表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

148/300

16.熱まよい

 目が覚めて服を着る。

 なんだか身体がふわふわして、ワンピースに腕を通す感覚が面白い。

「うひゃひゃひゃ! へーん!」

 けらけら笑っていたら、ニーノがやって来て、額に触られた。てきぱき服を着替えさせられて、また寝台の上に戻っている。

「うひゃひゃ、エーヴェ、また寝てます! へーん!」

「熱が出ている。寝なさい」

「エーヴェ、元気だよ!」

 手脚をバタバタする。その時、ニーノの目が冷厳に光った。

「――寝ろ」

 ちょっとおかしかったけど、ニーノの目が怖いので笑うのは止めた。

 食堂の方から、お屑さまの声とニーノの声が聞こえる。

「お屑さまはいつもおしゃべり。ふっふっふ」

 くすくす笑いながら、足をぱたぱたしていると、ニーノが戻ってくる。

 慌てて、ぴたっと止まった。

「飲め」

「苦いやつですー!」

 にやにやしながら飲むけど、ニーノの真面目な顔にちょっと神妙な気分になる。

 上掛けを首までかけられて、ほっぺたが膨れた。

「昼にジュスタとシステーナが帰ってくるよ!」

「貴様が安静にしていれば、熱も下がる」

「エーヴェ、元気なのに……」

 文句を言うけど、ニーノには全然響かない。

 苦いやつを飲んだあと、お腹からあったかくなって手足が重くなった。

「あれー? 身体が疲れてきたうっふっふ」

 だんだん熱くなって、喉が狭くなった感じがしてくる。

 見える所がぐらぐらして、汗が出てぐったりする。

 やっぱりニーノの言うことは正しかったみたい。


 ちょっと眠っていたみたい。

 熱いーと叫んで上掛けを蹴飛ばしたり、うなったりした気がする。

 冷たいのが頭に当たって、首に変な匂いがするのを巻かれて、少し息がしやすくなって、またうとうとする。

 システーナやジュスタの声が聞こえた気がした。

 ぺとっと冷たい水の感触もした。

 ……ペロかな?

 でも、目が開かなくて、一人だけ別の世界にいるみたいだ。




 びょうびょー……う


 強い風の音に目が覚めた。

 目を開けると、いくつも高い建物の残骸があった。

 ぶおん、と大きな風鳴りが響く。

 錆びて赤い鉄柱は、今にも落ちてきそう。上を見ながら、歩く。

 灰色の雲がすごいスピードで流れるけど、いつまで経っても空は見えない。


 ここは――たぶん、前にも来たことある。

 夢の世界。荒廃の場所。

 砂漠じゃなくて、危ない沼じゃなくて、たぶん都会の跡だ。


「どうしてエーヴェはここに来ますか?」

 独り言をこぼしたとき、すごい音が押し寄せてきた。


 ぐぉぉおおおおー――ん うぅぉおおおおー――ん


 音が強すぎて尻餅をつく。

 一つの音じゃなくて、いくつもの音が重なっている気がする。

 嫌な音じゃないけど、音が大きすぎて耳を塞いでじっとした。

 余韻が消えて、ほっと息をつく。


 ――そこに、何かおるか?


 ぶわん、とまた声が響く。怒ってるみたい。

 いくつも重なった不思議な声。とっても大きくて、またうずくまった。


 ――なんじゃ、(わつぱ)か。


 聞き慣れた呼び名に、顔を上げる。


「おおおお!」

 驚いてぽかんと口が開く。

 錆びた鉄柱の上から、大きな首がのぞき込んでる。

 紫色のヘビみたいにきれいな目……いっぱい。


 ――ほう、わしを恐れぬか、童。


 九つの頭が一斉にしゃべって、うわん、と音が響く。

 大きいけど、きれいな和音で気持ちいい。

 九つの頭のそれぞれの目がこっちを見てる。

「おくずさま、声が大きいよ」

 お屑さまが目を瞬いて、隣の頭と顔を見合わせたり、首をかしげたりした。


 ――古い名じゃ。童が、なぜ知っておる。


 あれ? お屑さまって古い名前なの?

「シスが教えてくれたよ。でも、おくずさま大きいです! ちゃんと首が九つあります!」

 それぞれの首は角の形が違ったり、背びれの形が違う。

 目の色も、青や緑や水色でとってもきれい。


 ――シス? 知らぬ名じゃ。しかし、どうやら童は元よりここにあった者でない。話が噛み合わぬのも道理か。

 ――すなわち、竜のゆかりがあろう。答えよ。


 竜のゆかりって何かな?

「りゅーさまのこと?」


 ――やはり、竜の側人(そばびと)か。

 ――帰るがよい。ここは()()()ではない。


 お屑さまがすいっと離れようとするので、慌てた。

「待って待って! ここどこですか?」


 ――なに? 童、知らずにここにおるのか?

 ――なんじゃ、迷い子か。


 九つの頭が、相談するように集まって、またこっちを見る。


 ――仕方ない。しばらく預かろう。

 ――竜のゆかりならば、探し手が来よう。


 紫目の頭がわっと近づいて、びっくりする。

 固まってると首の後ろをくわえられ、お屑さまの背中に降ろされた。


 ――迷うなら、明るい世界に迷うて出よ。

 ――迷いは選んでするものでないゆえ。


 九つの首がいろいろな方向を向いたまま、お屑さまはゆっくり歩き始めた。

エーヴェじゃありませんが、風邪っけがあり、明日はお休みするかもしれません。


評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。

是非、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] エーヴェ、まさしく、へーん!ですね。大丈夫かな? エーヴェが見る夢の世界、夢であったらいいのにと思う反面、夢に出てくる荒廃の世界の竜さま、おくずさまが慕わしくて、エーヴェの世界のお屑さまが…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ