10.祝う日を探す
ぽん、とまた音がする。
「お? また、誰か来たかな?」
サーラスの開きを並べた網を見ると、ペロだ。
ピタッと固まって、ちょっと逃げたけど、またそろっと近づいて、ぽん!
「――何してますか?」
音にびりっとしたみたいに固まるのに、ぷるんとリラックスしては、何度も繰り返している。
――気に入ったのじゃ! 遊んでおる! これはなんとも面白いもの。
「おお……」
――童は気概が足りぬぞ! 赤子ですら、こうして遊ぶと言うに!
ぴこんぴこんしながらお屑さまが言う通り、ペロは何回も繰り返している。
「きがい? 危ない?」
「……エーヴェ、ペロをジュスタの所へ連れて行け。何度も繰り返しては、他の生き物も慣れてしまう」
ニーノの声に背筋を伸ばす。
「分かった! ペロー! ジュスタの所、行きますよ!」
駆け寄って、ペロの鉢をこんこんする。鉢の音にピタッと止まったあとで、ペロはのそのそと移動する。
「どこ行きますか?」
――ぽはっ! 何も考えておらぬ! 好きに動いておるのじゃ! ぽはっ!
鉢をゆらゆらさせて進むのを追いかける。
ペロは葉っぱや草や花を取り込んでは吐き出して、進んでいく。
「ペロは草や花が好きですか? 挨拶してる?」
――何も考えておらぬ! 赤子は面白いのう! 何も考えておらぬのに、何にでも手を伸ばすのじゃ! ぽはっ!
「おお、おくずさまみたいです」
――なんじゃと!! 不心得者が! わしのように思慮深い竜をつかまえて、何も考えておらぬと申すか! 童は見識が浅いのじゃ! まったく、ものを知らぬのじゃ! ぽはっ!
お屑さまは激しくぴこんぴこんしている。
うーん。でも、こんなに次から次におしゃべりしてたら、何も考える時間ないよ。
お屑さまがいかに思慮深い竜かを説明しているとき、ペロがチョウチョを取り込んだ。
チョウチョは地面に落ちていたから、ペロが飲み込んじゃったけど、ペロが吐き出すと、慌てたように飛んでいった。
「――あれ?」
今、なんか変な気がしたぞ?
「エーヴェ、ペロ、どこまで行くんだい?」
後ろから影が差して、振り返る。
体中あちこちをサーラスの鱗で光らせたジュスタが立っている。
「ジュスター! ペロが草や花に挨拶します」
「そうか。それは大事だ」
ジュスタが身を屈めると、ペロがのそのそ寄ってくる。
「むー! ペロ、エーヴェには寄ってきませんよ!」
ほっぺたを膨らませて抗議する。お屑さまがぽはぽは笑った。
――童は同類じゃから、連れ回すのじゃ! ジュスタは水玉の寄る木じゃな! わしは水玉の大樹じゃ! ぽはっ!
「むー! お屑さまは木の葉ですよ!」
――ぽはっ! 大樹の木の葉じゃ! 世界中に舞っておる! 童! 言い得て妙じゃ!ぽはっ! 誉めようぞ!
「おお……!」
意地悪のつもりが、お屑さまのおしゃべりでとっても良いことを言った気分だ。ジュスタが笑う。
「さ、大きな獣も来るから。戻ろう。――ペロも来るよ」
ジュスタの近くでしきりと草を飲み込んでいたペロは、ジュスタが歩くとついてくる。
……いいなぁ。
「エーヴェも木が良いー!」
隣に並ぶと、ジュスタはからから笑った。
「同類は友達でもあるよ。悪くないだろ?」
「おお……!」
ジュスタの言い分で、お屑さまもとっても良いことを言った感じ。
「皮の加工、終わりましたか?」
何気なく聞いたら、ジュスタは肩を震わせた。
「まだまだ! いちばん最初の作業が、シスさんのおかげでもう少しってところだ。エーヴェもニーノさんの所に行っちゃったからね」
「あ!」
上出来の皮を見せびらかしに行って、そのままだった。
「エーヴェ、まだできるよ!」
強いポーズをすると、ジュスタはにかっと笑う。
「うん。頼りにしてるよ」
――もう破裂は見に行かんのか? あれは面白いぞ!
「行きません! ジュスタ、皮は何に使いますか?」
頭にかかる枝をジュスタは腕で押しのける。私とペロは小さいから、楽ちんだ。
「長く待たせたけど、ひゅん、だよ」
「お!」
――ひゅん? ひゅんとは何じゃ?
「木に引っかけて、ひゅんと飛ぶ道具だよ! ニーノが改良しろって言いました!」
――また道具か! ヒトは他者から力を借りてばかりで、まったくの怠け者じゃ! そのうえ、道具を作るために同じ事を飽きもせずにやるのじゃ! 何を考えておるのやら、さっぱり分からん!
ジュスタは愉快そうに笑って、蜂蜜色の目をとろけさせる。
「もうすぐ二,三六九日だから」
あ、これは私がここに来てからってことだ!
「エーヴェ記念!」
「あっはっは! そういうことだな」
日数を決めてプレゼントがもらえるなんて、誕生日みたい。
「ジュスタ記念はありますか?」
「――どうかなぁ?」
ちょっと驚いた顔をして、ジュスタは首をかしげる。
ニーノ記念もシステーナ記念も竜さま記念もあったらいいな。
「じゃあ、探します! きっとあるよ!」
――何を探すのじゃ? なぜわしに聞かぬ? わしの知らぬものか?
ぴこんぴこんしているお屑さまにはっとする。
「おくずさま記念!」
――なんじゃ! 耳慣れぬ! 童! 言葉が足らぬぞ! わしは世界でいちばん物を知っておる! お主が問いを間違えねば、わしが間違うこともない! 正しく問うのじゃ!
どう説明しようかなと開きかけた口を、きゅっと閉じた。
ちょっと競馬っぽい。
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