表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

137/300

5.小さいきょうだい

 竜さまと一緒に夕陽を見て、今日も一日満足です。

「ペロー! 邸に帰りますよ!」

 ペロは、あっちの壁に着いたらこっちの壁に歩くのを繰り返してる。

「ペロー!」

 鉢を引っ張ると、ぐぐっと(てい)(こう)された。

 ――ペロ、もう戻るのじゃ。ニーノが待っておる。

 竜さまの言葉に、ペロが固まる。そして、いそいそと洞の入口へ向かい始めた。私も竜さまに挨拶して、ペロのあとを追いかける。

 重い鉢を持ち上げて、ペロがすらすらと道を進んでいく。邸にはニーノがいて怖いのに、ニーノが迎えに来るのはもっと怖いのかな。

「ペロ、邸まで走ります!」

 走ったけど、ペロはスピードが変わらない。

 走っては待って、走っては待つ。

 小さいきょうだいができたみたいで、楽しい。


 手を洗って食堂に入ったら、ニーノがこめかみを押さえた。

「お? ニーノ、どうしました?」

 びっくりして立ち止まると、眉をひそめたニーノがすっと手を伸ばしてくる。

 ニーノの掌に、すちゃっと掌を重ねた。む、条件反射になってる。


 ――大変なことじゃ! サーラスがたくさんじゃ! 四千日に一度の景色じゃ! 珍しいぞ!

 ――湖の色が変わってんだよ! おちびとジュスタと連れて取り来いよ!


 頭にうわん、と響いた声にびっくりだ。

 お屑さまとシステーナだ。

「お知らせいただき、ありがとうございます。明日、さっそく向かいます」

 ――お主らは魚を食らうであろう! サーラスは大変な滋味であるぞ! よかったのう。()く参るがよい!

 ――あたしとお屑さまは漁にいい場所探してっから、道具もってこいよ! じゃあな!


 元気いっぱい大興奮の二人の声が途切れて、ニーノは微かに息を吐いた。


「さーらす?」

「――ああ、魚だ。成魚(おとな)はこのくらいの大きさになる」

 ニーノが両手で示した長さは四十センチくらい。

「いやぁ、賑やかなお知らせでしたね」

 台所からトウモロコシ粉クレープの皿を運びながら、ジュスタが眉を下げた。

「ジュスタにも聞こえましたか?」

「うん。たぶん、あれは竜さまにも聞こえてるよ」

 首をかしげると、椅子に座るように手でうながされる。

「頭に響く声はね、もともと竜さまと話すための方法なんだ。座の中なら、どこからでも竜さまに声が届く。でも、この相手と話したいと思うと、その人とも話せる」

「それで、付き人の連絡に使っている。だが、先ほどの知らせは、誰とも決めずに話しているようだった。竜さまにも聞こえているだろう」

 おお、テレパシーは竜さまの座だからできることなのか。


「――竜さま、お聞き及びでしょうが、明日、皆で出かけます」

 ニーノは竜さまと話してるみたい。

「わー! どこかに行きますか? どこですか?」

「ここから北東の湖だ。普段は池くらいの大きさしかないが、大風で水が増えたか」

「貯水槽は渓谷に面しているだろ? あの川が流れ込んでいる湖だよ」

 あ! 竜さまのうんこで底が白く見えたあの川だ。

「りゅーさまは行きますか? ペロは?」

 みんなで行けたらとっても嬉しい。

「竜さまは……」

「あ、ニーノさん。ちょっとお願いなんですが」

 二人は相談を始める。

 お腹がすいたので、湯気を上げているクレープを一つ、口に運んだ。


 大人二人は急に忙しくなった。真似をして、私も遠足準備をする。

 ジュスタからもらったナイフと竜さまの鱗。リュックサックには水筒、ポンチョ、寝るときの布、ボールを入れる。長袖、長ズボンもちゃんとある。

 竜さまの鱗に編み縄をかけていると、ボールをくわえたペロがやって来た。

「ペロ! 明日、遠足ですよ! ペロも行きたいですか?」

 ペロが竜さまの鱗に近づくので、背負って中に入れないようにした。

 足下をペロはうろうろする。諦めきれない感じ。

「この鱗はエーヴェの!」

 宣言する。

 よく分からないけど、ペロはリラックスモードになった。

「ペロ、一緒に行くなら軽い鉢じゃないと間に合わないよ! 重い鉢は歩くのがゆっくりです」

 しゃがんで言い聞かせる。

 ペロはすかさず鱗に近づくので、さっと立ち上がって後ずさる。

「これはエーヴェのだよ!」


「何をしている。早く寝ろ」

 急に部屋に現れたニーノに、ペロはビックリする。

 ぴたーっと薄くなって、すささっと寝台の下に逃げ込んだ。ボールをくわえたままだから、透明な目玉焼きが走ったみたい。

「ペロ、貴様はちゃんと食堂で寝ろ」

 厳しい声で言って、ニーノはさっさと部屋を出て行く。

 寝台の下をのぞき込むと、ペロはまだ目玉焼きだ。

「ペロー、あとで戻るんだよーおやすみー」

 小さい声で挨拶して、荷物を枕元に並べる。

 サーラス、どんな魚かな?

 想像しながら、目を閉じた。

評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。

是非、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] お屑さまとシステーナはいいコンビになったみたいで、さぞや賑やかな珍道中になっているんだろうな。やっぱりどんな様子なのか見てみたいです。ちょっとだけ。 ペロは目玉焼きにもなれるとは芸達者!意…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ