7.合流
「おぉい! こっち、こっち!」
システーナのおっきな声が聞こえる。湖の縁で足首までつかって、両手を振りながら、ぴょんぴょん跳ねてる。
「シスー! おくずさまー!」
手を振り返しているうちに、ニーノが地面に降り立った。
「いい場所だな。ジュスタもすぐ来る」
「おお、了解」
「シースー――!」
ニーノの背中を飛び降りて、システーナに飛びつく。抱え上げられた流れで、高い高ーいされた。
「おちびー! サーラスは初めてだろ!」
「はい! たくさんいるね!」
湖にたくさんの魚の影が見える。
赤茶色の背中に、青い背びれがくっきりです。
――童ー! 大風で普段水がない所に水が来ると、眠っておったサーラスの卵がかえってこうなるのじゃ! しかし、これは多いぞ! 大変なことじゃ!
「あれ? お屑さま、どこ?」
お屑さまの声が遠くから聞こえる。システーナの手には、腕輪がない。
「ああ、お屑さまなら、そこの木に引っかけてんぜ」
ひょいっとシステーナの指した方向には、立ったまま枯れた木があった。枝に腕輪がかけられて、お屑さまは頭が下向きになってる。
――わしは水も平気というておるのに、シスが連れて行かん! もっと近くでサーラスを見たいゆえ、童が腕輪をせい! 急げ急げ!
頭が下でも、お屑さまはぴこんぴこんする。ニーノが眉根を寄せた。
「システーナ、貴様、お屑さまを放置するなど」
「放置してねえよ! 腕につけてると、水につかるたび『あばごぼばぼば』ってうるせーからさぁ」
――うるさいとは無礼じゃ! 水に入ったら普通にしゃべれぬのは当たり前のことであろうが!
「水に入ったらしゃべんねーんだよ、ふつーは!」
両手を腰に当てて、システーナはあっけらかんと言い放つ。システーナは竜さま相手にもいつも通りです。
「エーヴェ、おくずさまの腕輪つけたい!」
「おー、つけろつけろ」
「失礼のないように」
「はい!」
――うむ、かわいげのある童じゃ! ささ! わしを早くサーラスの近くへ連れて行くのじゃ! ……およ! 待て! それは、山のエレメントか! その形は見ぬぞ! 何に使うのじゃ!
腕輪をつけて、水辺に駆けつけようとしたところで、お屑さまが激しくぴこぴこした。
ニーノの左手の竜の頭を見て、思い出す。
「は! ペロ、食べられてた!」
――食べた? あの水玉を食べたのか?
お屑さまは興奮気味だ。
「エーヴェ、貴様は黙れ。――こちらは、多くの物を保持することができるエレメントです。……エレメント」
ニーノが声をかけると、竜の口がばがっと開く。
ぽて、とペロが枯れ葉がいっぱいの岸辺に落ちた。
ペロはぽよぽよ揺れた後、慌ててあっちに走り、こっちに走り、ぐるぐると動き回って、私の後ろに来た。でも、ふよふよして落ち着かない。
「ペロ、大丈夫です! 大丈夫!」
――ペロはジュスタを探しておるぞ! よう分からぬが、おののいておる。何が起こったか分からぬゆえ、混乱しておるのじゃな! ……待て待て! 童! あまり近づけるでな……!
「あー! ペロー!」
ペロがお屑さまの頭を捕まえている。
――ぎゃー! 不安じゃからと、わしを飲もうとするでない!
「ペロ――放せ」
ニーノの氷の声に、ペロが固まった。お屑さまの頭を放して、きゅうっと鉢の中に入り込む。できるだけ鉢から身体を出さないようにしてるみたい。でも、見ていると、ニーノからじわじわ遠のいている。
ペロはやっぱりニーノがとっても怖いです。
――はーやれやれ! 敬意を集めるのも楽ではないのぅ! また動けぬことになるかと思うたわ!
お屑さまは晴れ晴れした声で、ぴこんぴこんする。
「――ん、おお、ジュスタ。そうそう、その左に切り株がひっくりかえってっところあっからさー」
システーナがジュスタと話してる。話している間に、ジュスタの姿が見えた。
「遅れてすみません……、あれ? まだ始めてないですか?」
「ああ、なんかペロが……」
システーナが口を開く間に、ペロがすささっとジュスタの足下に走った。
鉢をごつごつジュスタの足に当てる。
「んー? ペロ、どうした?」
「ペロはジュスタ探してました!」
あんまりごつごつされるので、ジュスタは足下にしゃがんで、ペロの鉢を押さえた。でも、ペロは収まらない。ジュスタは苦笑して、鉢ごと脇に抱える。
「落ち着くまで持っておきますね」
「それしかないか」
「まー、しょーがねーだろ」
――ぽはっ! 赤子は駄々をこねるものじゃ! 大人が踏ん張らねばな! 人間は手がかかるのぅ! やはり、一人で育つわしら竜とは大違いじゃ!
ペロは人じゃないけど、お屑さまにそんなことを言っても意味がなさそう。
「しかし、エレメント借りたってこたー、いっぱい取るのか?」
システーナが、準備運動みたいに腕を伸ばしながら聞く。
「はい。ちょっと皮を加工しようかなって」
お屑さまが激しく反応した。
――サーラスでか! こざかしい細工じゃ! 獣の皮であれば大きく取れるが、魚ではたくさん必要じゃ! 何度も繰り返しじゃ! 竜はせぬぞ! 人間はよう飽きぬな!
「ははっ、おっしゃる通りです」
ジュスタは、鉢からうようよ出てくるペロを掌で押し戻している。
「とにかく始めよう。群れのサーラスは気が立って、争う」
「そーだな。あ、でも、身は食うよな、ジュスタ?」
ちょっと心配そうなシステーナに、ジュスタが笑った。
「もちろん!」
「おおー!」
食べるのも皮の加工も楽しみです!
――滋味じゃ!
お屑さまが、ぴこんと伸びた。
お屑さまが出ると、いっこうに話が進みません。
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