15.見目麗しいお屑さま
久しぶりにニーノも一緒に夕陽を見た。もうだいぶ沈みかけで、短い時間だったけど、みんなで赤い光を眺めるのはとっても良い気持ち。
――エーヴェ、その腕輪、屑をつないでおるのか?
私が口を開く前に、お屑さまが興奮してぴこんぴこんする。
――つなぐとは何じゃ! わしがつかんでやっておるのじゃ! ヒトごときがわしをつなぐなど、大それたことなのじゃ! ぽはっ!
「ここです! ここに、お屑さまの尻尾がうまく引っかかるのですよ!」
一生懸命伸び上がって、腕輪の引っかかりを竜さまに見せる。
――む? ふむ。ジュスタが作ったのか? ふむ。
竜さまが顔を近づけて見る間、お屑さまは自慢げにぴこんぴこんしている。
――わしのかぎ爪の宿り木を作るとは、ジュスタは身に余る栄誉であろう! ぽはっ! 山の付き人は皆、幸いであるぞ!
――うむ。屑とこれほど長く共にいるのは久方ぶりである。
大きな竜さまと小さなお屑さまが、同じ場所にいる。
「りゅーさまとお屑さまがいて、エーヴェは幸いです!」
両手を上げて、主張した。
星が浮かんだ空を見ながら、ニーノと一緒に邸へ戻る。
「明日はシスとジュスタが帰って来ます! ペロも!」
「そうだな」
――わしはー九つ首ー! わしはーきらきらなー真っ黒お目々ー! 見目麗しいお屑さまー!
うっふっふー! お屑さま、歌が気に入ったみたい。
「エーヴェはエーヴェ、エーヴェですー
ニーノとジュスタとシステーナー
みんなで一緒に住んでますー
エーヴェはエーヴェ、エーヴェですー
ニーノはこわくてジュスタは器用!
システーナはぴょーんぴょーん」
お屑さまがぽはぽは笑った。
「エーヴェはエーヴェ、エーヴェですー
小さいきょうだいペーロ!
りゅーさまのよだれ! 鉢かぶりー」
最後は一緒にお屑さまの歌を歌いながら、邸に入る。
手を洗って台所を通りかかると、香ばしい匂いがした。
「ニーノ! 香ばしい匂いですよ!」
ニーノがこちらを見下ろす。
「貴様が食いたいと言ったから、少し取り分けておいた。明日には、内臓は傷んで食べられない」
「おお!」
――おお! まだ滋味があると!
ぴょんぴょん跳ねて、ニーノの手許を見ようとすると、頭をがっと押さえられた。
「やめなさい、危ない。テーブルで待て」
「はい!」
「皿は運べ」
お皿をテーブルに並べて、椅子に座って足をぶらぶらして待つ。
とってもワクワクします。
「ほら。温かい内に食べろ」
ころころした三角錐と長いヒモみたいなもの。どちらも塩で焼いただけに見える。
三角錐を口に入れた。ぎゅっと歯に強い弾力が返る。
「それはサーラスの心臓。こちらがサーラスの胃袋だ」
「心臓はぎゅうってしてます! 力が詰まってます!」
あぐあぐと一生懸命顎を動かす。その度、ぐっと味が口に広がる。胃袋もただの塩味だけど、柔らかいスルメみたい。
「おいしいよ! これは? これは?」
レバーみたいな塊を指す。煮物みたいだけど、ココナッツの香りがする。
「膵臓と肝臓だ。すこし癖があるぞ」
甘く味付けされていても、やっぱり肝臓のえぐみがある。でも、ほろほろ口で溶けて、食べやすくしてくれてるのが分かった。
「好きだったか?」
「おいしいです! ニーノはサーラスの内臓が好きですか?」
「お屑さまがおっしゃる通りだ。栄養がたくさんある」
――滋味じゃー!
お屑さまがぴこんと伸び上がった。
トウモロコシのパサパサパンで煮物を包んで食べる。
「ニーノ、料理は食べ物を長く食べられるようにすることです。だったら、美味しくしたら、みんないっぱい食べて、食べ物がすぐになくなりますよ!」
ニーノが言ってた料理の定義だと、美味しくする意味がない気がする。
「少ししか食べ物がなくても、美味しくないより美味しいほうが満足だろう。それも大切なことだ」
「ほー!」
――ニーノはいろいろ考えるのじゃ! 面白いぞ! ぽはっ!
空腹は最高の調味料って言うけど、確かに美味しいほうが嬉しい。
ジュスタが言ってたのを思い出す。
「ニーノはいろいろ考えます。すごい人です」
サーラスの胃袋をまた口に運んだ。
料理を平らげて、満足にぼーっとしていると、ニーノが冷たくこちらを見た。
「――貴様、顔が赤いな」
言葉に首をかしげる。額に手を当てられた。
「……少し待て」
ぽけっとしてると、ニーノが台所から戻ってくる。
渡された木の器にすりおろした何かが入っている。
「ラオーレ!」
ちょっとだけ酸っぱい味も入ってる。
「それを飲んで、今日は早く寝ろ」
「エーヴェ、病気?」
ごくごくラオーレジュースを飲む。ニーノは首を振った。
「少し風に当たりすぎただけだ」
「サーラス捕って、皮をむいて、いっぱい飛びました! 大きな名前も知りました!」
楽しい気持ちでいっぱいだ。
「楽しくても身体は疲れる。しっかり休め」
「はい!」
返事して、部屋に戻った。服を着替えて、寝台に寝転ぶ。
目蓋を閉じると、目の前に湖を赤く染めるサーラスの姿が浮かんだ。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




