おまけ ふくふくの午後
ニーノの話には分からないことがいろいろある。
質問しようとしたら、竜さまが目を細めた。
――今日は、ニーノはもう話さぬ。ここで遊ぶのじゃ。
「竜さま?」
肩口辺りに移動してきたニーノを、竜さまは鼻先で背中に押し戻す。
――戻れ。ニーノはわしの首を登ったり、尾を滑ったりするのがよい。夕陽を見てから帰るのじゃ。
「……しかし、エーヴェの昼食が」
竜さまがぶんぶんと頭を振った。
――システーナもジュスタもおる。ニーノは遊べ。皆もニーノの遊びの邪魔をするでない。邸に戻るのじゃ。
「いや、待て、エーヴェは鍛錬を……」
また肩口の辺りに来たニーノを、竜さまは押し戻し、そのまま頭でニーノを押しつぶした。
「おお……」
ぽかんと見上げていると、ジュスタがふふっと笑う。
「ニーノさんはつぶされちゃったから、戻ろうか、エーヴェ」
「ニーノ、つぶされた!」
「昼飯はあたしが作ってやっから」
跳ねるように立ち上がったシステーナが、隣に立って頭に手を置いた。
――ぽはっ! 山の言う通りじゃ! 身が細まる話であったゆえ、ニーノは遊ぶのがいちばんじゃ。ぽはっ!
お屑さまはとっても愉快そう。
邸に戻るなら、もう一人声をかけなくちゃ。
「ペロー、帰ります!」
「戻るよ、ペロ」
ジュスタが声をかけると、ペロは一瞬、固まる。
竜さまのほうによろよろ。ジュスタのほうによろよろ。また竜さまに近づいたけど、すささっとジュスタのほうに寄ってきた。
本気を出すと、ペロはびっくりするくらい速い。
「竜さま、ニーノのこと頼みますー」
あっけらかんと手を振って、システーナがゆうゆうと歩きだした。
邸への道を歩きながら、起こったことを整理する。
ときどき見ていた夢は、まどろみどきと呼ばれる場所。普通、竜さま以外はまどろみどきに入れない。
まどろみどきのことと出入りする方法を学ばないといけない。それで、竜さまが飛んだあと、みんなで古老の竜さまに会いに行くことになった。
ニーノは前の世界で、まどろみどきに何かして寝てる人に楽しい夢を見せる役目だった。でも、あんまり幸せじゃなかった。
「ニーノ、りゅーさまに会えてよかったね」
口にして見上げたジュスタとシステーナは、表情が柔らかい。
「そうだな。俺も、竜さまに会えてよかった」
「あたしもー!」
――わしもじゃ!
お屑さまがぴこんっと伸び上がる。
思わず、にこっとなった。
「エーヴェも! おお! みんな、りゅーさまに会えてよかった!」
先を進むペロにわーっと駆け寄ったら、ペロは驚いたみたいにすささっと逃げた。
「しかし、えらいことになったな。あたしは竜さまがいれば何でもいいけど、ジュスタは工房どうすんだ?」
「んー、ニーノさんと相談するつもりでしたけどね。あの様子ですから、慌てるなってことでしょう」
そうか。旅に出たら、道具を作るいろんな物を持って歩くのが大変なんだ。
「ま、そーだな。――おちび、腹減ったか?」
「はい! お腹空いたよー!」
元気になったばかりで、たくさんややこしい話を聞いて、さっきからお腹がぐーぐー鳴ってる。
「そーかそーか! うまいの食おうな!」
システーナが作ってくれたのは、サーラスサンド。トウモロコシのパサパサパンの上に焼いた干しサーラスの肉をのせて、干したクレの実二、三粒。薄切りのラオーレをのっけてパサパサパンをのっける。
サーラスの干し肉は焼くとまだまだ脂たっぷりで、クレの実とラオーレが組み合わさってあまじょっぱおいしい!
「エーヴェ、鍛錬行きますか?」
頬張ったサンドを噛みくだいて聞くと、システーナは首を振る。
「元気になったばっかだからな。邸にいるこった」
――まだ安静なのじゃ! シスのように跳ね回らずに遊ぶのじゃ! ぽはっ!
安静が似合わない二人から言われる。
「じゃあエーヴェ、お絵かきする! おくずさまをかきます!」
――ぽ! 童は絵を描けるのか! いったいどうやって描くのじゃ!
久しぶりに砂絵板を取り出す。お屑さまやペロの絵を描く。思い出しながら、おどろさまやルピタ、お泥さまの座のみんなも描いた。
――童はいろいろ思いつくのじゃ! 面白いのじゃ。ぽはっ!
お屑さまは砂絵板に大興奮だ。絵にもいちいち反応してとっても賑やか。
ペロは鉢をかぶったり、脱いだり、ガラス球を転がしたり……。とってもマイペース。
何度も絵を描いては消して、夕陽の時間が近づいた。
お屑さまと一緒に洞へ向かう。
カラカラカラ……
聞こえた音に背筋が伸びた。
「あ! 鳴り竹です!」
竜さまが鳴らしている!
洞に駆け込むと、竜さまが鳴り竹に鼻を寄せていた。
竜さまの頭には、ニーノが姿勢良く座っている。
「……お? りゅーさま、ふくふくしてます!」
たてがみがふわっと豊かで、きらきらして見える。
――エーヴェか。うむ。ニーノが毛並みを梳いたのじゃ。
ふわっと鼻息が上がる。竜さまの頭の上にいるニーノは無表情だけど、ちょっとふくふくして見えた。
遊ぶはずが竜さまのブラッシングをしているニーノは、とってもニーノ。
おかしくなって、お屑さまの真似でぴこんぴこんした。
――およ? なんじゃ! 童が怪しい動きなのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこん叫んだ。
次話から新章です。
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