21.正式なお客さま
9/16より、投稿時間が不規則になります。
現在は毎日18時投稿を目指していますが、今後の状況を見て、投稿時間、間隔を含めお知らせします。
――しかし、こやつはなんじゃ! わしの知らぬもので驚いたぞ!
洞に向かう道道、お屑さまは相変わらずしゃべっている。
右手でペロを持って、ニーノは悠然と歩く。
「七万日以上前に、竜さまから唾液をお預かりして発酵させたところ、ペロが生まれました」
――ぽはっ! なにゆえ発酵などと考えたか。竜涎酒に憧れたか、痴れ者め! む、いや! お主は治療に熱を入れておったな。薬を作る心づもりじゃったか、ぽはっ! ぽはっ! この座の生き物はお主が怪我を治すと言うからな。まったくのおせっかいじゃ! 山もよう許したのう! あや? じゃがおかしいぞ! これは谷底におった! ニーノ、お主、たばかったかー!
お屑さまは一人で二人分話してる。
……りゅうぜんしゅって何だろう? ニーノがしれもの?
「お屑さま、谷でこれをご覧になりましたか」
――当然じゃ! わしは物を知っておる。ぽはっ!
「生まれた直後、邸から逃げました。行方が分からず、ほんの数日前、姿を現し、ペロと名付けたところで……」
――ふむむ! ニーノ、これをおびやかしたであろう? これはお主を怖がっておるぞ!
「おびやかすつもりは」
――うかつな! あらゆる生き物にとって、自由がないのは恐怖じゃぞ! 今も怖がっておる! ぽはっ! いい気味じゃ! ぽはっ!
お屑さまは、怒ってるのか面白がってるのかよく分からない。
――しかし、動けぬとしゃべりにくくて難儀じゃな。
「そんだけ、しゃべれてりゃいいでしょ」
システーナのツッコミに、思わず頷いた。
こぉおおおお――こぉおおおお――
洞に近づくと、いつもは聞こえない音が聞こえてくる。
――ぽはっ! 寝ておるな! 不完全な竜の寝息じゃ!
洞の入口からのぞき込む。森にはたくさん吹き溜まりがあったのに、洞の床には小枝一本落ちてない。水たまりもほとんど乾いてる。
ニーノが掃除したのかな?
竜さまは羽の外に首をめぐらせて、眠っていた。
「りゅーさまー!」
声をかけて近づくけど、寝息は乱れない。ふと、角で羽の付け根辺りをかいて、また頭が床に戻る。気持ちよさそう。
「お屑さま、申し訳ありませんが、少し時間をおいて……」
――山! 山よー! わしが来たぞ。早う目を開けぬか! 大風で遊んだごときで、昼過ぎまで眠りこけおって!
ニーノの声に被せるようにお屑さまが叫ぶ。
「まー、お屑さまだからな」
システーナがあっけらかんと言い放った。
その間にも、お屑さまは竜さまを起こそうとしている。
――騒々しいと思えば、なるほど。
金の瞳が開いて、竜さまは首を起こした。
――珍しい客じゃ。近くを通っておるのは感じたが、久しぶりじゃな。
――山よ! 久しぶりじゃ! 童が招くので来てやったぞ! しかし、大変なことなのじゃ、何とかせい。
しばらくペロのほうを眺めて、竜さまはあくびをした。
ふごおおおっと、すごい音がする。
――ふむ。大変なこととは……うむ? 水玉はどうしたのじゃ?
「りゅーさま! 水玉はペロって名前になったよ! 水たまりの中で大きくなっちゃった!」
――まったく、竜にゆかりの者とはいえ、わしを捕らえるなど許されぬぞ! 早く出すのじゃ!
声が重なったあとで、ニーノが落ち着いて言う。
「この水玉をペロとして座に迎えることにしましたが、お屑さまを飲み込んで出しませんので、竜さまのお知恵をお借りしたいと」
竜さまは首を傾ける。
――ペロがおびえておるゆえ、下に置いて良い。
「はい、失礼いたします」
ニーノが鉢を床に降ろすと、スポンジになっていた部分が炭酸みたいにしゅわっと弾けた。少しかさが減って、ぷるんとした水玉に戻る。
しばらく固まったペロが、慌ててうごめき始める。
鉢ごとひっくり返って、竜さまの足下に移動した。前肢の爪の後ろに隠れる。
――ぎゃー! なんじゃー! 揺れるー!
お屑さまの声も、すささと移動していく。
――それで、何が大変なのじゃ?
――見て分からぬか! 外に出られぬじゃろうが! 身体が動かぬゆえ、しゃべりにくくてかなわぬ!
――わしらの声は、身体を動かして発するものではあるまい。屑は来ても長居できぬ質。ペロの中ならば、長逗留もたやすかろう。
一瞬、沈黙が流れた。
――ぽ! 確かに招かれた場所、ゆるりとせねば招いたお主らに悪い! しかし、ぴくりとも動けぬのは、大変なことじゃぞ!
ふっと竜さまは鼻息を吹いた。
――確かに難儀であるな。ペロはまだ赤子ゆえ、気変わりが読めぬ。出さぬのも、ふいに出すのも困るところじゃ。しかし、屑にとっては一日二日の滞留など、よくあることではないか。
――ぽは! まったくじゃ! 今も三千日は海流におるし、狼の腹にもおる。珍妙な水玉の中におるのも、経験じゃな! ぽはっ!
……お屑さま、何言ってるのか、さっぱり分からない。
――ならば、ゆるりとしてゆけ。エーヴェは世界を旅したいと言っておる。屑の話は面白かろう。
「お? エーヴェですか?」
お屑さまの独特な笑い声が聞こえる。
――童は世界を旅するのか! 身の程を知らぬな! わしの話をありがたく聞くが良いぞ! しかし、ペロのおびえが収まらねば、どうにもならぬ! お主ら、少し離れおけ! とくにニーノじゃ!
「承知いたしました。では、大風の片付けに戻ります。竜さま」
ニーノは竜さまに頭を下げ、振り返る。
「貴様らは昼食と片付けだ。行くぞ」
お屑さまの声がぎゃんぎゃん聞こえる。気になるけど、ニーノに視線を向けられて、システーナに抱え上げられ、しぶしぶ邸に戻った。
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