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16.大風のさなか

遅くなりました。

「ぎゃー! ぬーれたぬれた!」

 システーナが駆け込んできて、邸の扉がしっかり閉められる。

「見て見て! 灯りです!」

 芯を油に(ひた)すタイプの灯りだ。テーブルの上や廊下の角に置かれている。

「初めて見ました!」

「そうか。普段は使わないからな」

 ジュスタがふわっと笑う。

 ゆらゆら揺れる炎がきれいで、ウキウキだ。

「窓があると見えるけど、ふさぐと真っ暗だからね」

「倒さないように気をつけろ」

 ニーノがご飯を並べている。早めの夕ご飯だ。


 食べている間に、外の音はどんどん激しくなっていく。

 木の板ががたがた震え、強い風が吹きすぎるたび、びょうと音が鳴る。

「すごいねー、ぶおんって音がする」

「そうだな。まあ、邸の中なら大丈夫だよ」

 頭の後ろで手を組んで、システーナは椅子をギイギイ揺らす。

「りゅーさま遊ぶって言ってました。これじゃ、見えないね」

「遊ぶ……無茶をなさらないといいが」

「へー、静かにしてたら、竜さまの(ほう)(こう)が聞こえるかもしれねーな!」

 眉をひそめるニーノとシステーナは対照的だ。

「ほうこう! 楽しみです!」

 ご飯を食べ終わっても、みんな食堂に残っている。

 片付けは終わって、まだ寝るには早い。暗くて作業もできないから、みんな食堂にいるみたい。


 水玉の鉢は布をもぐもぐして、ときどき吐き出してる。

「なんか、赤ちゃんみたいだね、水玉」

「こいつも竜さまの付き人なら、名前つけたらどーだ?」

 布をちょんちょん引っ張って遊びながら、システーナが言う。

「じゃあ、紙を用意しますか?」

「正式にやることもないだろう」

 席を立とうとしたジュスタをニーノがとめる。

「せいしき? 何かありますか?」

「――竜の付き人になる赤子には名前を選ばせる。だいたい二つから三つの名前を用意して、紙に記す。選んだ紙に書かれた名前を、その子どもの名前にする」

 ん? なんだか覚えがある。

「エーヴェも、エーヴェを選びましたか?」

「その通りだ」

「ニーノとジュスタが名前考えた?」

「そうだよ」

「あたしもちゃんといい名前だなって言ったぜー」

 システーナがテーブルに(あご)をのっけて言う。

「普段は話し合って名前の候補を決めるが、これに選ばせるのは難しいだろう」

 確かに、どうやったら選ぶことになるか、分からない。

「じゃあ、エーヴェが水玉に名前を用意します!」

 何がいいだろう?

 赤ちゃんと聞いて、ロペの顔が思い浮かぶ。

「んー。ろー――、ペロ!」

「ペロか」

「いいんじゃないかな」

「え、そんな簡単に決まっちゃうの?」

 別に適当に出したわけじゃないけど、ちょっと動揺する。

「名前なんて簡単なもんさ。そーだ、エーヴェはクレって知ってるか?」

「お! 知ってますよ。帰り道にニーノと食べました!」

 ブルーベリーみたいな味の木の実だ。

「あれは竜さまが名前をつけたんだぜ? ニーノがちっせえ頃になー、他の果物だと普通だけど、あの木の実だと『くれ』って動きをしたらしいぜ。だから、クレの木」

「え? ニーノ、クレの実好きですか?」

 振り返ったニーノは、ちょっと驚いた顔をしている。

「いや――。まぁ、確かに……?」

「あれ? ニーノ、知らないですか?」

 システーナが大声で笑う。

「へっへっへー、竜さまにこっそり聞いたからな! ニーノ、知らなかったのかよ!」

「そういえば、ニーノさんクレの実食べるとき、すごく集中してますよね」

「……そうか」

 ジュスタの言い分に、ニーノが首をかしげている。

 本人は気づいてないのかな?

「まあ、だから、名前なんて簡単でいいんだって!」

「直感も大事だからね」

「正直、それが聞いているかも分からん」

 うん。動く水玉だもんね。

「水玉、お前はどーよ?」

「ペロ! ペロー!」

 呼びかけてみる。水玉はぴくっと動きを止めた。

 しばらくして、またもぞもぞ布を引っ張り込む。

「ペロー?」

 システーナが呼ぶと、またいったん止まる。

「なんだか、分かってる気がしますね。――ペロ?」

 ジュスタの声に、水玉はぺっと布を吐き出して、しーんと止まった。

 そろっと布を持ち上げると、鉢からあふれそうにゆったりしている。

 リラックスモードかな。

「ニーノさんも、遠慮せずに呼んでみて」

「――それはおびえるだろう」

 ニーノはちょっと眉根を寄せた。

 そうか。水玉がいるときニーノがちょっと離れてたのは、怯えさせないようにだったのかな。今も、いちばん水玉から離れたところにいる。

「とりあえず、ペロで呼んでみればいい。様子見だ」

「おおお! ペロだよ!」

 システーナの真似をして、テーブルに顎をのっけた。


 ――バッシーン!


 とどろいた音に首をすくめる。

 そっか、光が入ってこないから、雷が分からないんだ。

「か、雷だよ! 近い!」

「そうだな」

 ニーノが落ち着いて言ったとき、また、すごい音が響いた。

 聞いたことのない、大きな音。

「お、おお? なに?」

 隣のシステーナにくっつくと、システーナはにやにやしている。

「竜さまの声だよ」

「え!」

「どきっとしますけど、竜さまがご機嫌だと思うとやっぱり嬉しいですね」

 ジュスタもにこにこしている。

「――そうだな」

 ニーノが天井を見上げたとき、ふたたび竜さまの咆哮が響いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] クレの実の名付けエピソード、ほっこりしますね。竜さまがニーノをとっても慈しんでいる様子が目に浮かぶ。竜さまとニーノの旅が垣間見れて得した気分です。 ペロ、覚えやすくてかわいい。布をもぞもぞ…
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