べ物を投げることは、絶対に敬意を欠く」
「敬意の表し方なんて、てめえが決めることじゃねーよ」
竜さまが咀嚼している間、途切れていた口論が再開された。
――竜さまの食事シーンは、二人とも目を離したくないんだなぁ。
ジュスタを見上げると、にこにこしている。
そこで、竜さまを見上げた。
「りゅーさま、ニーノとシス、けんかしてるよ」
――うむ。
「いいの?」
竜さまは金の目を細めている。目の奥に、すこし青みがかった光が揺れた。
――わしのことで争っておるから、よい。愉快じゃ。
「ふーん」
竜さまがいいなら、いっか。
全員間違いなく、竜さまが好きなのだし。
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