表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

130/300

20.逃げられない!

9/15タイトルを変更しましたが、本文に変更ありません。

 ――や! これは、いつか谷底にいた水玉ではないか! しかし、思念を持ち合わせておるぞ!

 お屑さまはぴこんぴこん激しく動く。

「ペロは最近、邸に来たよー」

 水たまりの中のペロは、葉っぱや小石を取り込んだり吐き出したり。とくに困ってなさそう。

「でっかくなっただけみてーだな」

 安心した顔で、システーナがペロのわきにしゃがみ込んだ。

 こんこん、とガラスの鉢を叩かれて、ペロは一瞬固まる。すぐにリラックスモードになって、ペロがゆらっとシステーナに触れた。


「あ!」

「わ!」

 ――あば!


 瞬く間に、ペロがシステーナの手ごとお屑さまを覆ってしまった。


 ――大変なことじゃ! 大変なことじゃ!

「こ、こら、ペロ放せ! いたた!」

 お屑さまからペロをはがそうとした右手を、ペロが覆ってぎゅっとしたみたい。


 ――システーナ! お主は手を放すのじゃ! これはわしを招いておるが、お主は招かれておらぬ! しかし、大変なことじゃ!

「――仕方ねーな」

 システーナがお屑さまから手を放すと、ペロはお屑さまを覆ってよろよろ水たまりの外に出る。

「おくずさま! 痛くないですか!!」


 ――なんじゃ、こやつは? 喜んでおる。竜にゆかりの者じゃな? しかし、大変なことじゃ!


 さっきまでぴこんぴこんしてたのに、ペロの中ではお屑さまは動けないみたい。

「なんとか吐き出させねーと」

「おくずさま、息できる?」


 ――わしは呼吸も食事もせぬぞ! わしが己以外の力を借りねば生きていけぬ不完全な竜に見えたか? まったく動けぬが、特に支障はない! しかし、まったく動けぬ! 大変なことじゃ!


 お屑さまは、だんだんとガラスの鉢の中に移動していく。なんだか、押し花みたい。

「お屑さま、ペロは竜さまのよだれからできてて、竜さまがすっげー好きなんだよ。お屑さまも竜さまだから、大好きなんじゃねーか」


 ――なんじゃそれは! 聞いたこともない珍妙な話ではないか! たしかに、こやつから害意はまったく感じぬ。というよりも、何の思念もない! あほうじゃ! これは大変なことじゃ!


 お屑さまがぎゃんぎゃん言ってるのに、ペロはすっかりリラックスしてる。

 鉢の中では、動けないお屑さまがゆっくりと回ってる。

「……ぶっ! これ、すげえおもしれえ!」

 システーナが爆笑して、ガラスを叩いた。


 ――こりゃ! やめよ! 音が響いておるぞ! まったく何の面白いことがあるか。しかし、動けぬのに見える風景が変わっておる! 大変なことじゃ!

「ペロー! 竜さまが大好きでも覆っちゃダメですよ! 出して!」

 ――そうじゃ! 出すのじゃ!


 ペロがゆっくりと邸の入口へ進み始めた。

 むー。ただの水玉は何を考えてるのか、さっぱり分からない。

 システーナは立ち上がって、頭の後ろで両手を組んだ。

「しかし、あたしら、ペロに言うこと聞かせたって一回もねーんすよ。ペロが出したくならなきゃ、出さねー気がすんなぁ」

 とりあえず、ペロと同じ方向へ進む。


 でも、ペロが動きを止めた。急に逆方向へ、さっきの倍くらいの速さで動き始める。

「ペロ?」

「貴様ら、さっきから何を騒いでいる」

 邸から、ロープや杭を抱えたニーノが出て来た。どれも貯水槽を補強した道具だ。

 ペロを振り返る。

 速い! 森の近くの岩へ向かっている。


「おお、ニーノ、良い所に!」

 ――およ? こやつ(おび)えておるぞ! 何が起こったのじゃ!


 システーナとお屑さまと、どっちの声が先に聞こえたのか分からない。

 ニーノが軽く目を見張る。荷物を捨てると、大股にペロを追った。

 私も慌てて後を追う。

「ニーノ! ペロがおくずさま食べちゃいました!」

 ニーノが、がしっと鉢底をつかんだ。

「ペロ、貴様、何をしている」

 ペロが薄く伸びてニーノの手を覆う。

「――あれ?」

 不思議な物が広がっていく。

 ペロを中心に、空中にスポンジができるみたい。

 ニーノは全然痛くなさそう。


「お屑さま、お久しぶりでございます。座の者が失礼いたしました」

 ――ぽはっ! ニーノではないか! 久しぶりじゃ! わしは初めてじゃが!

 ニーノは鉢を持ち上げる。

「お屑さま、申し訳ありません。私もすぐさまペロ(これ)からお出しすることができません」

 ――動けぬ以外は支障ない! 案ずるな! しかし、早く出すのじゃ! 大変なことじゃ!

 スポンジはどんどん大きくなって、ガラス鉢にかすみ草を生けたみたい。

「なんだ? ニーノそれ、どうなってんだ?」

 ――ぽはっ! ぽは! こやつも怖がっておるぞ。良い気味じゃ!

「表面積が大きければ、それを覆うペロ(これ)の圧力は弱まります。()(こう)の空気を張りめぐらせました」

 ……どういうこと?

「まーた、よくわかんねーことしてんなー」

 システーナも鼻の頭にしわを寄せている。

「お屑さま、竜さまの洞へご案内いたします」

 ――うむ、しかと案内せい!

 まだ身動き取れないけど、お屑さまの声は嬉しそうだ。

評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。

是非、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] お屑さまの話し方が癖になりそうです。どうということはない、しかしどうということはある。どっちだ?となりますが口癖の大変なことじゃ、前の言葉が本音みたいですね。 ニーノからすざささと逃げるペ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ