5.小さいきょうだい
竜さまと一緒に夕陽を見て、今日も一日満足です。
「ペロー! 邸に帰りますよ!」
ペロは、あっちの壁に着いたらこっちの壁に歩くのを繰り返してる。
「ペロー!」
鉢を引っ張ると、ぐぐっと抵抗された。
――ペロ、もう戻るのじゃ。ニーノが待っておる。
竜さまの言葉に、ペロが固まる。そして、いそいそと洞の入口へ向かい始めた。私も竜さまに挨拶して、ペロのあとを追いかける。
重い鉢を持ち上げて、ペロがすらすらと道を進んでいく。邸にはニーノがいて怖いのに、ニーノが迎えに来るのはもっと怖いのかな。
「ペロ、邸まで走ります!」
走ったけど、ペロはスピードが変わらない。
走っては待って、走っては待つ。
小さいきょうだいができたみたいで、楽しい。
手を洗って食堂に入ったら、ニーノがこめかみを押さえた。
「お? ニーノ、どうしました?」
びっくりして立ち止まると、眉をひそめたニーノがすっと手を伸ばしてくる。
ニーノの掌に、すちゃっと掌を重ねた。む、条件反射になってる。
――大変なことじゃ! サーラスがたくさんじゃ! 四千日に一度の景色じゃ! 珍しいぞ!
――湖の色が変わってんだよ! おちびとジュスタと連れて取り来いよ!
頭にうわん、と響いた声にびっくりだ。
お屑さまとシステーナだ。
「お知らせいただき、ありがとうございます。明日、さっそく向かいます」
――お主らは魚を食らうであろう! サーラスは大変な滋味であるぞ! よかったのう。疾く参るがよい!
――あたしとお屑さまは漁にいい場所探してっから、道具もってこいよ! じゃあな!
元気いっぱい大興奮の二人の声が途切れて、ニーノは微かに息を吐いた。
「さーらす?」
「――ああ、魚だ。成魚はこのくらいの大きさになる」
ニーノが両手で示した長さは四十センチくらい。
「いやぁ、賑やかなお知らせでしたね」
台所からトウモロコシ粉クレープの皿を運びながら、ジュスタが眉を下げた。
「ジュスタにも聞こえましたか?」
「うん。たぶん、あれは竜さまにも聞こえてるよ」
首をかしげると、椅子に座るように手でうながされる。
「頭に響く声はね、もともと竜さまと話すための方法なんだ。座の中なら、どこからでも竜さまに声が届く。でも、この相手と話したいと思うと、その人とも話せる」
「それで、付き人の連絡に使っている。だが、先ほどの知らせは、誰とも決めずに話しているようだった。竜さまにも聞こえているだろう」
おお、テレパシーは竜さまの座だからできることなのか。
「――竜さま、お聞き及びでしょうが、明日、皆で出かけます」
ニーノは竜さまと話してるみたい。
「わー! どこかに行きますか? どこですか?」
「ここから北東の湖だ。普段は池くらいの大きさしかないが、大風で水が増えたか」
「貯水槽は渓谷に面しているだろ? あの川が流れ込んでいる湖だよ」
あ! 竜さまのうんこで底が白く見えたあの川だ。
「りゅーさまは行きますか? ペロは?」
みんなで行けたらとっても嬉しい。
「竜さまは……」
「あ、ニーノさん。ちょっとお願いなんですが」
二人は相談を始める。
お腹がすいたので、湯気を上げているクレープを一つ、口に運んだ。
大人二人は急に忙しくなった。真似をして、私も遠足準備をする。
ジュスタからもらったナイフと竜さまの鱗。リュックサックには水筒、ポンチョ、寝るときの布、ボールを入れる。長袖、長ズボンもちゃんとある。
竜さまの鱗に編み縄をかけていると、ボールをくわえたペロがやって来た。
「ペロ! 明日、遠足ですよ! ペロも行きたいですか?」
ペロが竜さまの鱗に近づくので、背負って中に入れないようにした。
足下をペロはうろうろする。諦めきれない感じ。
「この鱗はエーヴェの!」
宣言する。
よく分からないけど、ペロはリラックスモードになった。
「ペロ、一緒に行くなら軽い鉢じゃないと間に合わないよ! 重い鉢は歩くのがゆっくりです」
しゃがんで言い聞かせる。
ペロはすかさず鱗に近づくので、さっと立ち上がって後ずさる。
「これはエーヴェのだよ!」
「何をしている。早く寝ろ」
急に部屋に現れたニーノに、ペロはビックリする。
ぴたーっと薄くなって、すささっと寝台の下に逃げ込んだ。ボールをくわえたままだから、透明な目玉焼きが走ったみたい。
「ペロ、貴様はちゃんと食堂で寝ろ」
厳しい声で言って、ニーノはさっさと部屋を出て行く。
寝台の下をのぞき込むと、ペロはまだ目玉焼きだ。
「ペロー、あとで戻るんだよーおやすみー」
小さい声で挨拶して、荷物を枕元に並べる。
サーラス、どんな魚かな?
想像しながら、目を閉じた。
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