表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

127/300

17.ガラスヤドカリ

今回は短めです。

9/12、加筆修正しました。

 大風の中、(ほう)(こう)があっちから聞こえ、こっちから聞こえする。

 竜さまが飛んでいるのかとそわそわするけど、雷の音が怖いので、システーナの膝の上に移動した。

「りゅーさま、飛んでるのかな?」

「強い風は翼を広げただけで飛べるんだって。前に竜さまがおっしゃってたよ」

 ジュスタはにこにこするけど、ニーノは少し表情が険しい。

「あまり遠くまで行かれないといいが」

 システーナが爆笑する。

「いつだったけー? 楽しくなって砂漠まで飛んでっちゃったことあるもんな、竜さま!」

「あのときは、二日も戻られなかった……」

 ニーノは溜め息混じり。ジュスタが瞬いた。

「へえ、そんなことがあったんですか?」

「りゅーさま、大丈夫?!」

 システーナを見上げると、しっかり頷いてくれる。

「だーいじょうぶ。おちびがいるから、そんなに遠くまで遊びに行かねーよ」

「そうなの?」

「今朝も一度お話しした。大事ない」

 ニーノも頷いたので、ほっとする。

 システーナの(そば)は特別あったかい。だんだんうとうとする。

「そーいや、ペロって夜動くんじゃねーの? ずいぶん静かだな」

「ジュスタの器が気に入って、居心地良くしているのだろう」

「だったら、いいんですけどね」

 ジュスタがガラス鉢から落ちた布を、もう一度かけた。


 いつ眠ったのかは覚えてない。

 大風の翌朝、まだ窓はふさがったままだけど、邸の扉が開いていて、食堂に日差しがさし込んでいた。

「お天気になりましたー!」

 外に飛び出す。葉っぱや小枝が水たまりに浮いて、空はつやつやの青色だ。

「ああ。大風のあとは空がぴかぴかなんだよ」

 システーナが伸びをして、周りを眺めている。

「鍛錬が楽しみだな」

「はい!」

 森もきっと、いろいろ変わっているだろう。

「貴様ら、朝食だ。早くしろ」

 ニーノに呼ばれて、邸に戻る。


「ほら、ペロにやれ」

 朝食後、ニーノから水の入った器を受け取った。

 テーブルの上にいるペロを引っ張り寄せようとしたけど、動かない。

「おう……重いです」

 ペロは、バスケットボールくらいある。もともと水だから、重い。さらに、身体が収まるガラスの鉢で、四キロくらいあるかも。

 諦めて、自分が近づいて水をかけた。

「ペロー、どうですか? お水ですよ!」

 ペロにかかった水は、じわーっとにじんで吸いこまれていく。

「……不思議です」

「おや、大きくなってるね」

 いつの間にか隣で鉢をのぞき込んでいたジュスタも、目を丸くしている。

 ペロの身体は、鉢の縁からあふれ出た。普通の水ならこぼれ落ちているのに、時が止まったみたいで、変な感じ。

 ペロはしばらくうぞうぞしてたけど、薄く身体を伸ばして鉢を覆う。ぐるりとひっくり返って、鉢を持ち上げた。

「おおお! カタツムリみたいになったよ!」

 どちらかというと、ヤドカリかな?

 鉢に身体を入れたまま、ちょっとよろよろしながら移動する。

「すごいね、ペロ。力持ちだ」

 にこにこしているジュスタに、ペロは近づいた。

 ジュスタの指を透明な膜が包む。

「お! ペロ! ぎゅってしちゃだめだよ」

「やあ、ペロ。俺はジュスタだよ」

 しばらくジュスタの指を確かめて、ペロは指を吐き出した。そのまま、リラックスポーズになっている。

「……お? ジュスタが好きなのかな?」

「これ作ったのが誰か分かってんじゃねーか?」

 ひょいと顔をのぞかせたシステーナが、ガラスの鉢を指で弾く。

 こーんと鳴った瞬間に、ペロはぴたっと止まる。

 音の余韻が消えた頃、またリラックスポーズになった。

「音が分かるのかな? ペロー、エーヴェだよー!」

 指で触ってみる。でも、ぎゅーっとされるのは嫌なので、つんつんするだけ。

 つんつんしてるうちに、ペロはちょっとこっちに近づいた。つんつんする物を探してるのかな? よろよろと揺れながら近づいてくる。

 テーブルの端に置いた丸めた拳まで寄って来て、ちょっと触った。

 でも、すぐに方向転換する。


 ペロはテーブルの縁をたどってうろうろしてる。

 テーブルから降りようとしているみたい。

「大丈夫? 重いですよ!」

 みんなが見守る中、ペロはちゃんとテーブルの脚を見つけて、地面に降りた。

 降りてから改めてジュスタを見つけ、足下にすり寄る。

「ペロは、やっぱりジュスタが好きなのです!」

「そうなのかい、ペロ?」

 ジュスタはしゃがんで鉢の底をなでる。

 ……ちゃんと、なでられてるのかな?


 ちょっとの間、鉢をゆらゆらさせてから、ペロは今度は部屋の隅っこに移動を始めた。

 意外と素早いけど、竜さまに駆け寄ったときほどじゃない。

 壁際で、かつんと鉢を壁に預け、動かなくなった。

「あれ? 大丈夫?」

「ペロー?」

 システーナがこんこん鉢をつつく。

「――やめろ。夜行性だと、竜さまがおっしゃっていただろう」

 ニーノの声にシステーナが頭だけ振り返る。

昨夜(ゆうべ)も静かだったのに、また寝たのか?」

「知らん。しかし、貴様らは鍛錬だ。今日も早めに戻ってこい。片付けがある」

 ニーノは大股で食堂を出て行く。忙しそうだ。

「俺は工房を見てきます」

 残ったシステーナと顔を見合わせ、にっかりする。

 大風のあとの森に、わくわく出発です。

評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。

是非、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ペロのうぞうぞ、もぞもぞ、よろよろが可愛らし過ぎてすっかり虜です。特別、竜さま由来の鉢をつくってくれたのがジュスタってわかってるのかなー?匂いがするのかもしれない、とあれこれ想像を巡らした…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ