2.いい知らせ
お屑さま止まり木腕輪が完成したので、システーナが森を一巡りしてくることになった。
「腕輪が丈夫か、試してくるぜ!」
「お手柔らかにお願いします」
ジュスタは複雑な顔だ。
――なんじゃ! 自信がないのか! 作り手がそのような有様ではいかんぞ! 非力な人間とはいえ、わしのように……ぎゃー!
「じゃあなー!」
お屑さまの話が終わるのを待たずに、システーナが跳んで行っちゃった。システーナもお屑さまもマイペース。二人の旅はどんな感じかな? ちょっと見てみたい。
試すだけだから、十日以内に帰ってくる約束だ。
お屑さまがいないと、邸の中はすごく静かになった。でも、別に寂しくなくて、静かなだけだ。普通、おしゃべりな人がいなくなったら、寂しくなると思うのに、これもお屑さまの才能かな?
五日くらい経った朝、ペロに水をかけてると、ニーノに呼ばれた。
ペロはすささっと重い鉢の中に引っ込む。
うーむ、まだまだニーノは恐れられています。
「エーヴェ、竜さまがお呼びだ」
「お! 行きます!」
ニーノはジュスタにも声をかける。三人で行こうとすると、ペロがおそるおそるついて来た。重い鉢でよろよろしながら、近づいてくる。ジュスタが気がついて、歩くスピードを緩めた。
「――なんだ?」
「すみません、ペロが来たいみたいなんで、遅れていきますね」
ニーノは無言で頷いて、足を速める。
わ! わ! 私が置いて行かれちゃう。
竜さまのたてがみが、白く波打ってるのが遠くからでも見える。何かいいことがあったのかな?
嬉しい気分で洞に駆け込むと、竜さまが首を反らした。
――来たか。泥からの知らせが届いたぞ。
「おどろさま!」
――吉報であるぞ。
竜さまが鼻息で鳴り竹を鳴らす。
大風からバタバタしてたけど、鳴り竹はちゃんと竜さまの洞に戻って、鳴ってる。
ペロとジュスタが到着してから、竜さまの前にみんなであぐらをかく。しばらくすると、視界にぽわっと別の景色が混ざり込んだ。
変な感じで、目をパチパチする。
湿原がぱあっと目の前に広がった。見覚えがある。これ、お泥さまの水脈だ。
筏が目の前にあって、そこにきれいな模様の肩掛けをしたエステルが、あぐらをかいてる。
こっちを見て、何か話してるみたい。
次の瞬間、エステルは湿原の中に飛んでいって、水面に落ちてた。筏から、誰か飛び込むのが見えた。髪の色からすると、きっとドミティラ。
何、この映像?
――エステルがようやく泥の前に出られるほど、元気になったそうじゃ。泥が喜んで投げ飛ばしてしまったらしい。
竜さまからの衝撃の事実。
「え? エステル、大丈夫??」
――泥も心得ておる。案ずるな。
お泥さま、投げ方が上手なのかな?
また、ふわりと景色が変わって、ルピタが踊ってる。ビックリしたのは、後ろでプラシドも踊ってることだ。
「わー! ニーノ! プラシド踊ってるよ!」
ゆっくりした踊りだけど、支えなしに立って踊ってるなんて、すごい。
「まったく……」
ニーノはちょっと眉をひそめて、すぐに無表情になる。
――みな、ずいぶん元気になったようじゃ。泥からニーノに礼をと。
ニーノは頭を下げた。
「エステルとプラシドの力によるものです。おめでとうございますとお泥さまにお伝えください」
――よかったのう、ニーノ。
金の目がすうっと細まる。それを見上げて、ニーノはゆっくり頷いた。
――エーヴェ。ルピタがエーヴェに負けぬよう、歌を作っておるそうじゃ。
竜さまの目がこっちに向いて、ぴゃっと背が伸びる。
「タタン! 元気ですか! 何の歌作ってるの?」
――さて、泥はまだ聞いておらぬ。
お! それは、きっとお泥さまの歌だ。お泥さまは偉大の歌! 今度会ったら、聞かなくちゃ!
――ジュスタもまた来て欲しいと言っておるぞ。
ジュスタが眉を下げる。
「きっと染めの件ですね……。まだちゃんと見てないから、確かめておきます」
ジュスタは最近、ずっとガラスの物ばっかり作ってたもんね。
「りゅーさま! 次はりゅーさまも一緒に行きたいです!」
――それがエーヴェの望みであったな。うむ。わしが忘れぬように、エーヴェが覚えておくのじゃ。
「はい! エーヴェ、覚えとくよ!」
お屑さまと竜さま、邸のみんなで行きます!
そこで、ニーノから見えない位置に隠れているペロと目が合った。
「ん? ペロはどうですか? 一緒に旅しますか?」
鉢をこんこんする。
音に一瞬固まって、ペロはリラックスモードになった。
やっぱり、何を考えてるか分からない。
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