表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

128/300

18.吹き寄せ

「17.ガラスヤドカリ」を加筆しています。(9/12)

再読後、こちらを読むことをおすすめします。

 森の中、岩影や茂みに、たくさんの緑の葉っぱと小枝が吹き寄せられている。木の葉や草には雨の(しずく)が残ってて、荒れているのにさっぱりした気分。いつもは光を浴びてふっくらしている茂みが、雨や風でへしゃげて隙間が増えたせいかな?

 水たまりやぬかるみをシステーナと踏み荒らしながら、進んでいく。

 いつもの道に木が倒れていると、システーナがえいやっと()()を振るって細かくして、斜面側に捨てた。

「本当は体当たりでいーんだけどさ、それだと被害が増えるってニーノが怒んだよー」

「体当たり! 見たいです!」

 両手を上げると、システーナが目をキラキラさせる。

「だよなー! いい倒木があったらやってやっから」

 残念ながら、システーナの体当たりにいい木は倒れてなくて、山刀を使ったり、ひょいひょい投げたりで道は整っていく。

「これは北西から風が吹いたなー。きっと、竜さまのうんこが邸側に吹きつけてっぞ」

 システーナがケタケタ笑う。

「おお、きっときれいです」

 白い砂が流れ込んでた川底の景色を思い出す。あとで様子を見に行かなきゃ。


 木をのけたり、水たまりで遊んだりで、サンダルも服の裾も泥だらけになる。

「洗いに行きますか?」

 いつもは、森の間を抜け、水辺を過ぎ、岩を登って邸に戻る。でも、今日は早く帰るように言われたから、どのルートになるか分からない。

「昨日の大風は雨が降ってたから、水辺はあぶねーな。今日は止めとこう」

 川が増水してるのかな?

「エーヴェ、ちょっと、川、見たいです!」

 システーナは片眉を上げて、手を握る。

「じゃあ、ちょーっとだけ見てみっか」


 システーナの足にしがみついて、ぴょーんと移動する。高木の大きな枝から、いつも水遊びをする沢を見下ろした。

「おわー! 灰色です!」

 いつもは透明で、水底の石がくっきり見えているのに、今は灰色に濁っている。見慣れない大きな木や岩がいた。

「この水はどこから来ますか?」

「おちびはまだ行ったことねーか。東側に水が湧くとこがあんだよ」

「ほー」

 システーナが指さす。木の屋根の向こうに、白い岩山がちらりと見える。

「岩が(もろ)いかんな。もう少し足が強くなってから、見に行こうな」

「はい! 行きます!」

 ぴょん、ぴょんと木の枝を飛び移って、川の上にさしかかった枝に降り立つ。


 ごー――うごーう


 近くなると、いつもと違う川の音だ。

 一晩で、こんなにたくさん降ったのかな。

 きょろきょろ見回す襟元は、システーナにがっちり押さえられてる。

「な、あぶねーだろ? おちびなんて『あ』の間にあの岩まで行ってるぜ」

「おおお」

 大きな岩を見て、システーナにしがみつく手に力を込める。

 絶対、落ちちゃダメだ!


「見たから、もーいいか?」

 システーナがぐっと胸を反らす。うんうん、と首を動かした。

「いーよ!」

 でも、システーナが、ぐっと力を込めたとき、変な音が耳をかすめた。

「わー! シス! 待って待って!」

「ん? どした?」

 システーナが力を抜く。

 システーナの足から降りたから、慌てて手を握られた。一瞬聞こえた音を探して、辺りを見回す。

「エーヴェ、なにか聞こえました!」

「何か? ――ふーん?」

 水の音とは、全然違う音。

 竜さまの鱗を持ってくればよかった。

 目を閉じて、耳を澄ましてみる。


 ――おぼぶっ


「あ!」

 声が揃った。システーナを見上げると、力強い頷きが返された。

「いるな」

 ひょいと抱え上げられる。

 システーナは音の方向が分かったみたい。迷いなく下流に向かった。

 大きな岩に降り立って、システーナはしゃがみ込む。

 岩の間を木がせき止めて、水が盛り上がって流れている。

「おちび、動くんじゃねーぞ」

 強く言われて、岩の上に降ろされた。

 システーナは隣の岩にも足をかけ、流れをのぞき込む。

「まーったく、こんな所に……」

 流れに両手をさし込んで、ゆっくりと何かを引っ張り出した。

 長い枯れ葉みたい。(あし)かな?

 戻ってくるなり、システーナはぴょーんと川を離れた。


「シス、それなんですか?」

 しっかりした地面に着いて、葉っぱをのぞき込む。

「ほら、ここ持って」

「はい」

 手渡されたのは三十センチくらいの平たいもの。なんだか、乱雑に切られた黒キクラゲみたい。

「お(くず)さまー! もー水からは出たぜー」

 きょとんとして、システーナを見上げる。

「おくずさま?」


 ――ぽ!


 勢いよくキクラゲが起き上がった。

「わ!」


 ――あば! あぶあぶ! 大変なことじゃったー! 流れに巻き込まれておったー!


「見りゃ分かりますよ。なーにやってんすか」

 腰に両手を当てるシステーナに、キクラゲはかぷかぷ動く。


 ――お主、システーナじゃな! わしは初めてじゃが、久しぶりじゃ。およ? そなたは知らぬ。ああ、いやいや、この座の(わつぱ)なら、エーヴェじゃな。わしに会えて光栄じゃろう! さて、尾を放さぬか!


 口がぽかーんと開いた。

 ぺらぺらの身体だけど、よくよく見たら、角や牙がある。背中にはとげとげもある。角も牙も黒くて、羽も足もない。

 ……もしや、これは(こう)(りゆう)

 でも、蛟竜は水の竜。溺れたりしない。


「エーヴェ、尻尾放すんじゃねーぞ。お屑さまはすーぐ飛んでっちまうからな」

 ――なんと! 無礼じゃぞ!


 私が()まんだ尻尾を中心にかぷかぷ動く様子は、風船のヒモを引っ張る動きに似ている。

「……竜さま? おくずさまは、竜さまですか?」


 ――ふがー! この姿を見て竜と分からぬか! ()(もの)め!

「しれもの?」

 ――そうじゃ! 小さくとも美しきこの姿を見よ!


 お屑さまはぴこんぴこん動いている。

「大風で飛んで来たってなら、寄ってってくださいよ。竜さまもニーノも喜びます」

 ――む? ふむむ、朋友に会うも悪くない。であれば、エーヴェ、しっかり尾を握っておれ!


 顔をこちらに向けて、ぴこんぴこんするお屑さまにぽけーっとしてしまう。


 ――こりゃっ! 口を開けたままでは、邪気が入る! 返事して、閉じよ!


 ぴんと背が伸びた。

「はい!」

 返事して口を閉じると、お屑さまは満足げにぴこんぴこんした。

評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。

是非、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 雨上がりの森、さっぱりしてキラキラ綺麗です。なんというか雨上がりの清々しい空気を吸った気になりました。 そしてよもやの新しい竜さま!!!! 尊大さが逆に愛嬌たっぷりのお屑さま!!!! ちま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ