6.大食らいのエレメント
「エーヴェ、おはよう。早いけど起きよう」
身体を揺すられて目を開ける。部屋はまだ暗い。
「ジュスタ、おはようー、まだ暗いです……」
もぞもぞ起きて、あくびをする。ジュスタはすっかり出かける格好だ。
「今日中に行って帰るから、忙しいんだ。エーヴェは、ニーノさんが乗せて行くって」
「おぉ? じゃあ、飛んでいきますか!」
頷いたジュスタの足下に、ペロがやってきた。
「ペロ、早いですね! おはよう!」
鉢をとんとんすると、ぴたっと一瞬固まる。
「――もしかして、ペロも来たいのかな」
しゃがむジュスタの真似をして、一緒にペロの隣にしゃがんだ。
ペロは丸っこくて軽い鉢をかぶっている。
「あ! 軽いのかぶってる。きっと一緒に行くつもりだよ!」
「そうかー。うー――ん」
「エーヴェはまだ起きないのか? ……何をしている」
ニーノが来て、ペロはすぐさまジュスタの背後に隠れた。
「ペロがね……うわぁあああ!」
ニーノの左手を見てびっくりする。
竜さまの頭がついてる!
「これは、竜さまのエレメントだ」
「エレメントー!」
「ああ! エレメント、お借りできたんですね」
ジュスタは嬉しそうだ。
掌の二倍くらいの大きさの竜さまの頭が、ニーノの左手にくっついてる。
飛行のエレメントと同じで白い影だけど、このエレメントは目があった。竜さまと同じ、金色の瞳。叫んだとき、一瞬、目が開いた。
「エレメント、前と全然形が違います」
手をのばして鼻先をなでると、すうっと開いた目が猫みたいに細くなった。
わー! 素敵です!
「エレメントは竜さまのお力によって、いろいろな形を取る」
「ほおー!」
ジュスタやニーノも一緒に頭をなでていると、またエレメントは目を閉じた。
ちょっと満足げだ。
「それで、貴様らは何をしている」
「ペロが一緒に来たいようですが、どうしようかと」
「そうか」
ニーノがペロを見下ろす。ペロは、ジュスタをはさんで、ニーノと対角線の位置をキープしてる。とっても器用。
「――来たいのは、間違いないのか?」
「エーヴェ、昨日、重い鉢は歩くの遅いから、軽い鉢のほうがいいって言いました! そして、ペロは今日、軽い鉢をかぶってます」
竜さまがペロは何でも興味があるって言ってたから、きっとサーラスも興味があると思います。
「そうか。――まぁ、竜さまのことは慕っていたな」
微かに溜め息をついて、ニーノはペロに左手を伸ばす。
「エレメント」
ニーノの声と同時に、エレメントが急に大きくなった。
二メートルくらいある大きな口を開いて、ばぐん!
「……あわ!」
……ペロが、食べられた!
びっくりして、声が出ない。
エレメントの頭は元の大きさに戻ってる。
「大量に物を収めて運ぶのが、このエレメントだ」
「――そうか、いちばん安全に運べますね」
ジュスタも驚いてたけど、今は納得した声。
ジュスタとニーノとエレメントの顔を、あわあわ見比べる。
「ペロ、生きてる? 大丈夫ですか?」
「当然だ」
でも、きっととってもビックリしてます。
「そのエレメントの中、どうなってますか? おどろさまの座に行ったときと同じ?」
「――入ったことがない。生きた物は生きたまま出てくるから、問題ない」
思わず、ニーノをまじまじ見た。
ペロ、また、ニーノが怖くなるかもしれません。
朝ご飯を食べずに出発する。ジュスタは森を走ってきて、私はニーノの背中で運ばれる。
「朝ご飯、どこで食べますか?」
「一度、休憩する」
飛んでいるうちに、日が昇って、空が明るい紫からきれいな青に変わっていく。森の屋根に、木の影が長く伸びてるのが面白い。
そんなに経たないうちにお腹が鳴って、ニーノが高い木の枝に降りた。
「ほら、食べろ」
渡されたおにぎりを食べる。
ニーノの膝の上でエレメントは、目を閉じてる。
「エレメント、ご飯食べませんか?」
「食べない。口から物を取り入れるが、食べているわけではない」
食べられたわけじゃないなら、ペロは無事かな?
日の光が葉の隙間から届いて、エレメントは目を開け、また閉じる。
「ニーノは左手、使えない?」
「そうだな。エレメントに包まれている」
「どんな感じ? 全然動かないですか?」
ニーノは少し、首を傾けた。
「動かせるが、滑らかな壁に囲まれているようだな。飛行のエレメントの壁と同じだ」
おお、安全な感じ。
お腹がすいてたから、おにぎりがとっても美味しい。味付け木の実がぴりっとする。
食べ終わって、おんぶに戻る。
ふわっと飛び始めるときが、いちばんお腹がくすぐったい。
「りゅーさまの洞から、どのくらいですか?」
「半竜日と離れていない。もうすぐだ」
システーナが水源のある所だって指さしてた白い岩山が、右側に見える。
カモに似た鳥が群れて飛んでいく。
木の屋根がすり鉢状に低くなっている場所が見えてきた。
「あそこ、木が低いね!」
「中心が湖だ。――システーナ、どこにいる?」
だんだん、木が近くなってくる。低く飛んでるのかな。
――おお、ニーノ! 湖の西側に、ディーの角みてーな切り株あっから! その辺!
――ニーノ! 疾く参れと言うたに、遅いぞ!
「申し訳ありません。まもなく着きます」
システーナもお屑さまも、今日も元気いっぱいだ。
木がまばらになって、幹が見える。地面がきらきらするのでよく見ると、水面だ。
「おお! 湖です!」
青い空を映して真っ青な水面が広がってる。風で波立った水面が、白っぽい日差しを反射していた。
「――あれだな」
ニーノが向きを変える。
「ほおおぉおお!」
湖を見てびっくりする。
赤茶色!
「サーラスの群れだ。多いな」
「なんと! あれがサーラス! とっても多いよ!」
赤茶色の魚がいっぱいで、湖がサーラス色に染まっていた。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




