5.大きな羽の船
「でも、今回は竜さまの背中に乗って旅というわけにはいかないですよね?」
ジュスタの言葉にきょとんとする。
「そうだな」
「そうなの?」
「おちびはまだ、竜さまの背中にしがみつけねーからな」
笑いながら、システーナが頭をぽんぽんする。
「りゅーさまの背中、風強いですか?」
「んー、ゆー――っくり飛んでくださったら違えけど、それじゃいつまでもたどり着かねー」
「付き人に合わせていただくなど、とんでもない」
ニーノが空いた皿を持って、台所に行った。私も食べ終わった皿を持って、後を追う。
「ニーノはりゅーさまの背中に乗ってたのにー!」
「ニーノは竜さまに合わせて飛んだっつーこった」
「なんと!?」
皿を受け取るニーノは当然だ、みたいな顔だ。
むー! ニーノはすごい人です!
「竜さまは偉大だ。乗せてくださることもある」
「――! おおー、すてきです!」
うぉほっほをしながら、食堂に戻る。
「水や食料を運んで、道具を持ってって考えてたら、俺一人じゃ潰れちゃうなって悩んでたんですけど、楽しくなるようにって竜さまが教えてくださったんですよね」
「ははっ、ジュスタらしいし、竜さまらしいな!」
システーナが、ガラス玉を壁側に転がした。音に気がついたのか、ペロはのそのそガラス玉のほうへ寄っていく。
「それで、船を作ったらどうかなって」
「お? エーヴェ、筏見たよ!」
そういえば、お泥さまの座で船は見なかった。
「空を飛ぶ船ということか」
「すげー! 飛ぶもんなんて作れんの、ジュスタ?」
「いや、船自体初めてで」
ニーノが人数分温かな飲み物を持ってきた。花の香りがする。
「こんな感じで考えてますけど……」
「えー? 羽はー? 竜さまみたいに羽がいんだろ」
「羽ですか」
カップを握ったまま、みんなの顔を代わる代わる見た。
みんなジュスタの案について考えてる顔だ。
「お? なーにー? エーヴェ、分かりません!」
「ああ。そっか、ごめんな」
蜂蜜色の目がふわっと笑って、掌を出してくる。
……は! これは!
すちゃっと手をのせると、大きなものがぶわっと押し寄せてきて、思わず目をつぶった。
でも、目を閉じても、映像はそのままだ。注意して呼吸すると、ゆっくりじわじわ離れて、全体が見える。
「おー船! 船が見えます!」
底が丸っこいデザインの船。舳先がぐいっと持ち上がってバイキングの船を思い出すけど、ずっと小さい。たぶん、四、五人で定員いっぱい。
一本マストに大きな三角帆。船尾側に舵になりそうな四角帆が張られている。船尾の下に出っ張ってる舵は、魚の尾びれみたい。
「もしかして、ジュスタが前いた世界の船ですか?」
漁や島との往来に使うのかな。
「そう。もちろんこれじゃ飛べないけど、元にしたらどうかと思ってる。物と人を運ぶ道具なのは間違いないからね。これでも七日の航海には出てたんだぜ。もっとも、道中釣りをしてたろうけど」
は! そういえば、ジュスタは前の世界で女の人だったから、船を作れなかったはず。
「ジュスタ! 飛ぶ船、作ります! エーヴェ手伝うよ!」
拍手して宣言すると、ジュスタは不思議そうに首をかしげた。
「そうだね。エーヴェも力を貸してくれ」
「……空を飛ぶならば、羽は水平に向けたほうがいいだろう」
熟考していたニーノが口を開く。
「上空になればなるほど寒くなる。船に部屋を作って中で過ごせるといい。重い物を運ぶから、羽が大きくなければ支えられない」
ニーノの言葉で、ジュスタが船に変更を加えてるのか、見える船の形が変わっていく。
「俺はあったかい空気を溜めて、船が浮かばないかなと思ってたんです」
袋の下に灯火を置いて飛ぶ道具がふわっと目の前を通り過ぎ、思わず追った。
アジアの国で似たようなランタンがあった気がする。
「重さ次第だが、空気を溜めておく袋が難しくはないか? 穴が開いたときの対策も考える必要がある。竜さまの速度について行くとなると、飛び出しを竜さまに手伝っていただいて、滑空するのはどうだ」
「かっくうってタカみてーな?」
システーナがぽかんとしてる。お屑さまが起きてたら、絶対怒られてたな。
「そうだ。大きな羽で長く滑空できるようにする」
「おおー!」
竜さまと一緒に飛ぶ船、わくわくする!
「とにかく、まず、小さな船を作るといい」
ニーノの言葉に首をかしげる。
「船でいーの?」
「船もきちんと作るのは難しい。構造を理解して、飛ぶ船を作っても遅くない」
「ほぉー」
「なるほど、確かに」
納得してる横で、システーナが腕組みした。
「うーん、分かんねーけど、なんっか気になるなー。うーん」
「シス、何が気になりますか?」
システーナは答えずにうんうんしてる。机の上に置いてた抜けた歯をコマみたいに弾いて回した。
「分かんねーな。……まぁ、そのうち分かんだろ! ジュスタは作ってみりゃいいさ」
にかっと笑われて、ジュスタは頷く。
ペロは部屋の隅で鉢を下にして、もう寝る準備ができたみたいだ。
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