1.ジュスタ、腕を振るう
章のタイトルをいつも迷います。
新章もよろしくお願いします。
竜さまの洞にペロを置くのはニーノが反対したから、邸のメンバーがお屑さまとペロをくわえて、六人になった。
水たまりで大きくなったペロはだんだん小さくなって、次の日には元のサイズ。
ふくらむのも限度があったみたいだけど、結局、バスケットボールサイズがペロの大きさみたい。
「ペロ、これはどうかな?」
ジュスタがペロに直径十センチくらいのガラス製ボールを作ってあげて、ペロはお屑さまを吐き出した。今はボールをくわえている。
ペロは竜さまと関係がある物とくっついていると安心するみたい。ボールは赤ちゃんのおしゃぶりなのかも。
……でも、たぶん、ペロもお屑さまがうるさかったんじゃないかな?
お屑さまは寝てるとき以外はずっとしゃべってるから、お腹の中にいたらぐったりしそう。
「お屑さまは、どこにいても話しますか?」
聞いてみると、お屑さまはぴこんぴこんする。
――何を聞いておるか分からぬぞ! 招いた者は皆、わしの話を待っておろう! いつでも誰とでも話すのじゃ!
「お? 岩とか水とかとも話しますか?」
――招いた者はすべて公平じゃ! 当然、皆に話しておるぞ! わしに会えた栄誉に浴するのじゃ。ぽはっ!
「狼のお腹の中にいても、狼と話しますか?」
――当然じゃ! まぁ、だいたい三日もすれば、はらわたより外に出されるのう。聞き分けが良いのじゃ。
……? それって、うんこで出てくるってことかな?
「お屑さま、きたなーい!」
鼻の頭にしわを寄せると、お屑さまは激しくぴこんぴこんした。
――きたない? 汚いのことであるか? このわしが汚いわけがあるまい、痴れ者め! この美しき身体を見よ! 童のくせにもう目が見えぬのか。あわれな! ぽは! はらわたの中を通るのは、知らぬ物をたくさん見るゆえ面白いのじゃぞ! まあ、わしを食う痴れ者などそう多くはないが、大口どもはすぐに食い誤るのじゃ! 泥も大口じゃが、あやつはわしを吐き出しおったわ! せっかく泥の腹の中を見る機会だったものを!
お泥さまのお腹の中にも入るつもりだったのか。つまり、お屑さまは誰にも消化できないんだ。すごい!
――泥はまったく、話し下手でいかん! わしが十を話すのに、一返せば良いほうじゃ! 泥の上でひなたぼっこばかりしおるから、知恵が溶けてああなるのじゃぞ! 童もひなたぼっこには気をつけるのじゃ! こりゃ! また口が開いておる! まったく何度も同じ事を言わすでない! 無駄口が増えてかなわぬ!
んっと口を閉じるけど、やっぱりお屑さまはおしゃべりが止まらない。
ペロはボールを身体の中に入れて、すばやく足(?)を波立たせて移動する。眠るときは食堂に置いた鉢に戻る。でも、ときどきガラスの鉢をかぶって、よろよろ移動していた。
それを見たジュスタが軽い鉢を作ってあげると、気に入ってよくかぶるようになった。今度の鉢は金魚鉢みたいに丸くてかわいい。でも、ニーノに近づいて行くときは、重い鉢を選んでる。
「やっぱり重いほうが安心するのかな?」
製作者のジュスタは気になるみたいだけど、ペロは何考えてるのか、やっぱり分からない。
分からないけど、ペロはとってもジュスタに懐いてるみたい。近くを通ると、一生懸命ついていこうとする。
ジュスタはちょっと困ってる。
「工房は危ないから、入らないようにね」
工房から外に出されたペロは、扉にぺとっとくっつく。工房の中には珍しい道具があるから、いろいろ確かめたいのかも。
「ペロが刃物を食べたときはビックリしたけど、水だからか切れないんだよ。不思議だね」
切れなくても、ペロの中で鎌やナイフが浮かんでるとぎょっとする。変な所で刃物を吐き出すのも危ないから、ジュスタはペロを工房に入れたくない。
ジュスタと鍛錬に行くときに竜さまの鱗を背負うと、ペロもついて来ることがある。一緒に散歩してる気分でとっても楽しい。だけど、ペロの動きばっかり気になってしまう。ペロが迷子になっても困るので、竜さまの鱗を持って行くときは、ペロに気づかれないようにすばやく出発するようにした。
外に出たお屑さまは、宿り木問題でしばらく食堂の天井あたりでふわふわしてた。一応、ぴこぴこで移動できるけど、風がないとやっぱり漂ってるだけだ。
ジュスタは最初、小鳥が止まるような宿り木を作った。でも、棒に尾を絡めるより、輪に尾を通すほうがいいと相談して、穴の開いた宿り木を作成。お屑さまと一緒に歩きたいから穴が開いた杖を作って、さらに、移動しやすいように改良している。
「お屑さま、ジュスタ、すごいよね!」
止まり木の輪に尾っぽを引っかけたお屑さまを眺めて、うきうきする。
――まったくじゃ! 新しい物を作るのは大変なことであるぞ! そして、工房とやらにはわしの知らぬ物がたくさんあるに違いない! 早く見に行くのじゃ! 今、童が連れて行ってもよいぞ! 遠慮は要らぬぞ!
ぴこんぴこんのペースが速い。
むー。でも、またお屑さまから手を放したら危ない。しれものになってしまう。
「お屑さまが行った所に、物を作ってる人はいますか?」
――おるぞ! 人は非力ゆえ、道具で力を補いよる。完全な竜には思いもよらぬことじゃ。愚行を見るのは面白いぞ! ぽはっ!
「それは、他の竜さまの座ですか?」
――竜の座以外で生きておる人間はまあ見かけぬ! わしらがおらねば、お主らなぞチリじゃからな! 北は人間が多い所もあるゆえ、座からあぶれる者もそのうち生まれるやもしれん。さりとて、あぶれて愚行を始めるのは破れかぶれもいいところじゃ。
「お屑さまも座がありますか?」
――当然じゃ! わしは力ある竜じゃから、座があるぞ! しかし、付き人は一人だけじゃな! 座に庇護は残しておるが、わしはあまねく場所におるゆえ、座にかまけてはおられぬのじゃ。
「付き人がいますか!」
お屑さまの付き人、いったいどんな人だろう。
このトークにちゃんとついて行ってるのかな?
「北は人がたくさんいます。エーヴェ、お屑さまの座も、北の竜さまの座も行きたい! 行けるかな?」
――当然じゃ! 誰でも行きたい所に行けるのじゃ! そもそもお主らは意図した方向に進む特技をもっておろう! なんと余裕のない! あわれじゃな! ぽはっ!
「……おお?」
お屑さまは励ましてくれたのかな?
ぴこんぴこんしているお屑さまは、ペロとは違う意味で何を考えてるか分からない。
「――お屑さま、ちょっと見てください」
ジュスタが食堂に入ってくる。手に輪が見えた。
なんと、尾を通す場所をつけた腕輪!
「おお! ジュスタ、すごいです!」
――なんじゃ! 面白いぞ!
腕輪に尾を絡めたお屑さまがぴこんぴこんしても、腕輪には影響ない。
「これで、お屑さまと一緒に鍛錬に行けるだろ?」
「はい!」
しれものになりません!
――よいぞ! では、今すぐ、工房とやらに向かうのじゃ、童!
「はーい!」
「工房?」
きょとんとしたジュスタの腕を引いて、工房へ向かった。
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