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3.肩の力が抜ける

多忙で遅くなりました。

 竜さまに、ペロがジュスタの足を治したことを大熱演で報告した。


 ――ほう。それは面白いことがあったな。


 竜さまは金の目を細めて、ペロの鉢をとん、とする。

 一瞬、固まったペロは、すさささっと竜さまのふかふかの下にもぐり込んだ。

「わ! ペロ、ちょっと嬉しそう!」


 ――ぽはっ! たいへん喜んでおるぞ! ぽはっ!

 お屑さまはたいへん愉快げ。

「でも、エーヴェ、ビックリしちゃった! でもね、思い出しました! 前にも、ペロ、羽がねじれて落ちてたチョウチョを治しました!」

 サーラスの日、ペロが取り込んだ後、ふわっと慌てて逃げた蝶がいた。ちょっと違和感があったけど、あのチョウチョはケガをして地面に落ちてたんだ。

 ぴょんぴょん跳ねると、竜さまがふわっと鼻息を上げた。


 ――ふむ、そうか。ニーノが言うには、わしの()()()は薬になる。ペロはもともとわしの()()()ゆえ、ケガを治せるのかもしれぬ。

 そうか! 竜さまのよだれは、治療のためにニーノがお泥さまの座へ持って行ってた。ペロも()()の特性があるのは、当たり前かも。

「すごいね! ペロはお医者さん!」

 竜さまの胸に駆け寄って、毛の下に埋もれてるペロを見る。鉢からはみ出た身体は竜さまの毛を飲み込んでるので、毛を握りしめてるみたい。


 ――しかし、こやつは気ままゆえ、いつも治すとは限らんぞ!

「お? じゃ、ジュスタだから治しましたか?」

 ――おそらく、そうであろう。

 竜さまもお屑さまに賛成する。

 そうかぁ。回復魔法みたいに、好きなときに使ってくれるわけじゃないんだね。




 ――しかし、ジュスタ。さような()()()をするとは、どうしたことじゃ?

 竜さまに目を向けられて、ジュスタは頭をかいた。

「考え事をしていて、足下にあまり注意していなかったんです。お屑さまがおっしゃる通り、油断でした」


 ――そうじゃ! わしの言う通り、油断じゃぞ!

 威勢のいいお屑さまを眺めて、竜さまは首をかしげる。


 ――ジュスタがさほどに熱中する考え事とは何じゃ?

 先ほどまで立っていたジュスタが、きちんとあぐらをかいて、竜さまを見上げた。

「竜さま、俺はこの世界に来てから、いろんな物を作ってきました。道具、染め物、菜園……こういう物は日々手入れして状態が保たれています。離れてしまったら、多かれ少なかれダメになってしまう」


 ――ふむ。ジュスタはここに残りたいのか?

 目を見張ってから、ジュスタはぶんぶん首を振った。

「いいえ! 俺は竜さまと皆と一緒にいたいです。ただ、そうすると、今までつちかってたものを捨てなきゃいけない。それで、どれを諦めるか考え込んでしまって……」

 ゆったりカールした髪が、心なししょんぼりしてる気がする。




 ――愚か者! 一人で考え込むのは頭のひだに迷い込むばかりじゃぞ!

 お屑さまがぎゃんぎゃん怒る。


 ――屑よ、今相談しておるところじゃ。そう騒ぎ立てるでない。

 ――騒ぎ立ててなどおらぬ! ジュスタに教え諭しておるのじゃ!

 竜さまは重々しく頷く。


 ――うむ。しかし、ジュスタ。今の考えでは、ジュスタは悲しくなるばかりであろう。

「――え?」


 ジュスタがきょとんとした。


 ――せっかく旅に行くのじゃ。叶うならば、ジュスタの(こころ)(おど)ることをするがよい。まだ作っておらず、旅に出ることで作れるものはないのか? 今は置いていくしかない何かが、形を変えれば共に来られることはないか?


 金色の瞳にちらちら水色の光が揺れた。


 ――例えばエレメントは、そうやって来たのじゃ。ヒナがおるときに、空に舞えばヒナを損なう。それゆえ、飛ぶだけをする影を作った。

「おおお! りゅーさま、偉大! 飛行のエレメント、とっても優しかったです」

 竜さまは胸を反らした。


 ――ほれ、エレメントが来たおかげで、かように誉められる。

 ――身体を分けられれば、見聞きできるものが増えるのじゃ! ぽはっ!


「むー? それって、竜さまたちしかできないですよ」

 腕輪の先のお屑さまに話しかける。


 ――当然じゃ! わしら竜はたいへん偉大なのじゃ!

 ――しかし、人のやり方で、わしらにできぬことがある。――ニーノやシスと話すがよい。ニーノは必ず考えがあろう。システーナは、この座のことをよく知っておる。手がかりを持つやもしれん。

 ジュスタは目をはたはた瞬かせている。

「……なんだか、俺の問題だと思ってました」


 ――問題は誰かのものではないぞ! 独り占めは(ごう)(まん)なのじゃ! ぽはっ!


 おお……、そんな傲慢、初めて聞きました。

 竜さまは思い出したように、後ろ肢で顎をかいた。すっきりしてから、こっちを見る。


 ――エーヴェが古老に会うことは目的である。しかし、旅はエーヴェだけのものではなかろう。わしのものであり、ニーノのものであり、ジュスタのものである。ジュスタが望むものを口にすれば、当然、出会うこともできよう。


「――そうですね」

 竜さまを見上げていたジュスタが、へにゃと笑った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 問題を抱え込んだときにどうすればいいのか、ジュスタと一緒に竜さまに教え導かれたように思えて、とっかかりの糸口がひとつ増えた‼️やったぜ、覚えておこう‼️となりました。 竜さまは偉大であると…
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